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背負っている重荷を軽くしてほしい

介護

川内 潤
NPO法人となりのかいご 代表理事
ドクターズプラザ2019年5月号掲載

隣(となり)の介護(1)

コンサル会社から介護の世界へ

はじめまして。この度、ドクターズプラザ誌に連載をさせていただくこととなった、「NPO法人となりのかいご」の川内と申します。

今回は連載の初回ですので、簡単に自己紹介をさせていただきます。実は、私の実家は介護の会社で、今から30年前から訪問入浴を中心に介護事業を行っております。当時、小学校3年生だった私は、正直、福祉や介護に全く興味が持てず、運動が好きだったので将来は体育教師やトレーナーになるんだろうな、と思っておりました。

高校生の時にやっていた器械体操のけがで、しばらく車いす生活をしていました。それがきっかけで、福祉の仕事をすることを決心して、社会福祉学科のある大学に進学しました。そんな想いをもって進学した4年後、ビットバレー全盛だったこともあって「お金持ちになりたい」と強く思い、ITベンチャーに就職し、外資系コンサル会社へ転職して、福祉・介護とは全く関係ない仕事をしていました。当時携わっていた仕事の中に、余剰人員とされている方へ解雇通告をする、というものがありました。「親の介護があって」「子供が受験で」など言われたとしても、非情に解雇を告げるという仕事でした。

ほぼ毎日深夜にタクシーで帰宅するという激務の中、休日にふと自身の仕事を振り返る瞬間があり「人を助ける仕事がしたかったのに、全く逆のことをしているじゃないか」と考え、急遽方向転換して介護職となりました。

衝撃的な家族介護の現場

最初は、寝たきりの方の自宅を訪問し、横になったままでお風呂に入っていただく「訪問入浴」という仕事をしていました。人工呼吸器をつけている方、痰の吸引が必要な方、鼻腔経管・胃ろう・IVHをしている方、糖尿病で手足を切断している方、がんで全身が土気色になっている方など、特養の介護実習でもなかなかお会いすることがない方が主なお客さんでした。

ご自宅に1日7軒ほど訪問していると、介護している家族から暴力を受けている方と出遭うことが度々ありました。服を脱いでいただくと手の形をしたあざがある、ベッド柵に強く押し付けられた打ち身、何日もオムツ交換されず赤くただれた皮膚。ある時、訪問したその場で暴力を振るわれている最中出くわすこともありました。ただ、私が一番つらかったのは、手を上げてしまっているご家族に共感できてしまったことでした。「そこまで追い込まれたら、誰でも叩きたくなるよな……」と。このような状況に至ることを、何とか未然に防ぐことはできないものだろうか、と想い立ち上げたのが「となりのかいご」でした。活動開始当初は、高齢者虐待の情報発信を中心に行っていましたが、なかなか継続的な取り組みにはつながりませんでした。

ある時、企業に出張してその企業に勤める社員さまへ介護の話をする機会をいただきました。そこで驚いたのは、一流のビジネスパーソンでも、親に介護が必要になったら仕事を辞めるべきなんだろう……、と考えている方ばかりでした。仕事を辞めて家族介護を始めていたら、あの時の家族のように追い込まれ、いつか手を上げてしまうのではないか、と強い危機感を持ちました。そこで、この活動を継続することで、家族の介護で追い込まれて暴力に至ってしまう惨状を未然に防ぐことができるのではないかと考えました。

まずは無料で介護の話をしていたところ、そのうちに講師料をいただけるようになり、個別に介護相談も行ってほしいという要望もいただき、出張個別相談会も始めました。最初は介護事業所に勤めながら副業でやっていたのですが、依頼が増え続けて体調を崩しかけたので、独立して事業展開することにしました。この取り組みの中で「要介護者を介護している親や兄弟が暴力・暴言を繰り返している」というケースに出会うこともあります。その場合も、相談先機関へおつなぎして、より深刻化することを防ぐため支援を行っております。改めて、この取り組みの意義を実感する場面でもあります。「オムツ交換した数や一緒にいる時間と同じように、家族としての互いの関係性を最期まで大切にできるよう余裕を持った関わりが必要」と伝えることで、気持ちの重荷を下ろすことができるのだと思っています。

この連載を通して、一人でも多くの方が家族介護で背負っている重荷を軽くしていただけるよう、さまざまな情報を提供させていただきたいと思います。ぜひともよろしくお付き合いください。

ドクターズプラザ2019年5月号掲載

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