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現代における薬剤師の役割

小黒 佳世子
『薬剤師のお仕事』『小黒先生の薬の話Q&A』連載
株式会社メディカル・プロフィックス取締役、株式会社ファーマ・プラス取締役、一般社団法人保険薬局経営者連合会 副会長
ドクターズプラザ2019年1月号掲載

薬剤師のお仕事(3)

薬剤師に期待されていること

医薬品を正しく使用することの大切さや、薬剤師がそのために果たす役割を国民の皆さまにもっと知っていただくことを目的とし、毎年10月17日から23日までの一週間を「薬と健康の週間」といって、厚生労働省や各都道府県、薬剤師会が一斉に啓発活動を実施しています。全国各地で健康イベントが実施され、私の薬局のある群馬県高崎市でも毎年開催されている健康フェアが今年も行われました。健康フェアでは、薬に関する相談はもとより、血管年齢や血流、脳トレーニングなどさまざまな機器を使用した健康を意識するコーナーや、子供薬剤師体験のコーナーもあり、昨年を上回る参加者に、イベント終了後の懇親会も大変盛り上がりました。

各コーナーの担当薬剤師がイベントの感想などを発表する中で、あるベテラン薬剤師が「薬と健康の週間なのに、薬の相談が少ない。薬剤師は期待されていないのではないか」とおっしゃいました。それに対して「普段から薬局内で十分に薬剤師が患者さんの質問に答えている証しではないか」という反対意見もありました。それらの意見を聞きながら、私はどちらも正しいと思いました。

私が薬剤師になった30年前は、薬のことを知っているということが薬剤師の最大の役割でした。医師が診断し、処方した薬について、それが適正かどうか判断し、患者に分かりやすく説明して薬をお渡しする……これが薬剤師の役割だったと思います。それは今でも変わりませんが、情報社会である現代においては、薬の名前も用法も副作用もインターネットを通じて、しかもスマートフォンやタブレットで誰でも簡単に入手することができます。ですから、情報だけを伝えることは私たちには期待されていないのだと思います。2000年当初、牛海綿状脳症(BSE)の問題がありました。日本でもBSEに感染した牛が発見され、牛肉を食べるのを控える消費者がいる一方で、値段が安くなったと気にせず食べる消費者もいました。リスクコミュニケーションという言葉がよく聞かれるようになったのもこの頃だと思います。医薬品に関しても同様なのではないでしょうか。情報が溢れている中で、副作用に怯える患者、不調を訴えながら次々と薬を服用したがる患者もいます。健康意識が高まる中で、テレビで健康に良いという食品が取り上げられれば、翌日にはスーパーでその商品が売り切れてしまいます。

薬局は医療者に会える最も身近な医療機関

超高齢社会において、医療は病気を治すということだけでなく、身体機能を上手に使い続ける、病状を維持するということも医療の大切な要素であると考えます。薬局は地域の中にあって、予約もなく、いつでも薬剤師という医療者に会える、最も身近な医療機関ではないでしょうか。悩んでいる症状にどのように対処すればよいか、受診する場合には何科にいけばよいか、近くに適した病院やクリニックはあるか……自分だけでなく両親や子供の心配についても相談できる場所が薬局だと考えています。昔は街の科学者と呼ばれた薬局薬剤師でしたが、処方箋調剤が進む中で誰もが、また薬剤師自身も素晴らしい薬局の役割を忘れてしまったのかもしれません。それを取り返すにはかなりの努力が必要です。

私の薬局では、5年前から定期的に地域住民に向けた健康教室を開催しています。インフルエンザや花粉症など季節に合わせた疾病に関すること、健康食品に関すること、手洗いの仕方や脱水予防など健康に関するミニセミナーと、サルコペニア防止を目的とした筋力測定を実施しています。身長、体重、握力、ふくらはぎ周囲径、歩幅などを測定し、継続して測定し続けることの大切さと変化があったときの対処方法なども併せてお伝えしています。始めた頃は数人だけだった参加者も、今では毎回数十人となりました。薬局は、健康に関する情報を適切に伝える医療機関として、医師につなげたり、介護につなげたり、以前の薬局とはまた違った形で、地域に存在するようなときが来ると信じて、これからも活動したいと思います。

ドクターズプラザ2019年1月号掲載

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