2024

05/13

漢方薬って何?

小黒 佳代子
株式会社メディカル・プロフィックス 取締役、株式会社ファーマ・プラス 取締役
一般社団法人 保険薬局経営者連合会 副会長

新・薬の話(1)

漢方の歴史

日本では古来より民間医療としてドクダミやヨモギなど生活の知恵として使用されてきた歴史があります。漢方薬はよくこれらと混同されがちですが、民間療法としてのこれらの薬草などは用法が決められておらず、お茶にしたり、食べ物に混ぜたりしながら使用されてきました。それに対して漢方薬では、これらの原材料(生薬)について中国の医学書によって製法や用法用量などが記載されており、漢方理論に則って用いるべき病態が定められています。また、複数の生薬が一定の分量比で組み合わされ、一つの処方が完成します。

古代中国に発するこの経験医学が日本に導入されたのは5~6世紀頃で、その後日本の風土・気候や日本人の体質に合わせて独自の発展を遂げ、わが国の伝統医学となりました。漢方は日本独自の医学なのです。

歴史ドラマでも漢方薬を使っている光景がしばしば見られ、日本古来から使われていることが分かります。特に徳川家康は医薬に興味を持ち、医師としても一流の人物といわれ、ドラマではよく薬研(やげん)という生薬を擦りつぶす器具を使っているシーンを見かけると思います。徳川家康が長寿だったのは漢方薬の効果もあるのかも知れません。

現在のような医療保険制度の中で漢方薬エキス剤が使用されるようになったのは1967年(昭和42年)からで、初めて4処方の漢方エキス剤が薬価(厚生労働省が公的保険において使用を許可する品目と価格を示したもの)に収載され、現在では147の処方が認められています。

江戸時代までは漢方医が病気を治していましたが、明治時代に医師免許制度が制定されてからは西洋医学を学んだ医師が漢方薬も使用しており、両方活用されているというのが日本の医療の特徴だと思います。

西洋薬との違い

漢方薬と西洋薬の大きな違いは、西洋薬は人工的に化学合成された物質がほとんどで、その多くは一つの成分で構成されているという点です。一方、漢方薬は天然の生薬を使用し、処方は数種類の生薬で構成されているため、多くの成分を含んでいます。そのために、一つの処方でいろいろな病状にも対応することができるのです。

またハーブと異なり、漢方薬は植物以外に、骨や角、皮といった動物由来のものや、貝殻、鉱物なども使います。サプリメントや健康食品とも異なり、漢方薬は効能、効果が認められている医薬品なのです。

患者さんから「漢方薬は効いてくるのに時間がかかるでしょう?」とよく言われますが、風邪や胃腸炎などの漢方薬は効き目が早く現れ、眠気などの副作用も少ないため、車を運転しなければいけない方や受験生にも好まれます。漢方薬の得意分野は、体質改善を目的とした西洋医学ではなかなか改善しないような体調不順や、超高齢社会における健康寿命の延伸といった現在の病状を維持するというところだと思います。公的保険範囲内の漢方エキス製剤は漢方薬の一部で、漢方処方は種類が多く、複数の処方を組み合わせることもできます。保険医療の範囲外になることもありますが、健康維持のために自分自身に合った漢方薬を活用して、徳川家康のように元気に長く生きる工夫をしてみてはいかがでしょうか。

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