2016

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薬の服用

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小黒 佳代子
株式会社メディカル・プロフィックス取締役、株式会社ファーマ・プラス取締役、一般社団法人 保険薬局経営者連合会 副会長

ドクターズプラザ2016年1月号掲載

小黒先生の薬の話Q&A(35)

授乳中に薬を服用する場合のポイント

安易に服用せず、医師・薬剤師に相談を

Q1 出産後体質が変わってしまったのか、アレルギー体質になってしまいました。薬をしばらく服用する場合、授乳を諦めなければならないでしょうか?

A1

妊娠中に引き続き、授乳中もお薬には注意しなければならず、女性は大変ですね。母乳育児には様々な効果があるのは言うまでもありません。赤ちゃんとのスキンシップという意味でも母子にとって大切な時間だと思います。薬を服用すると、母乳を通じて赤ちゃんも薬を服用してしまうことになるのではないか、赤ちゃんが薬を服用してしまって大丈夫か、ご心配になられる方は多くいらっしゃるでしょう。ほとんどの薬は母乳中に含まれますが、服用した薬の全ての量が母乳を通じて乳児に与えられるわけではありません。その量はわずかで、多くの場合は問題なく、乳児に悪影響が出るケースは少ないでしょう。

だからといって、薬を安易に服用すれば良いというわけではありません。まず、薬を服用するほどの病状であるか判断することが必要です。ご自身の自覚症状はもちろんですが、医師に受診して、皮膚のかゆみの場合には塗り薬で、鼻水鼻づまり、喘息の場合、点鼻薬や吸入薬だけで症状が安定できるか相談してみましょう。塗り薬や貼り薬、吸入薬などの外用薬も投与したその部位だけでなく、血液に入って母乳から乳児へと移行しますが、その量は内服薬よりも少なくなります。

内服薬が必要な場合には、なるべく安全な薬を選択するということが大切です。一般的には母乳中の薬の濃度が最も高くなるのは、薬を服用後2〜3時間後と言われています。服用する直前に授乳すれば、赤ちゃんへの影響は少ないと言えますが、最近は1日1回の服用で安定した効果が持続する薬も多く、頓服として薬を服用する時以外は、現実的ではないと考えます。外用薬を使用して、症状が悪化した時のみ内服薬を併用するというのも、一つの方法だと思います。

授乳と抗インフルエンザ薬の服用

Q2 授乳中なのに高熱が出てしまい、インフルエンザかも知れません。子供にうつしたくないのですが、受診したほうが良いでしょうか?

A2

インフルエンザに使用される抗ウイルス薬は、添付文書上は「授乳を避けること」となっていますが、インフルエンザに使用される抗ウイルス薬の中でも、タミフルは授乳中に安全に使用出来ると思われる薬とされております。(国立成育医療センター「授乳とくすりについて 授乳中に使用しても問題ないとされる薬剤の代表例」より)以前に流行した新型インフルエンザも、服用する薬剤は季節性のインフルエンザと同様でしたが、CDC(米国疾病予防管理センター)は、「母親が新型インフルエンザになっても、母乳育児を続ける」「抗インフルエンザ薬を飲んでも母乳育児を続ける」という、明確な方針を出しています。薬を服用するか否かはもちろん、インフルエンザは乳児に感染すると大きな後遺症が残ったり、場合によっては死に至る場合もありますので、体調が悪い時にはすぐに受診することをお勧めします。

今回のケースに関わらず、授乳中に薬を服用する時には、お子さんの月齢も考慮すべきポイントとなります。授乳中の薬の服用が最も心配されるのは、生後1〜2カ月です。新生児の場合、薬を代謝、排泄する肝臓や腎臓の機能が不十分で、報告されている授乳中の薬の服用による副作用の多くは新生児で起きています。薬には必ず副作用があり、患者の健康と副作用を考えながら、有益性が上回る時に薬は処方されます。授乳中も同じことで、母親の健康を害することと、乳児への影響という副作用を考慮しながら、母親の健康維持が大切だと思われる時に薬を服用することになり、それにあたっては、なるべく乳児に影響のない薬を選択すること、薬の服用量や服用期間を考えることが重要となります。

授乳中の薬剤の服用については、添付文書上は絶対に安全という記載はほとんどなく、医師や薬剤師も授乳を中止すべきか判断に迷うこともあります。薬局の窓口では「診察時に授乳中であることを伝えなかった」という方も多くいらっしゃいます。自己判断せず、授乳している時には必ず医師や薬剤師に伝え、ご自身の体調と不安を相談してみてください。

 

 

 

 

 

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