2024
10/02
“絶対にやってはいけない介護”とは
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介護
NPO法人となりのかいご・代表理事
隣の介護(32)
久しぶりの帰省で、以前とは違う親の様子を目の当たりにして「早急な対応策が必要だ」と、やみくもに動き始める方がいます。ただ、ここで誤った対応をすると、非常に困難な状況に追い込まれてしまう可能性が高くなります。そこで、失敗事例とともに5つの“絶対にやってはいけない介護”をお伝えします。
Contents
その1:見守り・介護をきっかけとした同居
帰省の際に汚れた実家を見て「なんで片付けないの?」「ボケ始めているのか?」と不安になり自身の家に呼び寄せるも、親は「早く家に帰りたい」と繰り返し訴えてきます。
親の変化を目の当たりにしての同居は、ほぼ上手くいきません。生活を共にすると互いの嫌なところが見えるようになります。できないことが増えていく親に優しい声を掛けることは困難で、ケンカが繰り返されれば、良い生活環境とはいえません。できないのは年を取れば当然のこと、と受け入れられる距離感を維持することが重要です。一人暮らしの親が心配でも、親戚や本人が同居を求めてきても、冷静な判断をする必要があります。
その2:日常的に家族が直接介護に関わる
介護は日常生活の延長線上にあるため、お米など重い日用品の買い物や廊下を歩く時の支えなど、ちょっとした手伝いが介護の入り口になることがあります。これを続けていくと、親は家族にやってもらうことが当たり前となり、自分で工夫してやろうとする意識と機会を失います。
お米の宅配サービス、廊下に手すりを設置するために介護保険申請を家族から提案されても「必要ない」と言えるのは、親本人が困っていないから。家族が直接介護に関わると、「自分でやろうとしない→家族のサポートに依存→外部のサポートを拒否→身体が弱り自分でできることが減る」といった負の連鎖に陥ってしまいます。
介護は時にやりがいや周囲から称賛を得られることがあります。一方で、介護を家族で抱え込むと、適切な外部サポートが得られず、共倒れのリスクが高まります。介護職でも親の介護は難しいといわれるように、直接、介護にはできるだけ関わらない姿勢を維持することは、いつまで続くか分からない介護を乗り切る重要なポイントとなります。
その3:テレワークを活用した仕事と介護の両立
コロナ禍よりテレワークという働き方が浸透し、仕事と介護の両立にテレワークを活用する人が増えました。
私が企業で行う介護の個別相談で、テレワークをしながら介護をする人の現実として「ウェブ会議に乱入される」「仕事モードに切り替えられない」といった実態が浮き彫りになりました。仕事と介護の両立にテレワークは有効でないと言わざるを得ません。
実はテレワークが、「その2:日常的に家族が直接、介護に関わる」でも解説したとおり、親の生活の質を落とすきっかけにもなります。さらに、近くでできないことが増えていく親の姿を直視することで、さらに不安が強くなります。年齢を重ねてできなくなることが増えていくのは当然のことだとして、距離感を持って見守っていくことが重要です。
その4:育児同様に介護休暇・休業を利用して介護する
「育児・介護休業法」が法律で規定されましたが、介護はいつまで続くか分からないため、厚生労働省は、介護休暇・休業は介護体制づくりのために使うものと発信しています。
育児は社会保険上の手続きがありますが、家族の介護は会社に伝える義務はありません。そのため、会社に伝えるのは家族の介護で休暇・休業を使わなければならなくなった時となりがちです。この状況になってから「直接の介護ではなく体制づくりに使うべき」と、制度の趣旨説明を受けるも遅いのです。
「妹が子どもの授業参観で外出している間の見守り」「母が入院したため、父の介護を兄弟が交代で行う」となってから会社に相談するのではなく、「妹や母が抱え込んでいる介護の方針転換を図るためケアマネジャーと打ち合わせをする」といった早い段階から、介護休暇・休業を活用するのが適切な取得方法です。
その5:兄弟で分担しての介護費用負担
介護費用を兄弟で平等に分担しよう、介護ができない分お金を出そう、などは後のトラブルにつながる可能性があります。支える家族の不安解決のために「介護保険で使えるサービスでは足りないから、自費のサービスが必要」と過度なサポートを付加すると、費用は青天井になってしまいます。しかも、過度なサポートは要介護状態を促進し、当初の予定以上の金額がかかる状況に追い込まれます。
介護が10年続くと支える側のライフステージも変化します。子どもの進学、自身が病気で働けない時期が出てくるかもしれません。「兄さんは大学まで出してもらったんだからもっと負担して」「近くに住んでいるお前が、介護した方が親も喜ぶ」といった介護の擦り付け合いが、弁護士を通しての協議に発展することもあります。重要なのは、介護のお金は親の財産や収入で済ませるよう設計することです。親がどれだけ長生きしても、純粋に喜べる状況をつくることが、より良い介護の最低条件です。
支える側の不安解消のための金銭負担は避け、親の状況を地域の支援者である地域包括支援センターに伝えることに徹することが重要です。程よい距離感で見守ることが、過度な金銭負担を避けることともに、介護を受ける本人の意思を尊重した介護体制につながります。