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第4次産業革命とメンタルヘルス

メンタルヘルス

西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本外来臨床精神医学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。
ドクターズプラザ2021年9月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(59)

コロナ禍で大きく変わった社会

都心に位置する私共の診療所の患者さんは、今もなおコロナ前の8割程度に減っています。会社がリモートワークになった今、電車などを乗り継いで都心の診療所に来るのを避け、歩いて行ける地元で受診するようになられたのでしょうか。その一方で、コロナ禍以来、何年かぶりで遠方から再受診する患者さんもいます。外来のスタッフは、何年かぶりの再受診の患者さんが多く、新しい患者さんを受け入れられないと悲鳴を上げています。

再初診をする患者さんたちが一様に訴えるのは、「前のように具合が悪いわけではないんです。でも周りの社会がすっかり変わり、漠然とした不安が焦りや落ち込みになっているような気がします」と訴えます。すっかり消えていた不安発作が何年かぶりで現れた方もいます。道を歩いていると涙が止まらなくなって、悲しいわけではないのに、自分の寄る辺がないように感じて受診した方もいます。以前のように周囲から、見るからに具合が悪そうだからと受診を勧められたわけではありません。しかし、この不安や寄る辺のなさを、人と会って話すことができない、交流を避けなければならないと感じ、クリニックを受診するのです。

2020年度の自殺者は全国で2万1081人となり、11年ぶりに増加に転じました。前回の増加もリーマンショックという大きな社会経済的な動揺の直後でした。男性の自殺者はわずかに減少した一方、女性は15%増加し、20歳未満が44%、20代が32%増加し、若年女性の自殺の増加が話題になっています。日本の社会はかねて、女性、若年者が弱者であるといわれます。年功序列が暗黙の了解となり、高齢者、継続勤務者を守る社会といわれています。法律も正規雇用の者を守るシステムです。結婚、出産で継続雇用が困難な女性や、労働市場に参入していない若年者の雇用は不安定です。コロナによる大きな社会変化が起こっています。若年、女性、子どもが直撃されているといえるでしょう。

対人接触は必需品ではない!?

コロナ禍によってもたらされた社会の変化は、第4次産業革命ともいわれています。第1次から第3次は石炭、石油、原子力と、モノによる革命でした。今回の革命はソフトによる革命です。コロナ禍を収束させるためには、物理的に交流せず、孤立することが推奨され、交流はバーチャルやインターネットに限ることが求められています。コロナ禍が始まり1年以上経過した今、ほとんどの会議はリモートで行われるようになり、それで事が足りるということを多くの人は発見しました。対人接触は必需品ではないということが立証されてしまいました。

こころの発達障害である自閉スペクトラム症といわれる特性を持つ一群の患者さんがいます。自閉スペクトラム傾向を持つ人たちにとっては、人との交流は難行苦行でした。このコロナ禍がもたらしたリアルな対人交流がない世界が、彼らにとってはとても居心地がいいようです。自閉スペクトラム症の人たちは「ゴールが明示され、工程が明確で納得できるようになっているのは、すごく分かりやすくていい。察することや気配りをしないで済むのでホッとする」「在宅に救われた」と訴えます。

第4次産業革命は、群れで暮らす特性を持つ多数派の人にとっては新しい困難な社会をもたらしつつあります。群れることが必需品ではなく、嗜好品となる世界がすでに来ているとしたら、それはそれで何となくワクワクしませんか? 群れて、協力し、集積することによって地球に人造物を堆積した人という種が孤立し、捨てることを覚える時が来たのかもしれませんね。

 

ドクターズプラザ2021年9月号掲載

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