2018

03/12

臨床検査技師として成長し続ける

  • 病理診断

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末松 直美
『病理診断科』
社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷横浜病院 病理診断科

ドクターズプラザ2018年1月号掲載

連載/病理診断科の紹介(5)

現状に満足せず、一歩先を目指す

当院の病理診断科の臨床検査技師は、国家資格を取得しているとはいえ、病理を始めてからの日が浅いので、まだまだ学ぶべきことが多くあります。先輩たちに日々叱責されて戸惑いながらも、目を輝かせて頑張っています。どんな仕事でもそうですが、ルーティン業務がある程度できるようになると、慣れた日常業務を日々こなすことで満足するようになってしまいがちです。

しかし、日常業務をある程度のレベルでこなすことができるようになっても、それに満足することなく、もう一歩先を目指す姿勢を持ち続けてほしいと思います。そのような臨床検査技師に成長するためには、出来るだけ早い時期に、自分たちが携わっている日常の仕事内容を折に触れて振り返り、問題点を見つけ、その解決を図るという姿勢を身に付けることが肝要です。私たちの職場では、今年度、これを具体的に経験してもらうために、日常業務の中で気付いた二つの問題を取り上げ、その解決について考えてもらいました。

一つは、昨年度、細胞診の標本作製にLBC(liquid based cytology)法を導入したところ、特に尿細胞診では、従来の標本作製法に比べClass Ⅲが増えているということに気付いたことでした。そこで、6カ月間にわたって、同一の尿検体についてLBC法と従来法を同時に行い、両者の細胞診Cl ass分類(表1)にどのような差があるかを調べ、その差の持つ意味などについても解析してもらいました。

次に、私たちの病院では、病理検査技師は種々の検体採取の現場に呼び出されその検体の処理をしていますが、呼吸器科の気管支鏡下で行われる細胞診や組織検体の処理に要する時間が長過ぎることに注目しました。この二つ目の問題を解決するために、検体採取の現場に呼び出されて帰ってくるまでの時間を記録し、その記録を基に作業内容をチェックし、時間を短縮するための改善策を実行しました。2年間に及ぶ時間の記録を、改善策実行の前後で比較しどのような効果があったかについて調べてもらいました。

これらの結果を、2名の病理検査技師が、病院内で毎年開催されている「第15回聖隷横浜病院学会」で発表しました。しかし、発表したことがゴールではありませんでした。学会に向けて考えをまとめていく中で、それぞれの問題に新たな課題が見えてきたのです。前者では、LBC法によるClass 判定がfalse positive(陰性のものを陽性と判定すること)の可能性がある症例について、フォローを続け検証していくこととしました。後者においては、従来法よりも検体処理がより簡便なLBC法を検体採取現場に取り入れていくことでさらなる時間短縮の効果が期待できると考え、この点を続けて検討することとしました。今後は、これらの課題に取り組むことが期待されます。

調査の結果を学会発表に向けてまとめていく中でさまざまな経験をした二人の病理検査技師が、発表の終了後に見せた内から溢れてくる興奮と喜びの表情は忘れることができません。次のステップがあることも忘れずにさらに精進してもらいたいと思います。

積極的に新しい分野、技術の導入に取り組む

臨床検査技師が成長するためには、もう一つ、病理診断科自体が新しい技術の導入に果敢に取り組むことが必要です。当院の病理診断科には、現在、FFPEブロックと顕微鏡標本作製のための設備に加え、迅速診断や腎生検で使用される凍結切片作製のためのクライオスタット、蛍光抗体法で作製された標本を観察するための蛍光顕微鏡、免疫組織化学(IHC)の自動染色装置、LBC法による細胞診標本作製装置など、病理検査のほぼ全てを院内で実施可能なところまで整備されており、全てフル回転しています。病理診断科の規模としては小さなものですが、その技術的なレベルは高いと自負しております。

前回述べたように、昨今はFFPEブロックを用いた、治療に直結する遺伝子検査が増加しています。来年度は、現状に満足することなく、この分子病理解析の分野にも足を踏み入れることができたらと考えています。まずは遺伝子解析装置を導入し、さらに遺伝子変異・遺伝子増幅解析(ISH)の技術を取り入れようと準備を進めています。

さて、次回の最終回では、病理解剖と解剖症例の臨床病理検討会(CPC:Clinico-Pathological Conference)についてご紹介したいと思います。

 

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