2017

05/15

田舎の病院に患者が押し寄せてきた

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
社会福祉法人 北海道社会事業協会小樽病院 外科

ドクターズプラザ2017年5月号掲載

地域医療・北海道(26)

ノロウイルスのアウトブレイク発生

本年3月、近隣小学校のノロウイルスによる急性胃腸炎のアウトブレイクのため、当院に患者が押し寄せるという事態が発生しました。今回はその大人数の患者に対処した経験をお伝えします。

3月某日、当直帯に同じ小学校に通う10人程度の生徒さんが、同じ症状の感染性胃腸炎で受診しました。この時点でノロウイルスの近隣小学校でのアウトブレイク発生が判明しています。当直帯の感染性胃腸炎の患者の診察は、当直帯で使用する診察室ではなく、他科の出張医用の診察室を使用し、点滴は通常の点滴室を使用し対処しました。

アウトブレイク発生の次の日は、朝の受付の時点で多数の小学生が感染性胃腸炎で受診予約となり、さらに多数の患者が来院しました。患者の待合室の確保、診察室の確保、点滴室の確保、電子カルテの端末など、診察できる環境設備やベッドなど点滴ができる環境設備、通常業務以外の人的な配置、感染性胃腸炎患者専用のトイレなどを早急に用意しなければならなくなりました。診察は他科出張医用の診察室を使用、点滴は一階のリハビリ室にベッドを10台ほど搬入し即席の点滴室として対応しました。アウトブレイクの数日後までこの体制で診療を行いました。入院が必要になる重症化した患者の発生はなく、院内での二次感染もせずに収束しました。地方病院ならではの問題点と利点

地方の病院は元々、人材不足であり施設の規模も大きくないことが多く、多数の傷病者が一度に来院すると、人と場所のやりくりが大変です。特に感染性胃腸炎などの場合は、他の通院患者に感染が広がらないようにするため、通常診療を行いつつ、多数の傷病者に対しては別個に診療を行わなければなりません。そのため、ただ患者が増えて忙しくなったのとは比べられないほどの人・場所・物を必要とします。それら必要な人・場所・物をどうやって捻出するのかが工夫のいるところです。

このようなことは都会でも起きうると思いますが、都会では患者が分散し、特定の医療機関に患者が殺到することはないと思います。患者が分散することで、マンパワー不足・施設不足などは起きませんが、逆に感染症患者が分散することで二次感染のリスクも拡大し、さらなるアウトブレイクの危険は高くなるかもしれません。地方ではこのような時、患者が分散せず特定の医療機関に集中するので医療機関では一時的に混乱は起きますが、そこでしっかり対処出来れば逆に二次感染のリスクは下げられると思います。さらに、その地方の医療機関では全体像も把握しやすく、情報も共有しやすいと考えます。小さい病院だから伝達決定が早く、臨機応変に対応できるともいえます。

今回の近隣小学校でのノロウイルスアウトブレイクでは、日頃の感染教育啓発活動の成果が如実に出る場面でした。ところどころで改善点は見られましたが、概ね問題なく二次感染やさらなるアウトブレイクも発生しませんでした。小さな組織である地方の病院ですが、人間と場所をダイナミックに動かし、スタッフみんなが感染対策チームを中心に非常に協力してくれたことで、多数のノロウイルス感染性胃腸炎患者に対する診療を完結できたと考えます。今後も問題点を改善し、利点をさらに生かして活動していこうと思っています。

◆ノロウイルスによる急性胃腸炎について

ノロウイルスはよく聞く名前だと思います。実際はどんな病気でしょう。

ノロウイルスによる感染性胃腸炎は、以前は冬季に流行すると言われていました。しかし、現在は一年を通していろいろな場所で発生・流行・アウトブレイクしています。ノロウイルスに汚染された手指や食品などを介して、経口で感染し、ヒトの腸管で増殖し、嘔吐、下痢、腹痛などを起こします。ウイルスが数個程度でも感染すると言われており、非常に感染力の強いウイルスです。ノロウイルスに感染し感染性胃腸炎となっても、もともと健康な方は軽症で数日たてば回復します。一方、子どもやお年寄りなどでは感染性胃腸炎が重症化し、吐物を誤って気道に詰まらせて(誤嚥して)死亡することがあります。ノロウイルスについては抗ウイルス薬やワクチンがなく、吐物や糞便の適切な処理や手洗いなどによる予防対策が重要であり、その治療は点滴や吐き気止めを投与するなどの対症療法(根本的な治療ではなく症状に合わせた症状を軽減させる治療)に限られます。