2023
05/18
薬剤師による医療行為は認められている?
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薬
株式会社メディカル・プロフィックス 取締役、株式会社ファーマ・プラス 取締役
一般社団法人 保険薬局経営者連合会 副会長
薬剤師のお仕事(17)
Contents
薬剤師の歴史
先日の業界向け情報誌で、内閣府の規制改革会議で点滴の側管からの注射薬の投与は、薬剤師でもできるのではないかという議論があったという記事が出ていました。
高齢化のピークである2025年が目前ですが、薬剤師の在宅医療への介入の期待が大きく、これまでもさまざまな指針が出されています。2015年には患者のための薬局ビジョンが厚生労働省より示され、薬局薬剤師の業務が薬という「物」中心の業務から患者「人」中心の業務への変換が望まれることがうたわれています。また、2019年には医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(通称:薬機法)が改正されて、薬剤師が調剤時に限らず、服薬期間を通じた患者の薬剤の使用状況の把握や服薬指導を行うことが義務化されました。一方、1992年の医療法改正により薬剤師が「医療の担い手」であると明記され、 2006年の医療法改正で、薬局が病院、診療所などと同様に「医療提供施設」と位置付けられています。
そもそも、薬剤師による医療行為はどこまで認められているのでしょうか。過去の研究論文や薬事行政に関する歴史を調べてみると、薬剤師の医療行為は、はっきりと明文化されないまま、ここまできているようです。明治時代以前は、医師が「薬師(くすし)」と呼ばれ、診断から処方、調剤、投薬までの全てを医師が行っていましたが、西洋医学の導入とともに明治政府が医師と薬剤師の業務を分けることになり、医師による薬の販売を禁止し、1874年(明治7年)には医制が制定され、医学校で修学した医師国家試験合格者のみが診断を行えるようになりました。翌年には薬店舗試験施行の件が発令されて、薬舗主は免許制となりました。その後1889年(明治22年)の薬律制定によって薬舗主は薬剤師と改正されました。しかし、医師会の強い反対のもとに医師自らが行う調剤行為は認められたまま、この枠組みが現在に至っているのです。
これからの薬剤師業務と課題
医師法第17条では、医師でなければ医業を行うことができないとしており、「医業」とは「医行為を業として行うこと」で、「医行為」というのは医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずる恐れのある行為、「業」とは「反復継続の意思を持って行うことである」というのが、これまでの医療に関する事件の判例などから確立した考えです。これにより、薬剤師は患者に触ってはいけないと教育されていた時代もあり、実際、私もそのように学んでいました。私が在宅医療に取り組み始めた15年ほど前、私が患者の血圧を測定しようとした時に「薬剤師に認められていることなのか」と言われた経験もありました。しかし、薬剤師が血圧を測定したり、聴診したりすることは診断を目的としたものではなく、薬物療法の結果を確認するための行為です。反復継続の意思を持って行っていますが、保健衛生上、危害を生じる恐れのある行為でないことは明らかで、医療行為にはならないのです。
薬剤師による医療行為は、法的に明確に記されておらず、また、看護師のように医師の診療の補助として医師の指示のもとであれば任される医療行為ができる職種に薬剤師は含まれていません。厚生労働省から、2010年に公表されたチーム医療の推進に関する報告書では、薬剤師が実施できるにもかかわらず十分に活用されていない業務が明文化され、今後、薬剤師の活用を積極的に促すべきであると示されました。さらに2014年には、厚生労働省から在宅医療を含めた全ての薬剤師の業務の現状等を踏まえ、服薬指導の一環として、外用薬の塗布又は噴射に関して、医学的な判断や技術を伴わない範囲内で行うことが可能である通知が発令されました。
薬剤師の業務というと、薬の整理や説明と思われがちですが、インターネットが普及して誰でも自由に詳細な情報を入手できるようになった現在において、薬剤師の可能な業務について、もう一度議論し、法的な整備を行う時期が来ているのだと思います。
さて、冒頭の「点滴の側管からの注射薬の投与」ですが、薬剤師は穿刺の教育は受けていませんが、消毒の知識はもちろん、注射薬の配合変化や投与速度、投与後の薬理作用などは薬剤師の専門性でもあり、薬剤師にとって可能な業務ではあります。しかし、医師の指示のもとに医療行為を任される職種に入っていないため、現行法では行うことができません。薬剤師の中にはこれまでの薬学教育の中で、医療行為に関して過剰に躊躇し、上述した外用薬の塗布すら踏み切れないものも多く、適正な医療が提供されていない場合もあります。薬剤師による医療行為を明確化し、薬剤師自身が安心して自信を持ってそれに挑み、医療者として責任を持って患者に関われる時代が来ることを心待ちにしています。
参考:「内海美保,他:薬剤師の行う医療行為に関する医事法学的研究:医療薬学38(1)9-17(2012)」