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睡眠負債による自己破綻に要注意!

睡眠

岡島 義
東京家政大学人文学部 心理カウンセリング学科 准教授
DRP Healthcare magazine 2020年5月号掲載

睡眠と健康01

睡眠負債とは?

「睡眠負債」という言葉をご存じだろうか。これは2017 年に流行語大賞に選ばれたワードである。健康寿命、健康経営という言葉もよく聞くように、現在は健康ブームの時代である。「24時間、戦えますか?」というフレーズが流行った30年前は遠い昔である。しかし、この流れ、科学的根拠に基づいているのだ。

睡眠負債とは、その人にとって必要な睡眠時間が確保されていない状態のことで慢性化した睡眠不足のことを指す。ただ、言葉から連想するイメージとは違って、睡眠不足は「寝不足」や「徹夜」を連想しやすくて、「それでも頑張った」みたいなポジティブな印象だが、睡眠負債というと、「借金」っぽくて「何だかいけないものを抱えているので返さなきゃ」というネガティブな印象を受ける。適度な睡眠負債は寝つきを早めるというメリットもある。要は、返せる程度の借金ならいいが、返せないほどの負債を抱えるのが問題になる。

睡眠負債を抱えることで、強い眠気はもちろんのこと、認知、行動、感情、注意・記憶、身体などにさまざまな影響が出てくる。
認知面 嫌な考えが浮かびやすくなったり、くよくよと後悔しやすくなる。
行動面 攻撃的になったり、衝動的で落ち着かなくなる。うっかりミスもしやすくなる。
感情面 憂うつや不安感、イライラ感が増して、やる気も低下する。
注意・記憶面 集中力、記憶力が低下する。
身体面 風邪を引きやすくなる(言い換えると、ウイルスに感染しやすくなる、図1)、
インフルエンザの予防接種の効果が半減する、痛みを強く感じるようになる、太りやすくなる、脳の老廃物の一つであるアミロイドβが排出されにくくなる。

そして、こういった問題が、対人関係を悪化させたり、学力や仕事のパフォーマンス、生産性を低下させる。さらには、うつ病、高血圧症、疼痛、糖尿病のような病気にも関係してくる。実は、日本人のほとんどは睡眠負債状態といえる。なぜなら、日本人は睡眠時間の「短さ」世界1位なのだ。しかも睡眠負債を長く続けていると、睡眠不足症候群という睡眠障害になってしまう。これは、睡眠負債の蓄積による耐えがたい眠気が特徴なのだが、その治療法は、ずばり十分な睡眠時間を確保することでしかない。
ある研究では、4時間睡眠を続けると9日ほどで、徹夜と同じくらいのパフォーマンスしか発揮できなくなることが分かっている。なんと、6時間睡眠でも2週間ほどで徹夜と同じレベルになるのだ。一方で、眠気に関しては、徹夜した人よりも、感じにくくなる。つまり、自覚症状が乏しくなっている状態であるため、当事者は問題意識が希薄である。

たかが睡眠、されど睡眠~正しい睡眠の知識~

寝だめはダメ?

平日と休日の睡眠時間が大きくずれてしまうことを「社会的時差ぼけ」という。要するに、平日の睡眠負債を解消するための「休日の寝だめ」がその原因となる。ここ10年くらいで、社会時差ぼけの研究が進み、

①休日の寝だめによって、睡眠リズムが崩れてしまうこと
②そうなると、ブルーマンデー( 憂鬱な気分)が生じやすくなること
③疲労感や眠気が通常通りに戻るのに、3、4日かかること( 図2、3)

 

が明らかにされている。要するに、平日の半分は、調子が上がらないから、仕事面で充実しない。休日は長く寝てしまうから、プライベート面で充実できない可能性が高い。

睡眠負債は国益をも蝕む

日本の喫煙による経済損失は、年間2.5兆年。これは2015 年に厚生労働省から公表された試算である。では、睡眠不足・睡眠負債はどうか。実は、その6倍の15兆円である! 国民総生産( GDP )に換算すると約3%の損失となる。週の平均睡眠時間を1時間延ばすことで、長期的には生産性を約5%上げられるという試算もある。こんな研究もある。17時間、覚醒し続けていた場合、その時のパフォーマンス
は、血中アルコール濃度0.05%(ほろ酔い期)のパフォーマンスと同程度まで低下するというのだ。呼気1リットル中のアルコール量は0.25mgとなり、飲酒運転取り締まり基準でいうと、免許取消に相当する。

つまり、残業して頑張れば頑張るほど、パフォーマンスは落ちていく。

睡眠は「マグロのトロ」

江戸時代、マグロのトロ部分は「猫またぎ」と呼ばれていた。魚が大好物な猫でさえも、またいで通るほど不味い魚ということらしい。しかし、科学の発展や醤油の普及によって形勢が逆転し、現代は高価なものになっている。睡眠も同じである。昔は不要だからといって削るのが当たり前だったが、今は人生においてとても高価なものであることが証明されている。たかが睡眠、されど睡眠。まずは睡眠時間を少しでも長く取れるように、生活習慣を変えられるか確認し、睡眠中心の生活に切り替えてみてほしい。

図1~3の出典:岡島義「1時間多く眠る!睡眠負債解消法」( さくら舎、2020 )

DRP Healthcare magazine 2020年5月号掲載

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