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自立支援と自律支援

介護

高室 成幸
ケアタウン総合研究所・代表
ドクターズプラザ2018年9月号掲載

介護の潮流(2)

昨今、業界誌紙で「自立支援介護」が目につくようになりました。介護保険の大原則が利用者本位の自立支援です。しかしあえて「自立支援のための介護」や「自立支援のためのケアマネジメント」がいわれるのはどうしてでしょう。今回は「自立と自律」について考えてみましょう。

「じりつ」には二つの意味がある

一般的に「早く自立しろ!」というセリフは親のスネをかじっている若者にいうセリフ。これは経済的に自立するという意味。「自立したんだから、いちいち相談せず自分で考えなさい(決めなさい)」というのは精神的に自立すること。この場合は「自律」の文字が適切でしょう。さて、そこで喉に小骨が引っ掛かったような違和感が。何事にも頼らず、助けもなく自分一人の力で何事もできる状態……それが自立だとするなら、要支援・要介護の方にとっては「自立支援」とはかなりひどい言葉? (関西弁「そら殺生や……!」)と受け止める人もいるかもしれません。

介護保険を使うことが自立支援じゃない?

ちょっと考えてみましょう。「あなたの自立のために介護をしますよ」という文脈って一般的に意味不明ではないでしょうか? 「自立」を「自分でできるようになる」と解釈すると「できるように介護してくれる」とはこれいかに? だったらリハビリテーションじゃない? と思う人がいても当然でしょう。

こういう声があります。「できないことが多いから要介護認定の1や2が出たんだ」「それに介護してもらわないとやっていけないから介護保険を申請しているんだよ、おいらは」が当人の気持ちなわけです。

要介護認定のプロセスはこうです。認定調査員がやってきて、今の心身の状態やADLを聴き取り、腕の上げ下げなんかをやらされ、1時間ほどで帰っていく。後日、これまでの暮らしを続けていくために必要な介護の量(時間)を計算して要介護1〜5の判定をいただくことになります。ランクごとに支給限度基準額が紐づいていますから、その金額内の介護サービスを使っていいんだと理解するのは当然です。「やっぱり軽いより重い方がいいよなぁ、使える金額が違うもんな」と言われたケアマネも「要介護3が出て良かったですね」と返事をするのが現実。何か変ですよね。

やがて介護サービスを積極的に利用していると、ある日、「いつまで使っているんですか? いつ卒業するのですか? だいたい使い過ぎではないですか?」と言われることに。使っていい枠内のものを使っていたらお役所から叱られた……このシーンを想像してみてください。「要するにオイラに使わせたくないんだな。だったら支給限度基準額なんてどうしてあるんだ!!!」と窓口で食ってかかられたら、行政担当者はどう反論できるでしょう。

「自立と自律」の支援にバージョンアップを

自立支援の論議を介護保険財源論から語る人に違和感。介護保険から卒業を目指せ(非該当)といったって、加齢にはだれも勝てず、卒業? した85歳の人も5年後には90歳になり……まだ大丈夫と頑張り過ぎたおかげで庭で転倒し要介護3に……これって「落第」なのでしょうか。

もともと介護保険は「自己決定」を大原則においてきました。これは新自由主義的な自己責任論ではありません。「自己決定=自律(自分で決める)支援」なのです。しかし「自立支援」ばかりを重視するうちに何かが変質しつつある……要支援ならまだ納得できますが、要介護3〜5の人にとっては「できないこと」は「いけないこと」と思い込ませるだけではないでしょうか?

偏った自立支援ブームは、中重度の人の自己への否定感や引け目感を生むだけではないでしょうか。「自立支援」が要介護者を追い詰める説教のようになっているようにも感じます。だから私は「自立(自律)支援」の重要性を15年間説き続けています。

作成:高室 成幸

 

ドクターズプラザ2018年9月号掲載

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