2014

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結核

  • 感染症

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内藤 博敬
静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科/大学院食品栄養環境科学研究院、助教。静岡理工科大学、非常勤講師。湘南看護専門学校、非常勤講師。

ドクターズプラザ2014年11月号掲載

微生物・感染症講座(43)

再燃する呼吸器感染症

はじめに

呼吸器感染症の多くは、気温が下がり空気の乾燥する冬季に流行します。しかし、流行に季節性がみられず、日本だけでなく世界中で感染拡大し続け、人々を恐怖させている呼吸器感染症があります。そう、今回のテーマとして取り上げた『結核』です。結核は、エイズ、マラリアとともに、開発途上国を中心に世界中で毎年多くの人々の命を奪っており、平均寿命を下げている感染症です。日本人の平均寿命は世界でもトップクラスではありますが、結核に対しては中進国と位置づけられています。再興感染症として注意すべき筆頭と言っても過言ではない「結核」について考えてみましょう。

結核との戦いは終わっていない

古より日本でも恐れられてきた結核。かつては労咳と呼ばれ、幕末から明治に掛けて蔓延し、高杉晋作、沖田総司、正岡子規や樋口一葉らの命を奪ったことで知られている感染症です。亡国病(国を滅ぼす病)とまで謳われた結核ですが、第二次大戦後に抗生物質(ペニシリン)が実用化されたことで、「不治の病」から「治療可能な感染症」となりました。その後ワクチンの開発も進み、先進国での感染者は急激に減少し、平均寿命の延びた日本では、いつしか過去の病となっていったのです。ところが、平成5年にはWHOから、平成11年には日本の厚生省からも、結核非常事態宣言が出されています。治療薬に耐性をもった多剤耐性結核菌が発現したことや、食文化や生活習慣の急激な変化、ストレス過多による免疫力低下などが要因となって、結核は再び我々に牙を剥いてきたのです。結核は、決して過去の病気ではありません。

結核は感染しても発症までに時間が必要

ヒトに感染する結核菌群には、ヒト型、ウシ型、ネズミ型、アフリカ型が知られていますが、ほとんどの場合はヒト型(マイコバクテリウムツベルクローシス)で、通常「結核菌」といえばヒト型結核菌を指します。結核の中で最も多いのは肺結核であり、感染患者の喀痰、咳やくしゃみを介して感染が拡がります(注)。結核菌は空気中でも長期間生存するため、直接的な飛沫だけでなく乾燥後の飛沫核や、ホコリに混じるなどして経気道感染を起こします。とても恐ろしく感じる結核菌ですが、健康な成人であれば体内に入っても感染して発病することは稀です。その一つの理由に、分裂速度が遅いことがあります。大腸菌などの一般的な細菌は、培養条件が整えば1〜2晩で集落(コロニー)が確認できるまでに発育しますが、結核菌のコロニーを確認できるまでには、好条件でもおよそ1カ月程度の時間が掛かります。潜伏期間も数年〜数十年と長くなることがあり、年を取ってから発症することも少なくありません。不幸にも発病してしまった場合、現代では治療法が確立されていますので、医師の指示に従って治療を受けましょう。

結核治療は世界的に進められており、医療従事者が直接患者さんに薬を手渡して服薬を見届けるDOTS(直接服薬確認治療)戦略がWHOから提唱され、日本でも感染症法で確実な服薬指導が示されています。免疫力が低下すると結核の感染リスクは高まりますから、不規則な生活や不摂生をできるだけしないように心掛けましょう。

冬季に流行する呼吸器感染症の感染予防を!

冬が近づき、今年もインフルエンザの季節がやってきました。ワクチンの予防接種は済みましたか? 今回は結核を取り上げましたが、本誌ではこれまでにインフルエンザ、RSウイルス、風疹、麻疹、肺炎、溶レン菌など、様々な呼吸器感染症を紹介してきました。今年は、A群溶レン菌が夏の終わりの早い段階から感染を拡大しつつあります。また、数年前の冬から小児の呼吸器感染症としてよく耳にするようになったRSウイルス感染症も、夏の終わりとともに患者を急増させています。感染症に罹患すると、免疫の低下から結核のみならず普段は意識しない病原体にも感染し易くなります。うがい、手洗い、マスク、予防接種と、可能な範囲での予防啓発に努めましょう。

 

(注)感染患者の喀痰、咳やくしゃみに結核菌が認められる場合を開放性結核と呼び、これらを介して感染が拡がります。一方で、結核菌が病巣部でしっかりと被包化され、患者の体外に結核菌が放出されたり、患者体内で蔓延する危険性が低い場合を閉鎖性結核と呼びます。肺結核から体内へ蔓延すると、結核性胸膜炎、脊椎カリエス、関節結核、結核性髄膜炎、腎炎、膀胱炎、卵巣炎、性器結核などを引き起こすこともあります。

 

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