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病院は増築や改修を繰り返して生き続ける

病院建築

服部 敬人
株式会社伊藤喜三郎建築研究所
執行役員 設計本部第二設計部長 一級建築士 認定登録医業経営コンサルタント
隔月刊ドクターズプラザ2019年9月号掲載

病院建築(5)

「百年建築」とは、最近よく使われる言葉です。病院の場合は医療技術の進歩に追従するためにも、そこまで寿命が長くないのが現状ですが、それでも新築のケースは数十年に一度であり、多くの病院は増築や改修を繰り返して生き続けることになります。特に病院建築の場合、増築や改修は必要不可欠であり頻繁にその機会は訪れます。増改修では独特のノウハウが求められ、新築とはまた違った難しい課題も多く、設計者にとっても専門的な技量が試されます。今回は増改修の話です。

増改修は新築時に始まっている

増築、改修という代物、実は新築時点の遺伝子を受け継いでいます。新築時に広い敷地を確保して伊勢神宮のような式年遷宮を想定することはできないまでも、増築スペースをあらかじめ準備しておきたいものです。延伸方向は医療機器の更新が想定できる放射線や検査といった診療部門に連続して確保する例が多く、設備インフラの接続も考慮して無理なく工事が施工できるような設計となっていると、さらにベストです。

将来の改修を見込んで、新築時にあらかじめ準備すべきこととして、間取りの変更が予想できる壁をパネル式のパーテーションにすることや、設備シャフトをできる限り集約し、場合によっては外部に設けるなどの工夫が考えられます。病室や福祉施設の居室では、将来の個室化や部屋数の縮小を見込み、改修時に支障がない設計としておくことも良いでしょう。先のこととはいえ、予測できることは仕込んでおくことです。既に将来の増改修の設計は新築時に始まっていると思ってください。

増改修にはミステリーがいっぱい

しかしながら、増改修とは既に存在している建物を話題とするのが普通です。特に昭和年代に建設された鉄筋コンクリート造の建物は内壁がコンクリートで造られていることも多く、「コンクリート壁を撤去したい」との問い合わせがよくあります。耐震壁のように構造的に必要な壁と、解体しても差し支えない壁があり、具体的には建物全体の構造バランスも考慮して、どこまで解体可能かを検証します。

コンクリート壁の解体は一例です。間取りや広さを考慮し、よく練られた改修計画であっても、建築基準法、消防法、医療法という決まりごとが問われ、多くの場合、何らかの調整が必要になります。窓開口を例に取ると、火災時の煙を逃がすために必要な部分、光を確保するために必要な部分、避難や消防隊の侵入経路を確保する部分というように細かく決められています。廊下や階段についても、2方向避難や避難距離、幅員や段差といった寸法規定が細かく存在します。また改修の場合、積載荷重の制限、防火区画壁の設定、設備配管配線の切り回しなどは、既にあるものを考慮した上での計画になります。さらに、竣工年代によっては、アスベストを含む建築材料、病院特有の廃棄物質の対処も課題になることがあります。改修スペースが十分でも、法規制については建築士の判断が必要になりますので、早めに相談してください。新築計画以上に、思わぬところに落とし穴があるのが増改築の特徴といっても良いでしょう。増改修にはミステリーがいっぱいあるのです。

増改修では想定外のことが起きる

病院事業者の一番の関心事としては、「増改修の費用がどのくらいになるか」との疑問ではないでしょうか。改修工事では、単純に面積当たりこのくらいという基準を提示することが難しいのが実情です。新築の場合でも立地条件により建設費が変わるように、改修の場合は工事エリアの場所によっても違います。当然ながら手術室と診察室の改修では大きく異なります。解体費用、仮設費用、休日夜間工事の設定など、完成後では目に見えない費用も掛かります。病院を運営しながらの工事では、エリアを分割して紙芝居のように順番に施工することや、騒音や振動を考慮した工事の時間帯の制約により費用がかさむことがあります。例えば、休日夜間工事が適当な診療部門と、休日夜間など静かな時間帯には施工が難しい病棟部門のように用途によっても異なります。また、一部分の改修工事であっても、病院全体に関わるような設備工事が発生することがあります。「地下の改修なのに、電気容量が増えるため屋上のキュービクルを増設しなければならない」というように、思わぬ工事の出費で想定外となることもあるのです。これこそ、素人目にはミステリーかもしれません。

増改修や修繕を通していろんなことが見えてくる

建物では、時代の流れとともに、使わない部屋と足りない部屋が出てくるものです。病院に限らず、技術革新や行政指導の変化に伴い避けられない宿命でもあります。増改修とは、それが建物の一部分であっても、病院全体の間取り、設備容量、案内サイン、さらには感染管理やセキュリティーまで、現在のありのままの病院を見直す良い機会でもあります。また、医師、看護師、技師、事務職、経営者、それぞれの立場で思い描く、微妙に異なる病院像を整理する機会ともなります。建築への愛着とは、竣工後に時間をかけて振り返ること、正面から向き合うことにより生まれてきます。

 

隔月刊ドクターズプラザ2019年9月号掲載

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