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治療はその人が人生を送るための手段

インタビュー

東京都

神谷 紀輝先生
1990年、北里大学医学部卒業。北里大学病院呼吸器外科・教授。現在、内視鏡手術をメインに胸部疾患(肺癌、気胸、縦隔腫瘍、胸膜疾患)に対する低侵襲手術を実施している。日本外科学会外科専門医・指導医、日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本呼吸器外科学会専門医、日本胸部外科学会認定医、がん治療認定医産業医、産業医。
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新・医師の眼差し

『医療者は幅広い経験をして人間として成長することも大切』

子どもに誇りを持って言える職業の一つ

――医師になろうと思ったきっかけは何ですか。

神谷 中学生の頃は気象庁に勤めようかなと思っていました。情報を解析して予報するのが面白そうだったからです。でもいつの間にかそんなことは忘れていて、高校生の時に漠然と医師もいいかなと思うようになりました。父が医師だった影響は大きいかもしれませんが、子供たちに父親の職業として医師であることを誇りをもって言えることですかね。一生をかけて行う職業として、やりがいを感じます。職業としてはいい仕事と思います。

外科を選んだのは性格かもしれません。国立国際医療研究センターで外科の研修医をしましたが、消化器外科には人が多かったので、もう少しニッチな呼吸器外科を選びました。医師になって3年目から、栃木県立がんセンターにレジデントとして入り、それ以降はどっぷり呼吸器外科です。

――どんな青春時代を過ごしましたか。

神谷 高校時代の部活はワンダーフォーゲル部でした。山は、登っている時はつらくて「どうして来ちゃったのだろう」と思いますが、登りきって景色を見ると何ごとにも代えがたいですね。また、山は極めて原点、全て自己責任で、水も持っていかなければいけないし、一杯のコーヒーがありがたい。便利で、苦労なくすぐに目的に到達できる日々の中で、忘れているありがたさやプリミティブなことを思い出したり、反省したり、日常生活を見返すことができます。

部活での登山は、山小屋の食事などは利用せず、食べ物も飲み物も全部持っていくルールでした。一度OBが内緒でコーラをご馳走してくれたのですが、ものすごくおいしかったことを鮮烈に覚えています。今までの人生で、あれ以上おいしいコーラを飲んだことがありません。

今も年に2回、北アルプスの槍ヶ岳に登っています。山荘に併設する形で慈恵医科大学の槍ヶ岳診療所があり、夏の間1カ月間だけ開いており、医師や看護師のボランティアが交代で診療にあたります。今年の7月に登っている時に、麓で買った缶チューハイを途中の雪渓の雪で冷やして飲んだら、これが身震いするほどおいしい! 高校時代のコーラに匹敵するうまさで感激しました。

槍ヶ岳の穂先より山荘や診療所を望む(写真提供:神谷 紀輝先生)

――忘れられない出来事はありますか。

神谷 栃木県立がんセンターの時、お世話になった横井香平先生には、考え方、スタンスなど呼吸器外科の原点の手ほどきを受け、厳しさも教えていただきました。特に、はさみの使い方を厳しく指導され、手術基本操作である組織の剥離手技は徹底的に教えられましたね。現在横井先生は名古屋大学の呼吸器外科の教授で、学会でお会いした時などには、今でも手術に関するご相談することがあります。

今と昔とでは、指導の仕方が全く違いますね。どちらがいいとも言えませんが、私にとっては自身が経験した指導者の人間味の溢れる、熱意のこもった厳しい指導が良かったと思っています。

慈恵医科大学では、呼吸器外科の教授である森川利昭先生の元で内視鏡手術を学びました。また外科学講座の統括責任者である大木隆生教授の強いリーダーシップとスピード感ある実行力は、私の現在置かれた管理する立場において刺激になりましたし、成長することに繋がったと感じています。

肺癌の内視鏡手術の操作風景(写真提供:神谷 紀輝先生)

医療は人材も資材も有限の資源

――医療従事者として心掛けていることや、目指していることを教えてください。

神谷 慈恵医科大学には「病気を診ずして病人を診よ」という精神がありますが、患者さんはその病気の克服や、症状の軽減、緩和をしてもらいたくて病院に来ています。治療はそのための手段ですから、いつも患者さんには「ぜひ生活を楽しむことを考えてください」と言っています。治療した結果、それまでできたことが逆にできなくなることもあります。例えば余命3カ月の方が、治療の結果4カ月生きられたとしても、3カ月半入院していたとしたら、それが良かったのかどうか分かりません。治療はその人が人生を送るための手段なので、その手段をどういうタイミングでどう使うかは私もよく考えますし、患者さんや家族にも考えていただくように動機付けをしています。

――読者へのアドバイスをお願いします。

神谷 若手のドクターに伝えたいのは、一つ一つの医療行為について、意味合いやエビデンスをきちんと理解して行う癖をつけてほしいということですね。過剰な検査や投薬、余剰なスクリーニングをすればいいということは、決してないのです。医療は、人材も資材も有限の資源で、無尽蔵にあるわけではありません。医療現場における常識もどんどん変化していますから、エビデンスに基づいた医療を行って、付け焼き刃的な処置、投薬を防ぎ、資源をいかに有効に使うかを考えなければいけない。そうすることで無駄が削減でき、医療費も削減できると思います。

また専門的な知識が豊富でも、人間的な教育が不十分では、人生の先輩である患者さんと信頼関係を築くことは難しいと思います。医学を学んでいる方は、部活で集団活動をしたり、ボランティアをしたり、いろいろなコミュニティーで活動したり、幅広い経験をして人間として成長することも非常に大切だと思います。

 

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