2018

09/04

病院のユーザーとはダレなのか

  • 病院建築

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服部 敬人
株式会社伊藤喜三郎建築研究所 執行役員 設計本部第二設計部長
一級建築士 認定登録医業経営コンサルタント

ドクターズプラザ2018年9月号掲載

病院建築(2)

「ユーザー・オリエンテッド・デザイン」という言葉があります。そのまま訳すと、「利用者志向の設計」となります。利用者のために設計すること、利用者あっての建築です。それでは、病院建築のユーザーは「患者さん?」 本当に「患者さん」と言いきって良いのでしょうか。世の中の仕組みが変わり、技術が進歩すると、病院に限らず建物の用途は微妙に変化します。利用者、建築主や運営主体など施設に関わる人々も多様化します。今回は、「病院のユーザーはダレなのか」と題して、病院建築の利用者像に迫ることにします。

ユーザーは患者さんだけではない

病院を開設しようとする場合、地域特性、圏域人口動態、周辺医療機関配置などの立地条件をスクリーニングして、患者さん像を見極めます。このように施設計画にとっては利用者像を分析することが基本的要件になります。病院の場合には、患者さんを想定して、その立地、計画、設計、完成後のイメージ作りまで進めることになります。これは必要条件と言っても良いでしょう。

しかし、「ユーザー・オリエンテッド・デザイン」としては、これだけでは十分ではありません。医療を受けるユーザーがあれば、医療を提供する側のユーザーが必要です。医師、看護師、コメディカル、医療事務、運営者に至るまで病院のスタッフのための建築空間の充実が問われます。

病院設計のプロポーザルやコンペでは必ずと言っても良いほど、「スタッフのためのアメニティー」がテーマになります。スタッフのための個別の空間を用意することに加えて、患者さんや一般来院者と共有できるアメニティーを効率的に設計することを提案することがあります。食堂や売店、屋上庭園、講堂等を、ダレもが使うことができるアメニティーとして、とびっきりデザインして提供する。講堂を昼食時には食堂として使用する、屋上庭園をリハビリ訓練の場としてデザインする、効率的な使い方を提案してクオリティーを上げる工夫です。

キーワードは、「おもてなし」

次に話しておきたいユーザー像は、患者さんの家族を含めた健常者です。町医者といわれた「かかりつけ医」が見直され、平成30年の診療報酬改定では、地域医療連携について手厚い内容になっています。エントランスの造り方も、地域や家庭との結び付きがポイントになっており、総合コンシェルジュに加えて、地域医療連携、相談窓口の増設設置、入退院窓口の充実、その内容もホテルを想定したように高級かつ個室化が求められています。まさに、病院(=ホスピタル)の語源が、おもてなし(=ホスピタリティ)である所以でしょう。中でも、今回の診療報酬の改定では、がん緩和ケアに対する項目が重視されているようです。緩和ケア病棟では、治療開始の早期からのケアの実践が有効であり、家族との時間を過ごす場、お亡くなりになった後の遺族の対応まで、ユーザー像には家族の方々がしっかりとイメージできる計画としなければなりません。

また、家族、健常者という範疇では、産科の設計は少し特異です。ここでのユーザー像は、母親、赤ちゃんのみならず、父親、おじいちゃん、おばあちゃん……と広がります。特に、産科専門クリニックでは、病院というインテリアを越えて、少子化の競合にも打ち勝つことができるホテルライクのデザインが求められます。設計者としても、病院から360度、考え方を変えて臨まなければなりません。やはり、キーワードは、「おもてなし」です。

物言わぬユーザー

さて、産科のユーザーである「赤ちゃん」は言葉をしゃべることができません。ある意味、主張できないユーザーです。このように、物言わぬユーザーも存在します。設計者が注目しなければならない、プロとしての役割を問われている部分です。「赤ちゃん」はプライバシーを問われることはほとんどありませんが、意思伝達が思うようにいかない認知症の高齢者や重症心身障がい児者の方々の病室を設計する場合には、看護や介護の「見守り」と個々人の「プライバシー」のどちらを優先して造り込んでおくべきか、病院の方針によって設計がガラッと変わってきます。

また、国際化へ向けたユーザー対応として、建物サインの外国語表記は設計の与条件として必ず確認しなければならい分野となっています。視認性が良く、分かりやすいサインは情報量を絞り込む必要があり、外国語併記との調整が悩ましいところです。

ユーザーのこれまでとこれから

これまでのユーザーは、患者さんにしても、スタッフ、ご家族にしても、比較的というかほぼ、目に見えるはっきり認識できる対象であり、設計者としても実感できました。これからのユーザーは、ロボットや高度医療機器、あるいは医療情報というように、人間だけではなくデータが支配する対象として、そのエリアを拡大することと思われます。病院の造りも変化が必要です。また、これからの病院の役割は、介護や在宅医療の支援をも担うようになり、よりいっそう患者さんの生活との密接な関わりが求められます。病院ユーザーは、「患者さん」であることは間違いありませんが、将来に向けてのユーザー像については、運営者、設計者として、大いに創造力が試されることになります。