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薬剤師からの処方提案

小黒 佳代子
『薬剤師のお仕事』『小黒先生の薬の話Q&A』連載
株式会社メディカル・プロフィックス取締役
株式会社ファーマ・プラス取締役
一般社団法人保険薬局経営者連合会 副会長
ドクターズプラザ2018年9月号掲載

薬剤師のお仕事(2)

他職種連携を模索

2025年の高齢化のピークに向けて、、地域包括ケアシステムの構築とともに在宅医療の推進が必要となっています。私は10年近く前から、薬剤師として患者宅への訪問を実施してきました。当時を振り返ると、患者さんのご自宅での療養を目の当たりにし、薬剤師として何ができるか模索しながら、他職種とどうしたら連携できるか考え、医師はもちろん、ケアマネージャーや訪問看護師と訪問していたことを思い出します。初めは「薬剤師が何で連絡してくるのか」、「服薬管理なら看護師でもできる」と怪訝そうな顔をされることもしばしばでしたが、中には興味を持って私の話を聞いてくれたり、訪問看護師の訪問時の様子を教えてくれたりする人も出てきました。その頃、忘れられない患者さんと出会いました。

昭和一桁生まれのその男性は、テレビに出てくるような頑固親父そのものでした。胃がんの末期で食事が取れなくなって中心静脈栄養が開始され、訪問看護師の勧めで私が介入することになったのですが、「点滴につながれるなんてまっぴら御免だ!」と日中点滴し、夜には抜いていました。嘔気が強く「何を食べてもおいしくない」と、毎日吐き気止めの坐薬を使っていらっしゃいました。初めての訪問の時にお届けした薬は、その坐薬だけで「これしか持ってこないで商売が成り立つのか!?」と言われました。医師は患者の要望に応じて、少しでも嘔気の軽減になればといろいろと薬剤を変えていました。水酸化アルミニウム配合液、アルギン酸ナトリウム液、ランソプラゾールOD……、お嬢様がインターネットで調べたものも含めて全て試しましたが、嘔気は改善しませんでした。

だんだんと寝て過ごすことが多くなり、点滴も24時間持続するようになりました。嘔気が強くて寝たまま嘔吐してしまい、誤嚥性肺炎と思われる発熱があることもありました。背部の痛みも強くなり、NSAIDSからモルヒネの坐薬に切り替えることになりました。

私は、頑固で薬へもこだわりが強いこの患者さんがモルヒネの使用を受け入れてくださるか心配で「痛みだけでなく身の置き所が無い苦痛も和らいで、夜もぐっすり眠れるかもしれませんと、副作用よりも効果を強調してお話ししました。すると患者さんは「そんなに良い薬なら、もう少し使用せずにとっておこう」とおっしゃられました。何とか使っていただけるようにお話ししましたが、翌日にご自宅にお伺いすると「そんなに効かなかったぞ!」とおっしゃられ、見ると半分に切ったモルヒネの坐薬がありました。私の説明が足りずに、オピオイドに対するご不安があったのかも知れません。

寝たきりになってもトイレにだけはご自身で行っていたのですが、とうとうオムツになり、初めてオムツの中に排尿された時の悔しそうな顔は今でも忘れられません。

薬剤師が果たす役割

吐血し、医師から「あと1週間くらいだろう」と言われた時、私は訪問当初からずっと継続している嘔気を何とか取り除き、ご家族と安らかな最期を過ごして頂きたいと必死に考えました。ハロペリドール注射液は、適応外ではありますが、CTZにおけるD2受容体の強力な拮抗作用によって強力に嘔気を改善します。死への恐怖と闘っているこの患者様にはピッタリだと思いました。

薬剤師として医師への処方提案は重要な役割ですが、疑義照会でもない新たな薬剤の処方について提案するのは、かなりの勇気がいりました。しかも、まだ訪問指示を受けて間もない医師への提案です。私はメールでご連絡することにして、文面を何回も読み返しました。患者を思うあまりに感情的になっていないか、薬学的な根拠はしっかりとしているか、医師に対して失礼はないか……、最後は「えいっ!」と送信ボタンを押しました。

翌日も、その翌日にも医師から返信はありませんでした。やっぱり生意気だと思われたのではないか、とがっかりした頃、医師から電話がありました。「メールに気が付かなくてごめんなさい。すぐに使ってみましょう!」とハロペリドールを開始しましたが、すぐには効果が見られませんでした。次の日、私は東京で勉強会でしたが、訪問看護師からも医師からも「効果が出てきた!」「少し持ち直したようにも見える」と相次いでお電話がありました。その2日後、この患者さんは亡くなられました。ご挨拶に伺うとお嬢様が「あなたが小黒さんね。私と同じ佳代子さんというお名前だと父が話していたわ」と言ってくださいました。私にはぶっきらぼうな患者さんでしたが、ご家族に私のことをお話ししてくださっていたのかと思うと感激しました。

患者さんはいつも私にいろいろなことを学ばせてくれます。この医師、看護師とはその後、強力な在宅チームとして一緒に仕事をする機会が増えたことは言うまでもありません。

ドクターズプラザ2018年9月号掲載

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