2017

01/15

肝炎ウイルス

  • 感染症

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内藤 博敬
静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科/大学院食品栄養環境科学研究院、助教。静岡理工科大学、非常勤講師。湘南看護専門学校、非常勤講師。

ドクターズプラザ2017年1月号掲載

微生物・感染症講座(56)

肝炎を起こすウイルスは多種多様!?

はじめに

私たちの身体は、たくさんの臓器からできていて、それぞれに役割を担って生命を維持しています。中でも、「肝腎」あるいは「肝心」と記される、肝臓、腎臓、心臓は我々にとって欠くことのできない大切な臓器です。とりわけ肝臓は「物言わぬ臓器」と呼ばれ、病気になっても自覚症状が現れ難く、不調を感じた時には既に症状が進行していることの多い臓器です。肝臓の疾患の中でよく耳にする「肝炎」の原因は、アルコール、自己免疫疾患、ウイルスなど様々ですが、日本ではウイルス性肝炎が多くを占めており、厚生労働省も肝炎総合対策の推進を図っています。
今回はウイルス性肝炎の原因となる肝炎ウイルスについて、総括的にお話しましょう。

肝炎ウイルスは1種類じゃない!?

肝炎ウイルスは肝炎を主症状とするウイルスの総称で、分類学的には異なる種類のウイルスを、臨床的に「肝炎ウイルス」と括ったものです。肝炎ウイルスには、少なくともA型、B型、C型、D型、E型の5種類があります(注)。A型肝炎ウイルスは、へパトウイルス属、B型肝炎ウイルスはオルトヘパドナウイルス属、C型肝炎ウイルスはへパシウイルス属、D型肝炎ウイルスはデルタウイルス属、E型肝炎ウイルスはオルトへぺウイルス属にそれぞれ分類されています。遺伝学的には全く異なるこれらのウイルスは、当然ながら感染経路も異なります。A型肝炎とE型肝炎は、水や食物を介して感染します。わが国では、A型肝炎は魚介類、E型肝炎はブタ、イノシシ、シカ肉の生食や加熱不十分を原因とする感染例が報告されています。また、A型肝炎は戦後の衛生向上とともに感染者数が激減しましたが、抗体を持たない若者が増加し、海外での感染や輸入食品を介した感染例が増えています。A型肝炎やE型肝炎は急性感染がほとんどで、慢性化することもキャリアー(保菌者)となることもありません。また、A型およびE型肝炎は、肝癌との関連もありません。B型肝炎、C型肝炎およびD型肝炎は、主に血液や体液を介して感染します。B型肝炎は、血液製剤や輸血だけでなく、性感染や母児感染によっても感染します。昭和60年頃まで予防接種時に同じ注射筒で打ち回しており、これによってB型肝炎に感染した方がいます。日本には現在、約150万人のB型肝炎感染者がいると推定されていますが、その3分の1が注射の回し打ちを原因とする感染者だと言われています。

また、かつては母児感染によるB型肝炎患者が多数報告されていましたが、近年では出生時のワクチン接種で激減しています。現在は、輸血も含めてしっかりとした予防対策がなされており、医療行為による感染はほとんど無くなっています。C型肝炎もB型肝炎と同様に血液で感染し、かつては輸血や血液製剤による感染が社会問題となりましたが、やはり現在では医療行為での感染はほとんど無くなっています。C型肝炎は、B型肝炎と違って性感染や母児感染は少ないですが、タトゥー等の針の使い回し、医療行為以外での注射針の共用、不衛生なピアス処置などによる感染が年々増加しています。また、B型およびC型肝炎は、肝癌との関連性も明らかになっています。特にC型肝炎との関連は強く、日本の肝癌患者の約7割がC型肝炎感染者です。D型肝炎は単独では感染せず、B型肝炎感染者のみにみられる同時あるいは重複感染です。発症すると重症化し易く、劇症肝炎となるケースが多くみられます。

一生に一度は肝炎検査を!!

肝炎ウイルスは種類も感染経路もさまざまなので、感染予防もウイルス個々に行う必要があります。おおまかに言えば、A型およびE型肝炎は食中毒予防を、B型、C型およびD型肝炎は医療機関以外でピアス処置をしないといった、血液感染の一般的な対策が大切です。また、A型肝炎、B型肝炎、D型肝炎ウイルスは、任意接種としてワクチンによる予防が可能です。衛生状態の良くない国への渡航に際してはA型肝炎ワクチンを、仕事等で血液を扱う場合にはB型肝炎のワクチンを接種するなど、自主的な予防意識が大切です。また、B型肝炎感染者との性的接触には、コンドームを着用することで感染予防できます。

物言わぬ臓器であるがゆえに、肝炎ウイルスに感染しても急激に肝機能や検査値の変化が見られない場合があります。これまでB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの検査を受けたことがない方、検査結果を御存知でない方は、一度肝炎検査を受けることをお勧めします。

 

(注)この他にもTTウイルスなどの肝炎ウイルスが報告されています。また、EBウイルスやサイトメガロウイルスなどの肝炎を起こすことがあるものの、主症状ではないウイルスは肝炎ウイルスには分類されていません。