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災害意識 個々人の身の回りから!

病院建築

服部 敬人
株式会社伊藤喜三郎建築研究所
執行役員 設計本部第二設計部長 一級建築士 認定登録医業経営コンサルタント
ドクターズプラザ2019年5月号掲載

病院建築(4)

前回は「病院こそ、災害意識の向上を!」と題して、多くの災害要配慮者が利用する病院の災害対策について書きました。今回は災害意識を身に付けるために配慮すべきことについて、具体的にご案内します。前半は、筆者が調査員として参加した東日本大震災被災地域の福祉施設の調査報告書に記載した防災対策のポイントを紹介します。福祉施設の災害対策は、病院にも通じ、住まいにも近いものがありますので、より身近な家庭の話題としても参考になるのではないでしょうか。

キーワードは、「日常から」「全員で」「地域連携を」

一つ目は、「可能な限り生活環境を変えない」こと。可能な限り避難をしなくて済むように、敷地、建物、設備の防災対策を、各施設の所在地で懸念されるリスクをきちんと調査し認識することです。やむを得ず避難する場合も、職員と利用者が一緒に行動できる環境をつくるため、独自の提携避難先を決めておきます。また、災害の種類や周辺の状況によって逃げるべき場所は異なりますので、避難先は複数設定しておくべきであり、避難した場合はできるだけ早く元の施設に戻ることが望ましいといえます。

二つ目は、「有事に機能する連携体制をつくる」こと。発災直後の避難、見守りには、近隣住民、近隣施設等との連携が不可欠です。災害時にも機能する連携体制をつくるには、契約文書を作成するよりも、日常生活の中で信頼関係をつくっておくことが大切です。近隣との連携と併せて、広域的な支援ネットワークの構築も重要になります。

三つ目は、「全員が判断できる力をつける」こと。さまざまな種類の災害について、発生時刻や被害状況等、さまざまな想定でイメージし準備しておくことであり、事業継続計画(BCP)の作成や訓練の企画実施は、そのための重要なツールとなることを改めて認識すべきです。

四つ目は、「地域資源を確認し、それを踏まえた対策を検討する」こと。大災害時にライフラインはほぼ完全に停止することを前提に、日常のライフラインに頼らない備えをすることがポイントになるため、地域資源を把握することの重要性、井戸や自家発電を持つ会社や商店、周辺医療福祉施設との連携が災害時の大きな助けになります。

災害時に遠方に避難することで、トランスファーショックを起こすことはよく知られています。建物が被災に耐え得ることと、スタッフの活躍、地域の連携をはじめとした施設の運営・管理がしっかりしていることが、災害対策のポイントであることは、調査員としてヒアリングした経緯からもよく理解できました。

「あなたの施設(住まい)は大丈夫?」

病院建築の防災対策は専門的であり、耐震性能一つとっても、どの程度の地震に対応できているのかを理解することは難しく、病院をはじめとする多忙極まる医療介護福祉の業態の中で、防災意識を日常業務あるいは日常生活で持ち続けることも簡単なことではありません。そこで、専門的な難しい言葉を駆使するのではなく、簡単に理解できる言葉を使用した分かりやすいコンサルティングを狙い、防災訓練や研修会、施設計画のワーキング等、さまざまな場面で使用できる確認シートを提案したことがありました。いくつかあるシートの中で、今回は「運営管理」に関わるパーツを紹介します。「運営管理」は立地や建築計画とは違い、改善の可能性が高いため、確認シートでの意識改革は理想的であり、今回は10項目に限定しましたが容易に確認できる分野です。

「あなたの施設(住まい)は大丈夫?(運営管理編)」と題して、以下の確認シートに答えてみてください。

①防災訓練を定期的に実施している。     (訓練)
②消火器の扱い等の防災体験をしたことがある。(訓練)
③段階的な避難場所を複数想定している。   (ルール)
④避難階段を日頃から使うようにしている。  (管理)
⑤廊下に障害物が置かれていない。      (管理)
⑥3日分の食糧を備蓄している。       (備蓄)
⑦井戸・防火水槽を整備している。      (備蓄)
⑧施設(地域)の防災計画書を読んだことがある。(ルール)
⑨災害緊急時職員(家族)集合マニュアルがある。(ルール)
⑩消火器がどこにあるのかを覚えている。   (管理)

それぞれ、①訓練の継続性、②訓練の実体験、③選択可能な準備、④日常と非日常の整合、⑤整理整頓、⑥⑦食料・水の確保、⑧⑨共通認識と理解、⑩防災設備の認識、を確認しています。④の防災設備はでき得る限り日常使用している設備であることが災害時に役に立ちます。⑨は家庭でも集合場所や二次連絡先を決めておくと良いでしょう。
いかがでしょうか。ご自身の防災意識の向上にも当てはまる問いではないかと思われたでしょうか。大切なのは、「当事者意識を持つこと」です。病院、福祉施設に限らず、建築の防災は個々人の身の回りの対策がスタートラインとなるのです。

ドクターズプラザ2019年5月号掲載

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