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病気の心配、感染の心配

メンタルヘルス

西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。
ドクターズプラザ2020年

よしこ先生のメンタルヘルス(55)

病気への恐怖が阻害や迫害を生むことも

このところ日本では、コロナウイルスに感染するのではないかという不安や恐怖で皆大騒ぎです。あっという間にマスクは売り切れ、中国からの原料によって作られるという風聞からどこのドラッグストアでもトイレットペーパーや生理用品が売り切れてしまっています。今日も出勤してくる道すがら、開店前のドラッグストアには50人以上も列を作っていました。どうやら日本中が目に見えないコロナウイルスに席巻されている様子です。

目に見えない存在は、やはり恐ろしいものですね。空気の中に何やら得体の知れない生き物が潜んでいて、隙あらば襲ってくるような気分に皆が陥っているようです。自分が重篤な病気に罹ることへの恐怖、あるいは病気に罹っているのではないかというとらわれ、死に至る病気への恐怖については、古くから人類が悩まされてきたものです。これらの懸念や確信は、「心気症」といわれてきました。

今から20年ほど前に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)や10年程前から発生しているMERS(中東呼吸器症候群)なども今回のコロナウイルスのグループに入るものです。古くからペストやハンセン病など感染症は死へ導く恐ろしい存在として、多くの社会的不安や迫害をもたらしてきました。私たちは、ウイルスに罹るということではなく、罹るかもしれない、罹ったかもしれない、ということについて、強い恐怖を抱き続けてきました。

受診者の15%は心気症!?

実は、かかりつけ医における受診患者の4〜6%は心気症であるという報告があり、一方では、15%に達するという報告もあります。これだけ毎日ニュースや報道で、「コロナ、コロナ」と言い続けると、誰もが不安になり、外出を取りやめ、家にとどまるようになっているようです。いつもなら人の集まる銀座や渋谷、新宿もこの週末は閑散としていました。あのディズニーランドや上野動物園も休園になりました。

心気症の基本的な特徴は、1つ以上の身体的な徴候、症状について誤った解釈をして、自分が重たい病気に罹った、あるいは罹るのではないかという考えにとらわれることです。人々は、そのとらわれを解消するために、さまざまな検査を求めて行います。それでもその心配やとらわれを説明できるような身体の病気は見つかりません。もっともっとと調べたくなりますが、何の証拠も挙がりません。でも、ずっと心配は続きます。医師から「大丈夫ですよ」と伝えられると、一旦は「自分が大げさに考えていたのかもしれない」「病気ではないのかもしれない」と思います。しばらくすると、また心配になってしまいます。病気の心配のために多くの時間を費やして、日常の生活や社会生活がすっかりおろそかになってしまいます。心配のために動悸がする、寝汗をかいて風邪を引く、少し頭が痛かったりするなど些細な身体的不調が、心配している病気と結び付いてしまいます。

今や、日本中にコロナウイルスに罹ってしまったのではないかという心配が溢れていて、相談センターの電話は鳴りっぱなしと聞きます。また、PCR検査が可能な医療機関に人が殺到しているとも聞きます。接触感染をするのではないかと電車やバスのつり革を持たなかったり、エレベーターの手すりやスイッチに触れようとしない人が目立ちます。コロナウイルスの報道がされて以来、受診する患者さんの中には外出後、着ていた衣類や下着を捨ててしまったりする方もいらっしゃいます。明らかに過剰反応ですね。実際、マスクはコロナウイルスに罹患した場合、咳やくしゃみに含まれるウイルスの飛散を防ぐことはできますが、マスクによってコロナウイルスに罹っている人からの感染を防ぐことは、例外的な場合を除いて難しいというのが医学的判断ですが、電車の中ではマスクをしないと白い目で見られてしまいます。もしあなたがコロナウイルスに罹っていないなら、医学的にはマスクは必要ありません。近くで咳やくしゃみをする人がいらしたら、至近距離ならばハンカチやタオルで目や口や鼻など粘膜を保護するのが良いでしょう。病原体の存在そのものが分かっていなかった中世ではありません。病気に罹った方を阻害したり迫害したりすることのない社会でありますように。

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