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私はADHD(注意欠如・多動性障害)?

メンタルヘルス

西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。
ドクターズプラザ2016年11月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(40)

生活環境の変化が気付きのきっかけに

診断基準の改訂で増える受診者

「私は発達障害では?」と訴え、外来を訪れる人が増えています。また、一方では他院であっさりとした初診面接の後、ADHDと言われたことを疑問に思い、受診する人もいます。実際ADHDにおけるWISC(児童向けウェクスラー式知能検査)やWAIS(ウェクスラー成人知能検査)、WHO作成のASRS(成人期のADHD自己記入式症状チェックリスト)は傍証に過ぎません。12歳未満に臨床症状が充分あったことを詳細な聴き取りにより、事実を明らかにすることによって診断されます。よく知られているように、「記憶は改ざんされる」ので、養育者(父母や祖父母など)から一致して同一の叙述を得る必要があります。大人になるまで顕在化しなかったADHDの方にとって、この聴き取りは困難な場合が多いのです。というのも、傍から見て現在の適応に問題がない場合、過去の適応にも問題がなかったように思ってしまう傾向がありますから。

成人してから気付くことも多いADHD

Aさんは、シングルマザーとして二人の子どもを育てている看護師さんです。就学前健診で下のお子さんがADHD傾向を指摘されました。保健師さんが訪問し、子どもにさまざまな質問をしましたが、それを聞いていると、自分にも当てはまることがたくさんありました。看護師として働いていますが、同僚と比べてヒヤリハットの提出数は多いと日頃感じていましたし、指差し確認を繰り返しても、ケアレスミスが起こってしまいます。小学校の頃、「看護師さんになりたい」と言った時に、担任の先生から「人の命を預かる仕事だから、今のお前のように忘れ物が多いのではダメだ」と言われたことを思い出しました。その時のことがきっかけで、小学校高学年になった時には、前日の内に次の日の用意をし、朝に再チェックをすることを習慣としていました。そして机の前に「看護師さんになる」「忘れ物をしない」と標語を貼っていたことを思い出しました。中学・高校時代は女子校で規則も厳しく、枠にはまっていたこともあり、日常生活で目立ったトラブルは起こりませんでした。しかし、看護学校の実習の時、指示箋の受け取りミスがあり、大きな問題となったことを思い出しました。看護学校を卒業して、同世代に比べると比較的高給を得るようになってから、まるで「買い物依存」のようにショッピングが止まらなくなりました。激務明けの日に、先輩から叱責されたストレスを抱えてデパートに寄ると、何枚も持っているのにジャケットやワンピースを購入し、帰宅してベッドに直行して寝込んでしまいます。買った服をショッピングバッグのまま何日も放置し、家の中はまるで未開封品のゴミ溜めのようになっていました。

2013年5月に13年ぶりにDSM(アメリカ精神医学会の診断基準)が改訂され、ADHDの診断も大きく変わりました。症状発現が確認される年齢が7歳以前から12歳以前に引き上げられ、ASD(自閉症スペクトラム障害)との併存が認められ、17歳以上の診断に必要な項目が6項目から5項目に減るなどの変更でした。この診断基準変更の結果、外来では発達障害、特にADHDを疑って受診する人が増えてきました。ADHDの主な症状は、不注意、多動性、衝動性の三つですが、成人になって初めて医療機関を受診する場合は、これらの症状によって受診することはほとんどないと言っていいでしょう。小さい頃から慣れ親しんだ不注意や多動、衝動性は、本人にとってむしろ個性の一つのように捉えられており、今更悩むほどのことではありません。むしろ環境の変化、例えば就職や昇進、結婚や出産などに伴って適応が難しくなり、落ち込んだり問題を起こしたりして受診する場合が大半です。

Aさんは業務上、致命傷と言うべきミスの多さを克服しようと努力してきたシングルマザーです。また、独身時代には多買などの衝動性に悩んできました。子どもがADHDとして事例化することによって、自らの問題に気付くことができました。確認しなければと受診したクリニックでは、実家の母親への電話での聴き取りや、小学校時代の通信簿などの資料の確認、WAISなどの傍証となる検査、ADHD診断のための構造面接など、詳細な診察が終わるのに約3カ月かかりました。終了後の告知では、拍子抜けがするほど納得感があり、「ああ、やっぱり」と思いました。

ADHDは生得的なものですが、それに伴う二次障害は工夫次第で防ぐことができます。上手にコンサータ®やストラテラ®などの薬物を使うことも大事です。自分の脳の個性を知り、不注意や衝動をコントロールしていく工夫をしましょう。

 

ドクターズプラザ2016年11月号掲載

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