2023

01/05

細菌ーー私たちにとっては生活に欠かせない友達でもある!?

  • 感染症

内藤 博敬
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 准教授
日本医療・環境オゾン学会 副会長
日本機能水学会 理事

新微生物・感染症講座(4)

はじめに

前回、細胞を持つ微生物として真菌と原虫の紹介をしました。これらは私たちと同じ真核細胞を持つ微生物ですが、細菌は私たちとは異なる原核細胞を持つ微生物です。細胞の種類が違うということは、大きさ、構造や構成成分の違いが時に脅威となります。一方で、治療や予防対策を講じる上では重要なターゲットにもなります。また、細菌は私たちの消化や免疫などとも深い関係がありますし、ヨーグルト、ぬか漬け、酢、醤油、納豆などの発酵食品を作ってくれるなど、私たちにとっては生活に欠かせない友達でもあります。今回はこの細菌についてお話します。

細菌の形態

細菌は1個の原核細胞で構成されている、単細胞生物です。遺伝子レベルでの研究が進むまで顕微鏡を使って目視で観察・分類しており、大きさ、形、つながり方(空間配列)や染色液の染まり方で分類されています。ほとんどの細菌は、1~5 マイクロメートル(100万分の1メートル)程度の大きさですが、中には30 マイクロメートルほどの細長い細菌もいます。細菌の形から、球状の「球菌」、棒状の「杆菌」、菌体がねじれている「らせん菌」の3つに分けています。らせん菌や杆菌の一部は、通常1個体で生活していますが、球菌では2個がくっついた双球菌、複数個が一線上に連なった連鎖球菌、ブドウの房上に連なっているブドウ球菌など、菌同士の特徴的なつながり方でも分類されます。

細菌を顕微鏡で見るためには、観察しやすいように染色液で色を付けます。細菌の染色法の中でも「グラム染色」は最も重要な鑑別法で、細菌が形を維持するために持っている細胞壁の厚いタイプと薄いタイプに染め分けます。具体的には、細胞壁を構成しているペプチドグリカン層が厚く紫色の色素に染まるグラム陽性菌と、ペプチドグリカン層が薄くて紫色には染まらず赤く染めて観察するグラム陰性菌とに大別します。グラム陽性菌の中には、「芽胞」と呼ばれる熱や消毒液に強い形態をとる菌もいます。また、グラム陰性菌は細胞壁の外側に膜を持っており、この膜は私たちにとって有毒です。

細菌が持つ毒、放出する毒

グラム陰性菌の外膜はリポ多糖(LPS)で構成されており、LPSは内毒素、エンドトキシンとも呼ばれる毒です。LPSの構成成分であるリピッドAが、私たちの免疫反応を過剰に亢進して多くの臓器を同時に機能不全にすることがあり、このLPSによるショック症状をエンドトキシンショックと呼んでいます。LPSは菌が死んでも毒性を示しますし、熱でも処理することができません。食中毒対策として加熱調理が推奨されますが、食材中にグラム陰性菌が大量増殖している状態では、加熱によって菌が死んでもLPSが残って食中毒を起こす危険性があるので、新鮮な食材を調理するように心掛けましょう。

グラム染色性とは関係なく、一部の細菌は私たちにとって毒となる物質を作って菌体外に放出することがあります。これをLPSの内毒素に対して外毒素と呼びます。外毒素の多くはタンパク質でできているので、LPSと違って熱や薬剤で変性させることが可能です。しかし、内毒素は大量(マイクログラム(µg)~ミリグラム(mg))でないと私たちに毒性を示さないのに対して、外毒素は少量(ナノグラム(1/109グラム)~µg)でも毒性を示します。また、近年では毒素を菌体外に放出する以外に、標的細胞内に直接注入するエフェクター分子の存在も明らかとなっており、この場合は外毒素より微量のピコグラム(1/1012グラム)程度で私たちに毒性を示します。

「毒」と聞くと少し恐く感じますが、私たちはこの毒も薬として利用することがあります。例えばボツリヌス菌が産出するボツリヌス毒素は、脳卒中や脊髄損傷などで起こる痙縮(意図しない筋肉の強い緊張)の治療や、歯科領域で顎関節症治療に用いられています。また、美容領域でもボトックス注射と呼ばれるシワなどの改善に応用されています。

発酵食品と細菌感染症

細菌が私たちにとっての毒を作るのは、彼らが生きていくための手段と考えられますが、彼らが作る物質は毒だけではありません。むしろ、私たちは微生物の存在を知る前から、彼らの作るさまざまな物質に助けられ、利用してきました。私たちの身体は全身を細菌に覆われており、消化器表面の粘膜にも多くの細菌が常在してくれています。例えば大腸菌はその名の通り大腸で共存している細菌で、私たちの消化を助けたりビタミンを作ったりしてくれます。納豆を作る納豆菌や、発酵乳製品を作る乳酸菌などは、よく耳にすることでしょう。発酵食品は世界各地の食文化にみられ、私たちは古くから細菌や真菌を利用して食卓を彩ってきました。一方で、食材に付着したり食品中で増えてしまったりした細菌による食中毒だけでなく、空気中あるいは水中に生息する細菌や、ノミやダニが媒介する細菌による感染症と闘ってきました。共存しているはずの大腸菌なのに、時として私たちを病気にすることもあり、細菌を含む微生物には善玉も悪玉もありません。このコラムを通して、友でもあり敵でもある細菌を、正しく接し正しく恐れていただけたら幸いです。