2022
07/07
良質な睡眠を得るための「3つの柱」
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睡眠
東京家政大学人文学部 心理カウンセリング学科 准教授
睡眠と健康4
新型コロナウイルス感染症パンデミックによって生活様式は一変しました。在宅ワークもいまや当たり前となりました。それによる活動量の低下やパソコンの長時間利用など、生活習慣も大きく変化してきたと思います。
ただ、このパンデミックによって良い点もあります。私たちの調査では、パンデミック前よりも日本人の睡眠時間は延び、ソーシャルジェットラグ(平日よりも休日の睡眠時間が長くなってしまう状態)も短くなりました(1,2)。つまり、睡眠負債の解消という利点が生まれたのです。一方で、「寝つきが悪い」「早く目が覚めてしまう」といった不眠の問題を訴える割合は増える傾向にあるようです。
「不眠症=眠れない」はずなのに、なぜ睡眠負債(寝不足)が減って不眠が増えるのでしょうか? それを解くカギは「睡眠の3つの柱」にあります。
今回は、快眠を導くための睡眠の3つの柱を知り、それぞれに対する生活習慣の問題を探っていきましょう。
睡眠の3つの柱:「質」「量」「リズム」
快眠は得ようと頑張れば、すぐに得られるものではありません。快眠は、「質」、「量」、「リズム」の3つが整うことで自ずと得られるのです。それぞれの柱について見てみましょう(図1)。
作成:岡島 義 氏
「質」:これは、自己評価による主観的な睡眠であり、いわゆる「寝た感じ」に相当します。あくまで感覚的な評価であるため、日中に支障が出るかどうかは別問題です。
「量」:これは、脳波測定やデバイス(例えば、スマートウォッチなど)によって測定された客観的な睡眠であり、「実際に寝た時間」や「寝つきにかかった時間」などが該当します。量が足りない場合は、睡眠不足の状態であり、眠気、集中力低下などによって、日中に支障が出ます。
「リズム」:これは、睡眠―覚醒リズムの安定性であり、いわゆる「規則正しい睡眠」に相当します。仕事や課題に追われていたり、シフトワークをしたりしている関係で、就寝時刻や起床時刻が日々安定しない生活をしていると、「リズム」が不安定になり良い睡眠がとれません。その他、早寝・早起き(朝型)か遅寝・遅起き(夜型)かといった生得的な睡眠―覚醒リズムもこちらに入ります。
この3つの柱を組み合わせることで、皆さんの睡眠の特徴が掴みやすくなります。皆さんはどのタイプに当たりますか?
「心奪われ」不眠タイプ
※得点が高いほど良いことを示す
作成;岡島 義 氏
「質」は低下しているものの、「量」は比較的取れており、「リズム」も安定していいます。そのため、思っている以上に眠れている可能性が高く、思いの外、日中に活動できてしまいます。にもかかわらず、眠れていないことに心を奪われて、不安が先行している状態です。この不安感が活動自粛を引き起こしてしまうと、不眠症状が悪化することがあります。不眠症の中でも比較的多いタイプで、年齢層で言うとシニアの方々に特徴的です。このタイプの方は眠れないことへの恐怖感(不眠恐怖)に抗えず、夜は早く寝床に入ったり、眠れていることを確認したりするために、何度も時計を見たりします。眠れなかったことによる体調不良を恐れ、活動を控え、悶々と眠りについて考え続けるくせがあります。対策としては、寝床に入っている時間を6時間程度に短縮する、寝床に入ったら起床時刻になるまで時計は見ない、日中に中強度の身体活動を取り入れることが上げられます。
「心身不調」不眠タイプ
※得点が高いほど良いことを示す
作成;岡島 義 氏
「リズム」は安定しているものの、「質」と「量」が低下している状態です。このタイプの方は、不眠感に加えて睡眠不足も加わるため、頭痛などの身体症状も出てきます。そのため、日中もしんどくてパフォーマンスが十分に発揮できないにもかかわらず、夜はなかなか眠れないので、おのずと活動自粛に入ってしまいます。この生活習慣が不眠の維持につながることがあります。働き世代タイプに多く見られます。仕事過多から早朝覚醒が出現している、もともと睡眠が夜型傾向にあるにもかかわらず朝早く起きなければならないといった方に特徴的です。
このタイプの方も不眠恐怖が根底にありますが、日中に支障(欠勤、頭痛など)が出てしまう分、日中のしんどさが強いです。そのため、まずは睡眠薬で「量」を増やすことも大切です。対策としては、「心奪われ」不眠タイプの方法に加え、身体のこわばりや緊張も関与してくるため、寝る前のリラクゼーションや日中の身体運動を取り入れることも大切です。もともと睡眠が夜型傾向にある場合は、朝食をしっかり食べ、朝日を浴びる、寝る1時間前はリラックスタイムを導入するといった対策も効果的です。
「アシンクロ(非同期)」不眠タイプ
※得点が高いほど良いことを示す
作成;岡島 義 氏
「リズム」が不安定なところからくる「質」の低下が特徴です。一方で、寝不足と寝だめが繰り返されるので、「量」は全体的に取れています。このタイプの方は、仕事や課題への取り組みによってからだ時間(体内時計)の安定したリズムを壊してしまうことで、不眠になってしまうのです。こちらは大学生から働き世代、シフトワーカーの方に特徴的です。
このタイプの方は、自身の生活スタイルに合わせて、就床―起床時刻をできる限り安定させることが最も重要です。例えば、2交代勤務でも日勤帯の時間で過ごすことが多ければ、夜勤をイレギュラーな日と考え、日勤や夜勤明けや休日は、日中に趣味活動や家族サービス、身体活動を行ったり、毎日の3食の食事時刻をできる限り一定にするといった対策が考えられます。
いかがでしょうか。もちろん、「質」、「量」、「リズム」が全て低下した「フルコンボ」不眠もありますが、多くは上記3つのタイプに分類できます。先述の不眠タイプに分類することで、それぞれにあった睡眠対策が提案できます。
また、ここでは挙げませんでしたが、急性不眠というのもあります。これは、ストレスによる一過性の不眠で、突如として全く眠れない日が1週間程度現れます。これは、からだからのSOS反応ですので、眠ることに躍起にならず、休養を取りましょう。その後は徐々に眠れるようになってきます。また、ワーク・ライフバランスを見直す必要があります。
文献
1.岡島 義・秋冨 穣・村上 紘士・谷沢 典子・梶山 征央(2021).新型コロナウイルス感染症禍での睡眠変化に関する検討:睡眠記録アプリ利用者を対象とした研究 認知行動療法研究、47(2)、83-92.
2.市川玲子・鈴木美穂・秋冨 穣・梶山征央・谷沢典子・岡島 義(2021).COVID-19による緊急事態宣言下における睡眠の諸特徴:宣言前後との比較検討 第94回日本産業衛生学会、ポスター発表