2016

05/15

糖尿病と薬の服用

  • null

小黒 佳代子
株式会社メディカル・プロフィックス取締役、株式会社ファーマ・プラス取締役、一般社団法人 保険薬局経営者連合会 副会長

ドクターズプラザ2016年5月号掲載

小黒先生の薬の話Q&A(37)

薬の組み合わせによる血糖値の変動に注意

糖尿病薬と市販薬の組み合わせ

Q1 インスリンを打っている人が風邪をひいた場合、市販の風邪薬を飲んでも問題ないでしょうか?

A1

発熱の際によく服用されるアスピリンや、風邪薬の中に含まれているエテンザミドは、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌を促進するなどの働きもあり、血糖値を低くする作用があります。糖尿病の方が、これらの成分が含まれている風邪薬を服用するときには、低血糖に注意する必要があります。

また、鼻炎の薬によく含まれ、血管を収縮させることで鼻づまりを改善するプソイドエフェドリンは、交感神経刺激作用があり、肝臓でのグリコーゲンの分解を促進させて血糖値が上がることがあります。そのため注意書きで糖尿病の方「服用してはいけない」とされています。同様に交感神経刺激作用のあるメチルエフェドリンや生薬のマオウも「服用前に医師や薬剤師に相談すること」となっています。このようにインスリン注射の有無に関わらず、糖尿病の方が市販の風邪薬を服用するときには、血糖値が変動することがありますので注意が必要です。風邪の時には、病気を治そうとするために様々なホルモンが体の中で活発に分泌され、インスリンの分泌量が減ってしまうために血糖値が高くなる傾向にあります。しかし一方で、風邪のために食欲が落ちている場合には、薬の服用やインスリン注射によって、低血糖を起こしてしまうこともあります。病気の時には血糖値が変化しやすいので、糖尿病の方は血糖値をまめにチェックして注意するようにしてください。

糖尿病薬の種類と服用のタイミング

Q2 糖尿病の薬には食前のものと食後のものがあるのはなぜですか?

A2

糖尿病の薬の効果は、インスリンを分泌しやすくすること、食べ物の消化や吸収を抑えること、肥満などによるインスリン抵抗性を改善することに大別されます。食事による糖の消化を抑制して吸収を遅らせるαグルコシダーゼ阻害薬という種類の薬は、食事の時に効果を発揮するので食直前に服用しなければ意味がありません。服用を忘れた際には食事中でも構いませんのですぐに服用すれば効果がありますが、食後では効果はありません。また、速効性のインスリン分泌促進剤も食事による血糖値の上昇を抑制する目的ですので食直前に服用する必要があります。15分くらいで効果が出てくるので服用のタイミングが早過ぎると低血糖を起こしてしまうことがあります。

スルホニルウレア剤(SU剤)も膵臓のβ細胞のSU受容体に結合してインスリンを分泌する薬剤ですが、作用時間が長く、食前でも食後でも良いとされています。また、肝臓での糖の分解を抑制したり、糖の吸収を抑制して血糖値の上昇を防ぐビグアナイド系の薬剤も、食前、食後を問わず効果があります。ビグアナイド系の薬剤はインスリン抵抗性も改善します。インスリン抵抗性とは、肝臓や筋肉、脂肪細胞などでインスリンが正常に働かなくなった状態のことを言います。インスリン抵抗性があると、食事で高くなった血糖値を感知してインスリンが分泌されても、筋肉や肝臓が血液中のブドウ糖を取り込まないため、血糖値が下がりません。チアゾリジン薬もインスリン抵抗性を改善します。インスリン分泌とは直接関係がありませんので、単独では低血糖を起こしにくく、朝1回の服用となっています。

また最近多く使用されている、インスリン分泌を促進するインクレチンというホルモンの働きを強めるDPP-4阻害薬は、食事による影響が少ないので食事に関係なく服用することができます。糖尿病の薬剤は、患者さん個々の状態によって多種を組み合わせることが多く、単独では低血糖を起こしにくい薬剤であっても、組み合わせることによって低血糖のリスクは高まりますので注意してください。

 

フォントサイズ-+=