2015

05/16

皆がスーパーウーマンになりたがる?

  • メンタルヘルス

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西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2015年5月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(31)

妥当性のある現実検討力が求められている!?

働くなでしこ大作戦

「働くなでしこ大作戦」が政府から発信されたのは、3年ほど前でしょうか。白のパンツスーツ姿の女性が颯爽と歩き、「結婚もする。子育てもする。自分らしく仕事もする」と言っている政府広報が広く雑誌に掲載されました。何やら現在の女性は多方面からあれもこれもと期待されているわけですが、少し望まれ過ぎかもしれません。一方では、女性自身もあれもこれもと望む時代になっています。社会も「女性に学歴はいらない」とは言いませんし、女性自身も女だからといって諦めることはありません。男の子以上に生真面目に勉強をしたり、仕事をしたりします。その上、学業や仕事で成功をしても、結婚しなければ、子どもを産まなければ、自ら負け犬と自嘲する風潮もあります(酒井順子著『負け犬の遠吠え』2003年)。社会も女性自身も「あれもこれも」と望む時代です。

Aさんは、大学院卒のキャリアとして上場企業で働いていました。入社以来仕事の上で女性であることを意識したことはありませんでした。同期の他のスタッフと同様に海外出張もこなしてきましたし、工場のチームリーダーとして地方で何年か働いたこともあります。30歳を前に大学時代から交際していたパートナーと結婚しました。結婚後もシングル時代と変わりない生活が続いていましたが、35歳の時に高齢出産という声に後押しされるように出産しました。産休後、復職しましたが、時短勤務の中で業務をこなすことに疲れ果て、夫との何回もの話し合いを経て、退職し子育てに専念することにしました。復職するつもりで預けていた保育園から退園し、24時間子どもと付き合う日々が始まりました。

夫は深夜に帰宅し、1日中誰とも話さずひたすら子どもと付き合う中で、Aさんはすっかり落ち込んでしまいました。子育てが辛くなり、誰でも簡単にこなしているはずの子育てがとてつもなく難しく感じられるようになりました。ちょっとした物音で目が覚め、寝ても疲れが取れず子供の泣き声に敏感になってしまいました。疲れ果て体重もずいぶん落ちました。

ある日、訪ねてきた母に「ずいぶんと泣かせないようにしているのね。子どもは泣くのが仕事だから泣かせておいていいのよ」と言われ、ビックリしてしまいました。泣かせないように、おむつを濡らさないように、汗をかかせないように、100点満点の何のトラブルもない子育てを望み、すっかり疲れ果てていた自分に気づきました。仕事を辞めたのだから子育てはすべて自分の責任と夫も考えているに違いないと思っていました。「話し合ってみたら」という母の勧めに従い、休みの日にと子育てについて話し合うと、夫は「のんびり育てていこうよ」、「家事を休みの日には代わってやるよ」などとも言います。

主婦は1日中子どもと自分しかいません。専業主婦なのだからすべて自分の責任と思っていたのは思い込みのようでした。一人で抱えて、日中は自分一人でなんだかすっかり孤立して孤独でした。毎日、夫も疲れて帰ってきて労う余力もありません。勇気を出して話してみて良かったと感じ、なんだか、少し気分が晴れてきました。

SOSを伝えることが最初の一歩

現在は、社会も女性もスーパーウーマンを望む時代です。女性に「結婚もして子育てもして働いて欲しい」と望んでいるのは政府だけではありません。女性自身もあれもこれもと望んでいるのです。あれもこれもできないとダメ人間と自分を責めてしまいます。若者の自己価値が低い国と言われますが、女性もまた、自らあれもこれもと望み、叶わないと自分を責める構造に陥っているのかもしれません。

うつにならないコツ、バーンアウトしないコツは周りにSOSを伝えることが最初の一歩かもしれません。あれもこれも望めるようになった時代が何だかうつ病の増加する時代とも言えるのかも知れません。諦められない時代、多くを望める時代は逆に過酷な時代とも言えるのかもしれません。いま私たちに求められているのは、妥当性のある現実検討力と言えるでしょう。うつにならないために、自分らしく現実の足元を見て、辛いなと思ったらSOSを伝えていきましょう。