2024

07/03

“熱の高さ”より、熱のせいで“飲食ができない”“眠れない”状況を重要視し、治療を行う

  • 小児の病気

鈴木 繁
社会福祉法人聖隷福祉事業団聖隷佐倉市民病院
小児科副部長兼臨床研修センター長

新連載:小児の病気①/小児の風邪

新学期が始まり数カ月が経過しました。4月から初めて集団生活に入った子どもたちの中には、もしかすると熱や咳が続いてあまり出席できなかった子もいるのではないでしょうか? また子どもを保育園などにお預けになって仕事復帰をお考えだった保護者の方々においても、なかなか仕事に行けなかったり途中で呼び出されてしまったりとご苦労されていると思います。小児科の外来では春・夏・冬など長い休みが明けた1~2週後から、体調を崩してしまった子どもたちの来院が徐々に増えてきます。

“風邪”とは?

「この子はよく風邪をひくのですが大丈夫でしょうか?」と心配し来院される保護者の方は多くいらっしゃいます。

“風邪”とは一体どのような状態を指すのでしょうか?

風邪とは発熱や咳、鼻水、痰、倦怠感、嘔気や嘔吐などが同時に出現する状態で、そのほとんどはウイルス感染に起因し、数日から1週間程度で治ります。「2週間くらい鼻水や咳が続いて、熱も出たりひいたりしているんです」というお子さんは、治ってきたと思ったら別のウイルスに感染し、風邪症状が長く続いている状態を見ていることも多いと思われます。いったん出た熱が2~3日下がってまた出てくるようなタイプの熱であれば、感染を繰り返している可能性が高いのかなと思います。

では上記症状などで外来受診となった場合、私たち担当スタッフはどんな症状に留意しながら診察や問診を行っているのでしょうか? それは小児の「顔色、機嫌、全身状態」に他なりません。「熱が40度以上でました!」と急いで受診するお気持ち、とてもよく分かります。しかし私たちは「熱の高さ」自体はあまり重大な症状とは捉えていません。むしろ熱のせいで「飲食ができない、眠れない」状況を重要視し治療を行います。解熱薬を含め症状に応じたお薬を処方しますが、小児の解熱薬は平熱まで熱を下げるほどの解熱効果は期待できず、0.5~1℃の熱が下がる程度ですが、少し熱が下がると食事ができたり入眠できたりするようになることも多いようです。解熱薬は熱のせいで日常生活に支障が出てしまう場合に頓用*1)として使っていただければ大丈夫。「熱」は侵入してきたウイルスや細菌を増殖させないようにする身体の反応ですから。

風邪の症状のうち、1つまたは2つのみが継続している場合には他の疾患を考慮します。例えば熱のみ続いているのであれば尿の感染であったり、熱と咳だけが長く続いていたりするとなれば気管支炎や肺炎も鑑別していくといった流れになるかと思います。

“風邪”を予防するには?

風邪を予防するための完璧な予防策は現在のところありませんし、予防薬もありません。自分の身体に付いたウイルスを少なくする手段として手洗い・うがいが最も一般的でしょうか。ウイルスや細菌を除去するための手洗いは流水+石鹸で行うと良いでしょう。風邪予防としてのうがいは、水のみで行うものといわゆる消毒剤含有のうがい液を比較した場合、予防効果として有意差はない(効果の差はない)といわれています。

“風邪ウイルス”感染を予防するワクチン

風邪症状を引き起こす多くのウイルスの中で、ワクチン接種により予防が期待できるものとしてインフルエンザウイルスとコロナウイルスがあります。

もう何十年も前ですが、インフルエンザワクチンは小中学校で児童生徒ほぼ全員に接種されていました。その時代、インフルエンザ感染が猛威を振るうことはまれだったのですが、副反応などの理由で集団接種が任意接種となってから感染数が激増し死亡率も上昇しました。ある集団において一定数以上の人々が接種すると接種していない人々も感染から守られるという集団免疫効果(herd immunity)という概念がありますが、これは近年始まった小児の肺炎球菌ワクチンの普及で高齢者の肺炎球菌感染者数も減ったという事実からも明らかなのです。予防接種をしていますと複数の保護者の方々から「接種しても感染するんですよね……」という言葉をお聞きしますが、全体の接種者数の減少も要因の1つかもしれませんね。

今年度からコロナウイルスワクチンが任意接種となり、インフルエンザワクチンと同時期に接種することになります。もちろんコロナワクチンとインフルエンザワクチンの有効性は共に実証されており、特に重症化を防ぐ効果が高く評価されています。接種についてお悩みの方は、かかりつけ医療機関で確認してみてください。

*1:頓用とは薬の投与方法で、食前、食後、就寝前などの定期薬ではなく、症状に応じて使用することをいいます。解熱薬や制吐薬などは内服が難しい場合、坐薬の剤形もあります。食事を少し取らせたい場合、食事30分前くらいに使用し状態を改善させて摂取を促すこともできます。

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