2018
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活躍の場は検査室の外にも広がってきている
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インタビュー
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ドクターズプラザ2018年9月号掲載
職場訪問(2)社会福祉法人聖隷福祉事業団・聖隷横浜病院
『幅広い知識+専門性が求められる臨床検査技師』
臨床検査技師の仕事はとても幅広い
―稲田さんは、なぜ臨床検査技師になろうと思ったのですか。
稲田 子どものころから白衣に憧れを持っていて、病院で働きたいと思っていました。家族に医療従事者はいませんが、何か国家資格などを取得した方がいい、とは勧められていました。
高校生の時に大学のオープンキャンパスに行き、臨床検査学部のブースで、顕微鏡下で見えた赤血球にすごく感動し、普段見ることができない体の中の様子をいろいろ見てみたいと思いました。それがきっかけで臨床検査技師という職業に興味を持ち、学部を受験することに決めました。
―臨床検査技師になるには、どのような勉強や資格が必要なのですか。
稲田 臨床検査技師という国家資格を取得する必要があります。国家試験を受験するには、必要な養成課程を全て修めていなければなりません。具体的には、4年制大学や3年制の専門学校・短期大学で臨床検査の基礎となるさまざまな科目を勉強します。私は4年制大学に通いましたが、1年生では化学や生物などの基礎科目を履修し、2・3年生では臨床検査に関わる病理学、免疫学、微生物学など、特殊な科目の履修や実習を行いました。4年生の時は、研究室で実験を行ったり、卒業論文を書いたり、国家試験の勉強をしたりと、とても忙しい学生生活を送りました。
―そもそも臨床検査技師とは、どのような仕事なのでしょう。
稲田 採血、血液や尿を分析する検体検査、心電図検査や超音波検査などの生理機能検査、輸血検査、病理検査、細菌検査など、臨床検査技師の仕事は非常に多岐にわたっています。
一般的な健康診断を例に挙げれば、レントゲン以外のほとんどが臨床検査技師の仕事です。尿や便、肺活量や聴力の検査も私たちの分野です。また最近は、治験のコーディネーターとして新薬開発に携わる仕事もあります。一方で専門性も求められるため、満遍なく幅広い知識を持つことに加えて、各自が専門分野に特化した技術を磨いています。当院は24時間患者さんを受け入れているので、私たちも24時間体制で勤務し、当直もあります。日中は各自の専門分野をメインに、複数の分野をシフト制で担当し、当直ではスタッフの数が限られますから、全ての分野の検査をします。
―とても範囲の広い仕事なのですね。
稲田 患者さんと接する仕事ばかりではなく、見えないところで行う仕事も多いです。例えば検体検査室には多くの機械があり、患者さんから採血した血液や採取した尿などを分析機で測定して、データとして報告しています。正しいデータを取得するためには、毎日の機器のメンテナンスも欠かせません。当院の検査室では、外部精度管理調査にも参加し、個人のレベルと機器の精度を確認しています。近年、検査の機械化が進みましたが、分析装置から得られた数値が適切であるか、画像所見において病態を正しく観察できているかなどは、人にしか判断できません。正しい判断をするためにも、常に新しい知識を取り入れて勉強することが必要です。
今の状態を見て、その場で判断できる超音波検査
―専門性が求められるとのことですが、稲田さんの専門分野は。
稲田 私は現在、超音波検査、いわゆるエコーを専門分野としています。
超音波検査は、表からは見えない体の中を、超音波によって画像にするもので、臓器や血管などいろいろなものを見ることができます。自分の手で機械を動かしながら、その時の臓器の動きや病態などをリアルタイムで見られることが強みで、その場で判断することができるので、迅速で正確な治療を行うことに直結していると考えています。
―超音波検査はどのような場面で行われますか。
稲田 外来や入院での検査の他、一般的な検診から乳がん検診などさまざまな検診でも使われています。超音波なので痛みがなく、被ばくがないのが良いところで、他の検査をする前にまず体の中の状態をチェックするなど、診療の取っ掛かりとしてもよく使われます。また、繰り返し検査を行うことができるため、経過を見ることにも適した検査だと言えます。
―動画を見ながら判断するのは、難しそうですね。
稲田 そうですね。数字で現れるものではなく、人の目で見る主観的な検査なので、経験や知識はとても重要です。
超音波検査士という認定資格がありますが、資格を取得しても日々勉強し続けなければなりません。また経験豊富な技師でも、難しい所見などの場合には複数人数で見て確認しますし、医師にも相談します。これが非常に重要なのです。画像の判断に不安があるのに誰にも相談せず、誤った解釈で医師に報告をしてしまったら、患者さんの不利益につながりかねません。そういうことがないようにするには、相談しやすい、風通しの良い職場であることもとても大事だと思います。
チーム医療の一員として大切な役割を担う
―稲田さんは、臨床検査技師という仕事のやりがいをどのようなところに感じていますか。
稲田 患者さんの病態や治療効果をデータや画像などでリアルタイムに解析し、臨床に報告することで診断の土台を作り、チーム医療の一員としての大切な役割を担っていることです。例えば超音波検査中に重篤な病状を発見して、その場で医師に連絡し、すぐに対処してもらうこともあります。自分の判断が患者さんの命を助けることに重要な役割を果たしていると感じる場面もたくさんありますし、患者さんが回復していく様子を見ると良かったなと思います。医師方と所見をディスカッションする機会も多く、自分の経験や知識を臨床に活かすことができるのは大きなやりがいです。そして、一つのミスで命を落とすことがあることを念頭において、常に慎重に正しく、かつ迅速に判断することをモットーに取り組んでいます。
―落ち込んだり、悩んだりすることもあるのでは。
稲田 医師から指摘を受けたりすると「まだまだ足りないな」とへこむこともありますね。でも医師もそれを責めているというより「こういう見方もある」と教えてくださっているので、次は頑張ろうと思うことの方が多いかもしれません。私は、周りの人に話して聞いてもらうタイプなので、あまり溜め込まない方だと思います。それができるのも、話しやすい雰囲気の職場で、お互いの立場を理解できる臨床検査技師同士で話せるからかもしれません。
―ではこれまでの経験の中で、一番苦労したことは。
稲田 私は、別の病院に7年ほど勤めましたが、臨床検査技師としてもっとたくさんの経験を積みたいと考え、5年前に当院に就職しました。生まれも育ちも横浜なので、地域医療に貢献したいという思いもありました。以前の職場では当直もなかったので、自分の専門分野の仕事が中心でしたが、当直を務めるには、検体検査など専門以外の仕事のレベルも高めなければなりませんし、もちろん専門分野も高めなければなりません。
やはりレベルを高めるために新たに学んでいくというのは大変でしたが、先輩からも、若いスタッフからも感化されて、とても良い経験になりました。当院は専門外来も多く、さまざまな症例を経験できるので、スキルアップにもつながったと思いますし、目標だった超音波検査士の資格も取得できました。
検査室で黙々と……、ではなくなっている。
―聖隷横浜病院についても紹介してください。
稲田 当院は2003年に国立横浜東病院から経営移譲を受けて開設しました。病床数300床、横浜市二次救急拠点病院として24時間体制で救急患者さんを受け入れ、急性期を中心に専門性の高い医療を提供し、利用者の早期回復を目指しています。また在宅復帰支援のための「地域包括ケア病棟」、訪問看護事業として「せいれい訪問看護ステーション横浜」を併設しています。私のいる検査課には、20名の臨床検査技師がいます。
―臨床検査技師を病棟に配置するという取り組みもしているそうですね。
稲田 当院では、日本臨床衛生検査技師会から依頼を受け、最初に「臨床検査技師の病棟配置による効果」について検証しました。これは、臨床検査技師を病棟に配置することで、病棟における検査関連業務や検査以外の業務など、どのように役に立てるのかを検証し、実践するというものです。
―臨床検査技師の仕事の範囲は、さらに広がっているということでしょうか。
稲田 縁の下の力持ち的な存在である臨床検査技師ですが、臨床の現場で表舞台に立つことも多くなってきています。当院では、先程ご紹介した病棟配置を実践している他、NST(栄養サポートチーム)、ICT(感染制御チーム)、AST(抗菌薬適正使用支援チーム)、糖尿病教室などのチーム医療にも参画しています。検査室の中だけでなく病院全体にも、院外にも活躍の場が広がっています。
―最後に、臨床検査技師という仕事に興味を持っている人や、目指している学生、また現在臨床検査技師として働いている人たちに、メッセージをお願いいたします。
稲田 臨床検査技師は、検査室で黙々と仕事をすると思っている方が多いかもしれませんが、外に出ていく業務も増えています。患者さんと接する機会だけでなく、他職種と連携して検査や指導にあたることが増えたため、想像以上にコミュニケーション能力やチーム医療に参加する気持ちが求められていると思います。正しいデータを提供し、正確な診断の土台を築く本来の役割に加え、検査室の外へ、病院の外へとフィールドは広がっています。新しい時代に踏み出そうとしている臨床検査技師の一人として、私も頑張っていきたいと思いますし、これから臨床検査技師を目指す方には、広い視野と柔軟性を持った技師を目指していただきたいと思います。