2018

05/07

話を聞き、病院を紹介し、患者さんを支える

  • インタビュー

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線維筋痛症(Fibromyalgia)という病気をご存知だろうか。痛みの激しい病気で、患者数も決して少なくないのだが、認知度は低く、一般に治療が難しいとされている。患者会である「NPO法人線維筋痛症友の会」の理事長を務める橋本裕子氏は、子どもの頃から原因不明の痛みに苦しんできた患者の一人。より多くの人に理解してもらい、患者さんが前を向いて生きられるように支援している。

ドクターズプラザ2018年5月号掲載

全身が痛む線維筋痛症は複雑に絡み合っている!?

症状も原因も人それぞれ。オーダーメイド治療が必要

―線維筋痛症とは、どのような病気なのでしょうか。

橋本 全身的慢性疼痛疾患で、体のある部分、あるいは全身や広範囲が痛む病気です。痛みの程度は軽度から激痛まであり、痛む部位が移動したり、天候等によって痛みの程度が変化したりすることがあります。耐え難い痛みになって日常生活に支障を来すことも多いです。症状には個人差があり、こわばり感、倦怠感、疲労感、睡眠障害、抑うつ、自律神経失調、頭痛、過敏性腸炎、微熱、ドライアイ、記憶障害、集中力欠如、レストレスレッグス症候群などが伴うこともあります。死に至る病気ではありませんが、重症化すると、爪や髪への刺激、温度・湿度の変化、音など軽微の刺激でも激痛が走るようになり、自力での生活が困難になってしまいます。重症化させないことが非常に重要なのですが、一般的な検査をしても異常が見られないため、適切な治療を受けることができず、周囲の人の理解も得られないなど、長い間苦しんでいる方も少なくありません。一方で、きちんと治療すれば軽快を望める病気なので、難病指定はされていません。

―患者さんはどのくらいいるのでしょう。

橋本 厚生労働省が2003年に設立した線維筋痛症研究班が実施した、リウマチ専門医へのアンケート調査や、その後に行われた住民調査等から、患者数は約200万人(日本の人口の約11.7%)、そのうちステージ4、5の重症患者は15%、約30万人と考えられています。まれな疾患ではなく、日本以外の先進国でも、ほぼ同程度の発症頻度と推定されています。線維筋痛症は男性よりも女性に多く、特に中高年の方に多い病気です。そのため自律神経失調症や更年期障害、不定愁訴など、他の病気と診断されてしまうことも少なくありません。

―何が原因で発症するのですか。

橋本 「これ」という一つの原因があるわけではなく、人それぞれ複数の原因が複雑に絡み合っていると考えられています。身体機能の低下により無理が重なっている、つらい状況下で精神的な負担が大きい、不自然な姿勢(仕事や身体の癖)などで筋肉の凝りが続いているなど、継続的な精神的・肉体的ストレス、また事故、手術等をきっかけに発症するのではないかといわれています。

―治療はどのように行われるのでしょうか。

橋本 痛みが主症状ではありますが、痛みだけを止めても解決しません。また、症状も原因も人によって異なる病気なので、オーダーメイドの治療が必要なのです。治療薬も現在では10種類ぐらい出来てきましたので、その人に合う薬を使いながら、発症した背景を探り、根本的な生活環境や精神状態を変えていかなければなりません。総合力と根気の必要な病気です。ただ、治せない病気ではありません。

―どの診療科を受診したらよいのでしょう。

橋本 リウマチ科を中心に、精神科、整形外科、ペインクリニック、心療内科などと連携を取りながら、その人に合う治療を見つけることになります。そもそもあまり知られていない病気で、2006年時点で線維筋痛症を知っている医師は38.2%しかいませんでしたが、2009年から医師国家試験の出題範囲に線維筋痛症が含まれるようになり、医師の50%以上が知ることとなりました。

会員数のべ約3900人。電話相談などを実施

―橋本さんが理事長を務めている「NPO法人線維筋痛症友の会」とはどのような会なのですか。

橋本 線維筋痛症は認知度が低く、医療・社会・行政の対応が遅れているため、つらい思いをしている患者さんの理解者を増やし、患者同士で情報交換ができるようにと、2002年10月に設立しました。横浜に事務局を置き、支部は北海道と仙台と大阪にあります。現在の会員数は、のべ約3900名ですが、そのうち1000名ぐらいはすでに社会復帰しています。

―どのような活動をしているのですか。

橋本 啓発や理解、患者さんへの情報提供などを目的とした発行物の作成、電話相談への対応、各地域での交流会が、活動の3本柱です。発行物では、線維筋痛症そのものを紹介するパンフレットや、療養の手引きの他、季刊の友の会会報が中心です。患者さん向けのリハビリやエクササイズをDVDにまとめたものもあります。私自身、今も患者の一人なので、自分のこれまでのことなどを記した本も出版しています。線維筋痛症の実態調査もこれまでに2回実施しており、その結果をまとめた「FM(Fibromyalgiaの略)白書」も発行しています。患者さん同士が話をする場である交流会は、とても効果があります。参加した方は、来た時とは別人のような明るい表情になって帰ります。

―電話による相談は多いのでしょうか。

橋本 多いですね。会の活動を始めてから、今年で19年目になりますが、多い時期は1カ月に約180件ということもあり、通算すると3万件以上になります。現在は落ち着いていますが、それでも毎日数件から10件程度の相談があります。相談内容の内訳は、病気、医師や医療機関、交流会に関するものが多いのはもちろんですが、最も多いのは「ただ話を聞いてほしい」というものです。線維筋痛症は精神的な問題も絡んでいることが多いため、精神科や心療内科の受診を勧められることもありますが、これらの診療科には抵抗感があるようで、それが話を聞いてほしいという相談に現れているのだと思います。痛みが激しいのに検査では異常がない、もっと悪くなるのではないか、家族に迷惑を掛けるのではないかなど、患者さんは多くの不安を抱え、精神的にも非常に苦しんでいます。薬が手助けしてくれる部分はあるとしても、最終的には患者さん自身が乗り越える覚悟をしなければなりません。そういう気持ちになっていただく支援が必要なのです。

―電話相談を受けた患者さんに、どういう気持ちを持ってもらえれば良いと思いますか?

橋本 電話相談等の経験から私が考えているのは、①理解され、受け入れられ、支援・支持されていることを実感する、②医療、リハビリテーション、服薬指導により、痛みがコントロールでき気持ちが安らぐこと、③適切な医療を受けているという「治療過程での納得感」を得ること、④自分の存在意義を再認識して自信と安心感を持ち、再出発を決意すること、⑤医療者、患者とも成功体験を知り、セルフマネジメントのイメージを持つことです。私はカウンセラーでもありますので、少しでも患者さんが安心して、気持ちをいい方向に向けられるように、と意識して日々対応しています。

多職種連携で、治療に当たることが望ましい!?

―橋本さんの場合は、どのように発症し、これまで治療してきたのですか。

橋本 最初の発症は4歳ぐらいだったと思います。あちこち痛いし、日光に当たっただけで鼻血が出て、全身が熱っぽくなって、だるい。原因も分からず、ただ体の弱い子なんだと思っていました。そういう状態なので小学生の時は、体育は全然できませんでした。中学校では格好良さに惹かれてテニス部に入り、県内ベスト16ということもあったのですが、17歳の時に足がひどく腫れて、痛みも非常に強くなりました。病院や難病研究所にかかったり、大学生になって東京に来てからも100カ所ぐらいの病院に行きましたが、どこも解決できませんでした。大学院を出てからは仕事に就きましたが、家で意識不明になって、3日後に発見されたこともありました。

でも何人かのとても親身になってくださる先生に出会うことができました。ある先生は、骨を削って顕微鏡で見るといった検査までしてくださいました。結局原因は分からなかったのですが、先生から「思い当たる限りのことはしたが、分からない。力になってあげられなくてごめんね」と言われた時には、すごく嬉しくて号泣しました。自分が線維筋痛症であることに気付いたのは、入院していた時のことです。当時は、まだインターネットの情報もあまり充実していませんでしたが、アメリカにいろいろな病気の相談を受けてくれるところがあるので、自分の状態をメールしてみたら、世界中から返事が来ました。そこで初めて「Fibromyalgia」を知りました。

その後、現在友の会で特別アドバイザーを務めてくださっている西岡久寿樹先生が、線維筋痛症について書かれた新聞のコラムを見つけて受診しました。それがきっかけで、西岡先生が医療からの取り組みを、私が患者からの取り組みをすることになり、今に至っています。

―現在の状態はいかがですか。

橋本 歩ける時は歩けますが、動けなくて寝ているしかない日もあります。でも歩けるようになったことは大きな自信になっています。入院中は寝たきりの状態でしたが、退院後もそれでは困ると思い、リハビリができる施設を探し、車椅子で通うようになりました。ただ、私の場合は体のどこかを誰かが触るのは無理なので、その施設の方が、触れずにできるリハビリを考えてくださったのです。そのおかげで歩けるようになりました。私自身の体験から、リハビリが効果的あることは分かりましたし、寝ている時もあるけれど、具合が良ければ歩けるということは誰にでも自信になると思います。

―今後はどのような活動をしていく予定ですか。

橋本 線維筋痛症を診てくださる先生がいる病院は、今の所270カ所ぐらいあります。制度や仕組みが整っていくことはもちろん重要ですが、まずは治療できる病院に通院できるようにしてあげることが重要かなと思っています。それが患者さんの希望になりますから。そのためには、私としては友の会の3本柱で、患者さんを支えながら社会復帰に向かえるように支援する活動を続けたいと思っています。個人に合った治療法が大切なので、時間をかけて患者さんの背景を聞きながら、手探りではありますが改善に向かっていける患者さんが増えるようにと思っています。