2017

09/15

正しい知識と、定期的な検査が大事

  • インタビュー

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「ピンクリボン」は、乳がん検診受診や早期発見の大切さを伝える、世界共通のシンボルマーク。乳がん先進国のアメリカで生まれ、今では世界中に広まっている。日本のピンクリボン運動の先頭に立ってきた認定NPO法人乳房健康研究会は、乳がんに関する正しい情報の発信や啓発、乳がん検診に関する意識調査、乳がん検診の受診率向上などに取り組んでいる。同法人の取り組みや日本の現状について、乳房健康研究会常務理事・事務長の髙木富美子氏に伺った。

ドクターズプラザ2017年9月号掲載

巻頭インタビュー/乳房健康研究会

「乳がんは、早期発見、早期治療で治る病気」

日本のピンクリボン運動を牽引

―乳房健康研究会は、どのような活動をしているのでしょうか。

髙木 乳房健康研究会は、日本でマンモグラフィー検診が開始された年2000年の5月に、乳がんによる死亡率低下を願う4人の医師によって発足した、日本初の乳がん啓発団体です。早期に発見して治療するためには、病院で待っているのではなく、健康な人に伝えなければいけないと考え、日本のピンクリボン運動を牽引してきました。

2002年より毎年開催しているイベント「ミニウオーク&ラン・フォー・ブレストケア」をはじめ、各種セミナーやイベント、リーフレットの作成・配布、活動の象徴であるピンクリボンのバッジの販売、出版などを行っています。おかげさまでピンクリボンの知名度は高くなり、さまざまな団体による「ピンクリボンフェスティバル」なども開催されるようになりました。

―「ピンクリボンアドバイザー認定試験」も実施していますが、どのような経緯で始めたのですか。

髙木 ピンクリボンは認知されても、乳がん検診の受診率はいまだ4割程度という状態で、特に都市部で低い傾向があります。受診率を向上させるために、アメリカで行っているコミュニティ単位の活動をお手本に、当時特に受診率の低かった東京墨田区で、「すみだピンクリボン コミュニティキャンペーン」を2011年から2年間行い、検診受診者数は150%増加しました。しかし、このようなキャンペーンの後も受診率を維持、向上させるには、人から人へと正しい情報が伝達されることが重要です。また当法人では2003年より検診受診を妨げる要因や受診者の行動、意識について調査や分析を行っていますが、2009年の調査では、乳がん検診への思考、態度、行動は三つのグループに分けられることが分かりました。

一つ目は、乳がん検診を継続的に受けており、情報にも敏感な「ピンクリボン行動派グループ」。二つ目は、乳がんに関する知識はあるが、行動を伴わない「保守・知識派グループ」。三つ目は、受診希望はあるが、具体的にどうしたらいいのか分からない「あと一押しグループ」です。二つ目、三つ目のグループが受診率向上のカギになりますが、女性のライフスタイルの多様化に伴い、行政や職場が行う一律の対応ではなく、よりきめ細やかな情報提供が必要で、知人からの勧めが効果を上げるのです。実際、地域の住民検診で乳がん検診を受けたことがある人のうち、約4割強は知人や家族など、誰かに勧められて受診しています。そこで乳がんやピンクリボン活動に関心の高い人材を育成していくために、2013年、ピンクリボンアドバイザー認定試験を創設しました。

―どのような人が試験を受けているのですか。

髙木 2016年12月に5回目となる認定試験を実施しましたが、初級は申し込み者1807名、合格者1587名、中級は申し込み者405名、合格者299名でした。40歳代が最も多いですが、70歳以上、10歳代の方もいます。男女比では女性が9割以上、医療関係者が多いものの、一般の会社員や自営業の方、学生、主婦など、さまざまな立場の方が受験しています。

2016年から上級が創設され、47名の上級認定者も誕生しました。また、ウェブセミナーやワークショップキャラバンを全国で開催するなど、ピンクリボン活動をサポートするプログラムを充実させています。2017年1月現在のピンクリボンアドバイザーは8016名です。時間とお金をかけて、勉強して試験を受け、ボランティア活動をしようと考える人が、こんなにいるのはすごいことだと思います。ピンクリボンアドバイザーは、正しい情報をかみ砕いて目の前の人に伝えることができますし、自主的な活動、地域やコミュニティに合った活動を創造していってほしいと思っています。

女性の11人に1人が罹患

―日本の乳がんの現状について教えてください。

髙木 30〜60歳代の女性がかかるがんのトップです。生涯のうちで乳がんにかかる女性は、50年前は50人に1人、私たちが活動を始めたころは30人に1人といわれていましたが、現在は11人に1人と増加しており、さらに増えると予想されています。

年齢別では、30歳代後半から急増し、40歳代後半にピークとなります。最近は60歳代前半にももう一つピークができ、閉経後の60〜70歳代に女性の乳がんが多い欧米のパターンに似てきています。乳がん死亡率は、欧米では1990年ごろから減少していますが、日本も治療法の進歩やマンモグラフィーによる検診の啓発・普及により、2010年代に入って減少傾向が見られるようになりました。

―乳がんを早期に発見するには、乳がん検診を受けることが重要ですね。

髙木 はい。重要なのは乳がん死亡率を低下させることです。しこりなど気になることがある場合は、専門医の診療を受ける必要がありますから、乳がん検診は全く症状のない人が対象です。乳がんの進行度は、しこりの大きさやリンパ節転移の有無などにより、0期からIV期まで5つのステージに分けられます。そのうちリンパ節への移転がない0期、I期は、10年後生存率がそれぞれ95%、89%です。乳がんは、早期に発見すればほとんどが治りますし、治療の負担も少なく、社会復帰も早くなります。

―日本の乳がん検診ではマンモグラフィーが推奨されています。マンモグラフィーと超音波検査の効果は。

髙木 日本では、2000年にマンモグラフィーが導入されるまで、視触診のみでした。早期発見には、マンモグラフィーや超音波検査などの画像検査が有効です。現在はマンモグラフィーを基本に行うことになっています。マンモグラフィーを併用することで、乳がんの発見率が3倍になるという報告もあり、特に0期、I期で発見率が高くなります。しかし若い女性の場合は、乳腺が発達しているために乳房全体が白く写り、白い塊として写る乳がんを見分けることが難しいのも事実です。50歳以上になると乳腺が萎縮して脂肪に置き換わり、乳房全体が黒っぽく写るため、乳がんを発見しやすいのです。マンモグラフィーは微細な石灰化を検出するのが得意ですが、超音波はあまり得意ではありません。しかし、超音波検査はマンモグラフィーのように乳房を挟むことによる痛みもなく、乳腺の中にある腫瘤を発見することができます。現在、厚生労働省でマンモグラフィーのみと、超音波検査との併用の比較試験を実施し、分析が進んでいるところです。

―乳がん検診にデメリットはありますか。

髙木 日本では40歳を過ぎたら、画像検査を含む乳がん検診を定期的に受けることが推奨されています。乳がん検診の最大のメリットは、早期発見と早期治療により、命が助かる確率や乳房を温存できる可能性が高まることです。しかし、デメリットもあります。例えば、経済的な損失、「がんかもしれない」という不安や精神的な苦痛、放射線被ばく等の身体的な苦痛、精密検査のための医療費負担などです。

アメリカでは、40歳代の乳がん検診は、がん発見のメリットよりデメリットが大きいとし、2009年、米国予防医学専門委員会が40歳代のマンモグラフィー検診を「推奨」から「一律には推奨しない」に改訂しました。米国内でも異論がありますが、日本でも検証が行われています。

検査の受診率は徐々に増加の傾向

―乳がんに対する日本女性の意識はどうですか。

髙木 2017年に当会で実施した意識調査によると、乳がんについてよく知られているのは「マンモグラフィーなどを定期的に受けることで乳がんの発見率は高まる」(63.7%)、「ピンクリボンは、乳がん意識向上のシンボルマーク」(65.5%)、「乳がんは、自分で発見できるがんである」(61.9%)など、乳がん検診の方法やピンクリボン運動に関する項目です。また乳がんが心配な時の受診科は、産婦人科や内科ではなく、乳腺外来や乳房外来などですが、「産婦人科」( 45.8 %)、「乳腺外来」( 48.2%)と産婦人科と答える方が多くなっています。

―では乳がん検診に対する意識はどうですか。

髙木 マンモグラフィー検査の受診率は年々伸びており、40歳代以上でマンモグラフィー検査を「受けている」人は4割強まで伸びてきました。マンモグラフィー検査を「受けたことはない」または「以前受けていたが今は受けていない」理由の1位は「受診する機会がなかったから」(24.9%)、2位は「費用が高いから」(24.6%)、3位は「撮影中痛かった(痛いらしい)」(23.4%)です。30〜40 歳代では「時間がないから」、「仕事が休めないから」といった理由を挙げる人も多く見られます。超音波検査についても、「受けている」人は増加傾向にありますが、30歳代以上で超音波検査を「受けている」のは2割強で、5割強の人は「受けたことはない」と回答しています。

―さまざまな理由で検査を受けたことがない人は結構多いのですね。

髙木 そうですね。まず乳がんの正しい知識を得ていただきたいですね。検査にはそれぞれ得意、不得意や、メリット、デメリットがありますが、世界各国の乳がん検診の受診率(OECD Health data 2016)は、オランダ、アメリカは約80%、フランス、イタリアも70%以上です。乳がんは早期に発見できれば治る病気ですから、知らずに残念な結果になるより、きちんと定期的に検査を受けていただきたいですし、私たちも欧米並みの受診率を目指して活動を続けていきたいと思っています。

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