2013

03/20

病気にかかるとうつ病になる?

  • メンタルヘルス

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西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職。日本総合病院精神科医学評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2013年3月号掲

よしこ先生のメンタルヘルス(12)

うつ病の生涯有病率は15%、女性に限って言えば25%

コルチゾールの過剰分泌とうつ病との関係

うつ病は人類が文字を発見して以来、記述し続けてきた病態で、旧約聖書のサウル王の物語やホメロスの叙事詩「イリアス」にも述べられています。私たちもうつ病についてはありふれた病気と感じていますが、身体の病気とは関係がないと思われている方も多いのではないでしょうか。

うつ病は生涯有病率が15%、女性に限って言えば25%、4人に1人が一生のうちにかかるありふれた病気です。皆さんの中の10人に1人は、ここ1年の間にうつ病にかかっているはずです(12カ月罹患率10%)。ところが、もし皆さんが狭心症にかかったり、心筋梗塞にかかったり、がんにかかったり、糖尿病にかかったりしたら、うつ病にかかりやすくなると思いますか? 今申し上げた病気は、死につながるような大病ですから、当然うつ病になる率が上がると考える方も多いでしょう。その通りです。もしあなたが狭心症にかかった時には、18%の頻度でうつ病エピソードを経験するでしょう。心筋梗塞にかかった場合には、その後の6カ月間に16%の頻度でうつ病になるでしょう。あなたがもしがんならば、25%の頻度でうつ病を経験するでしょう。あなたが糖尿病ならば、25%の頻度でうつ病になるでしょう。

もし、風邪とかインフルエンザとか一冬に誰もがかかるようなありふれた病気の場合はどうでしょう。実は風邪やインフルエンザなどもまた、うつ病の罹患率を上げてしまう病気なのです。感染症である風邪やインフルエンザは、消耗性疾患と言われ、誰もがかかった後に疲れ果てた感覚が強く残ります。風邪の後、熱は引いているのにだるくて億劫な感じが残っているという体験をした方は多いとも思います。風邪やインフルエンザがどのような形でうつ病罹患率を上げてしまうのかということは、はっきりとは分かっていません。感染症と戦うために必要な免疫系が何らかの形で関与しているのかもしれません。免疫に貴重な役割をするコルチゾール(副腎皮質ホルモン)の過剰分泌とうつ病との関係は、生物学的精神医学研究の最も古い研究結果の一つです。コルチゾールの濃度がうつ病患者の50%で上昇していると言われています。感染症にかかり、神経免疫調節系に大きな負担がかかった後には、通常より数%高い頻度でうつ病になりやすいといわれています。

風邪やインフルエンザが、精神疾患の引き金になることも

今年の冬は、1月も中頃から急に寒くなりました。職場でも学校でも、1月以降インフルエンザにかかる人が急に増え始めました。インフルエンザが五類感染症として法定伝染病に認定されたこともあり、インフルエンザにかかると「学校に登校してはいけない」「職場に出てはいけない」としている職場や学校も増えてきました。Aさんの職場でも、まず課長がインフルエンザにかかると、次々と同僚がインフルエンザになりました。皆が休む中で、Aさんは1人で電話対応から納期の遅れへの調整やら、忙しく働いていました。ポツポツと同僚が職場復帰する中、ついにAさんもインフルエンザにかかってしまいました。Aさんは熱が出た当日に内科を受診しましたが、「インフルエンザではない」と言われ、発熱したまま仕事をしていました。ところが、三日目の再受診の折に「インフルエンザだねえ」と言われ、結局5日ほど休んで出社しました。何しろ1カ月近く次々と病欠が出たので、仕事は山のようにたまっていました。微熱も残り、身体もだるく、「もう少し休みたいな」と思いましたが、誰もが病欠後規定通り出社している中では、休みたいとは言い出せませんでした。

2月になっても体のだるさは取れず、その上、気持ちも晴れなくなり、同僚に誘われても出掛ける気持ちにもならなくなりました。以前は能率よくできていた仕事も、まるでブレーキがかかったように遅れるようになりました。「まだ治っていないのではないか。もう一度診てもらえ」という上司の勧めで、内科を再受診しましたが、内科医は「熱もないし、炎症の所見はまったくない」と言いました。その後も体のだるさは続き、まるで朝起きる時は体が鉛のようでした。職場に出てしばらくすると楽になるのですが、夕方になるとすっかり疲れ果ててしまいます。母親から勧められて受診した大学病院の感染症科の先生から、「うつ病ではないか」と精神科に紹介されました。紹介された精神科の医師から「感染症後のうつ病」と診断され、治療が開始されました。

風邪やインフルエンザはありふれた病気ですが、精神疾患の引き金になることもあります。「風邪は万病の素」とも言います。皆様お大事に。