2020

05/19

知られていない薬剤師の活動

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小黒 佳世子
『薬剤師のお仕事』『小黒先生の薬の話Q&A』連載
株式会社メディカル・プロフィックス取締役、株式会社ファーマ・プラス取締役、一般社団法人保険薬局経営者連合会 副会長

ドクターズプラザ2020年5月号掲載

薬剤師のお仕事(7)

はじめに

新型コロナウィルスの感染が広がり、まるで大きな天災のような影響が出ております。インターネットを通じてさまざまな情報が飛び交う中で、医療業界では医師会をはじめ、感染した患者の対応に追われています。薬剤師の活動はどこにも報道されておりませんが、ダイヤモンド・プリンセスが大黒埠頭で停泊し、感染者が船内に隔離されていた時には、神奈川県薬剤師会や東京都薬剤師会の薬剤師が厚生労働省からの要請を受け、船内の患者さんの日常服用している薬剤などを仕分けするという活動を実施していました。
薬局ではマスクが入手困難となり、フェイクニュースとも思われる情報でさまざまな商品が品薄になっているドラッグストアもあります。薬剤師として、正確な情報を患者さんに伝えていきたいと思います。

薬剤師の責務とは

薬剤師の働きは国民にまだ十分に周知されておりません。特に薬局薬剤師は薬を渡す受け渡し所としての薬局に居て、在宅医療においても薬をお届けして説明するという以外の業務を想像されない場合も多いでしょう。薬剤師は看護師と異なり、注射などの処置はできません。ただし、薬剤の指導として外用薬の使用方法をご説明しながらご一緒に使用してみることは可能です。可能というよりも、薬剤師が薬剤を効果的に使用できるように指導することは当然の責務と言えます。褥瘡などの皮膚創傷では特にそれが必要です。今回は、耳下腺がんの在宅患者さんの療養に携わった経験をご紹介します。

私は昨年春から耳下腺がんの60歳代女性のYさんの在宅訪問について、医師から依頼を受けました。Yさんの耳下腺がんは末期の状態で、がんが自壊して多量の滲出液とともに悪臭がありました。病院ではモーズペーストといって、皮膚がんなどを化学的に固定して削り取ることをがんがなくなるまで繰り返すという治療のために使用する、院内で調整した薬剤を定期的に使用していました。しかし、がんの部位が頚部に近く、出血の可能性があることから外科的に切除が可能なまでのモーズペーストの処置はされておらず、主に止血目的で使用されていました。モーズペーストは保険適応の医薬品として認可されていないために在宅医療では使用できず、日常的には悪臭の防止を目的としたメトロニダゾールという抗真菌薬が含まれているゲル剤で処置しておりました。

訪問診療が始まって、私の介入を機に、滲出液も多いことから吸水性のある基剤を使用した手作りのメトロニダゾール入りの軟膏に変更を提案し、処方となりましたが、徐々に腫瘍が大きくなるにつれて病院で塗布したモーズペーストに亀裂が入り、出血が生じるようになりました。私はさらに吸水性の高い板状のヨードが含まれている軟膏への変更を提案し、しばらくは使用しておりましたが、ついには出血が制御できなくなり、夏にはご本人の不安から入院となってしまいました。

退院前のカンファレンスでは、入院中に塗布したモーズペーストをできるだけ温存させるために、私は論文で効果が発表されていた亜鉛華でんぷんの腫瘍部への散布を提案しました。亜鉛華でんぷんはモーズペーストに使用される成分の一つで、分泌物を吸収し、さらに収れん作用を発揮して乾燥させる効果があります。また、ケアマネジャーより、訪問看護師の負担が多いことから、私に週1回定期的に介入してほしいと依頼があり、毎週土曜日は私の担当となりました。

退院後は毎週土曜日にご主人とともにYさんの処置を検討しました。年末年始も変わらず訪問し、腫瘍部の出血は制御されておりましたが、だんだんと腫瘍周囲の正常皮膚が亜鉛華でんぷんの刺激によって赤くなってきてしまいました。また、耳下腺がんはその後も大きくなり続け、再びモーズペーストに亀裂が入り、徐々に剥がれて出血するようになってきました。私は薬剤師の友人にも相談し、止血薬のアルギン酸ナトリウムを混和した軟膏を提案し、使用開始となりました。数週間は出血が制御されておりましたが、貧血が進行して、Yさんは再び入院となり、その翌朝亡くなられました。

在宅で長期間にわたり毎週外用薬の使用方法を患者家族に指導しつつ介入した貴重な私の経験となりました。

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