2017

07/20

神経衰弱と慢性疲労症候群

  • メンタルヘルス

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西松 能子
『よしこ先生のメンタルヘルス』
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業。
公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職。
日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

隔月刊ドクターズプラザ2017年7月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス (44)

神経衰弱とは?

5月の連休も明け、「遊び疲れかなあ」と思いつつ、いつまでも疲労感が抜けず、だるさが取れないと感じていらっしゃる方はいませんか?Aさんは大学を卒業し、この4月に入社しました。Aさんにとっては何もかも新しい世界で元気一杯、働いていました。大学生活とは違う毎日の通勤する生活に慣れたところでゴールデンウィークに入りました。ゴールデンウィークは大学時代の友人たち3人で国内旅行に行きましたが、慣れない雑魚寝で気を遣いました。そうこうしているうちに、何となくだるいまま、もう2カ月が経ってしまいました。

ここ1、2週は会社から帰ると動けないほど疲れ果て、微熱が出てきます。何となく咽喉がいがらっぽく、痛く感じ、首のところのリンパ節も腫れているような気がします。内科に受診したところ、「少し喉は赤いけど、血液検査では何も異常がない、レントゲンも大丈夫」と言われ、「心療内科とかメンタルヘルス科を受診してはどうか」と勧められました。心療内科を受診すると、「うつ病でもないし、不安症でもないし、昔で言ったら神経衰弱かなあ」と言われ、『神経衰弱』という診断書で休職することになりました。Aさんは、「神経衰弱」と聞いて、「聞いたことのない病名だなあ。トランプじゃあるまいし、一体どうなってしまったのか」と感じました。

神経衰弱という病名は、多くの国においてすでに一般的には用いられることが少なくなった病名です。実際、過去において神経衰弱と診断された人々は、今ではうつ病とか不安障害と診断されていることでしょう。ICD ― 10という国際診断基準の中では、「他のどの神経症症候群の記述よりも神経衰弱の記述によりよく適合する症例は存在する」と述べられています。「(神経衰弱の)一つの病型では、主要な病像は精神的な努力の後に疲労が増強するという訴えであり、しばしば職業の遂行あるいは日常的な仕事を処理する能力の低下と結び付いている。精神的な易疲労性は、典型的には注意を散漫にさせる連想あるいは回想の不快な侵入、注意集中困難や全般的に非能率的な思考として述べられる。

もう一方の病型では、努力のあとの身体的あるいは肉体的な衰弱や消耗が強調され、筋肉の鈍痛と疼痛とくつろげない感じを伴う。両型において、めまい、筋緊張性頭痛、全身の不安定感のようなさまざまな他の不快な身体感覚が頻繁にみられる。精神的および身体的な健康状態の悪化に関する心配、易刺激性、アンヘドニア、そして多様で軽度の抑うつと不安の共存などは全て一般的である。睡眠はその初期と中間期においてはしばしば障害されるが、睡眠過剰が目立つこともある」と記載されています。つまり、心身の疲労、衰弱、消耗に痛みや心身の不安定感を伴う症状です。

慢性疲労症候群との違い

これを読んで、「慢性疲労症候群じゃないの?」と思った方もいるのではないでしょうか。そう思われるのも当然です。実は神経衰弱の診断の中には、消耗症候群という極めて慢性疲労症候群に近い病態が含まれます。神経衰弱が古典的な病名とするならば、慢性疲労症候群は、ごく新しい病名で、原因不明の慢性的な疲労を主訴とする病態の解明を目的に1988年に米国疾病対予防管理センターにより提唱された疾患概念です。

現在まで、これらの慢性的な疲労の特定に結び付くような検査異常(バイオマーカー)はありません。したがって、多くの精神疾患の診断と同様に、この疾患の診断にも臨床症状を中心とした診断基準を用いることになります。現在、厚生労働省(旧厚生省)の慢性疲労症候群(CFS)診断基準は、生活が著しく損なわれるような強い疲労を主症状とし、少なくとも6カ月以上の期間、持続ないし再発を繰り返すとしており、慢性疲労の原因となる疾病を除外する必要があるとしています。つまり、はっきりしたバイオマーカーのある病気ではないことが条件となるのです。

慢性疲労症候群は、微熱、咽頭痛、リンパ節の腫れ、原因不明の筋力低下、筋肉痛あるいは不快感、軽い仕事の後に1日以上続く全身倦怠感、頭痛、関節痛、睡眠障害などが臨床症状です。どうやらAさんの症状は、神経衰弱とも慢性疲労症候群ともいえます。神経衰弱も慢性疲労症候群にもストレス因があるとされています。いずれの疾患においても、治療では、認知行動療法、運動療法などと共に向精神薬が用いられます。この古くて新しい疾患の原因と有効な治療法が、早く発見されますように。