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時代や内容によって立ち位置も変わる。チームの一人として、より良い治療を提供することがやりがい

職場訪問

東京都

新しい治療や医薬品が増える中で欠かせない存在といえる薬剤師。しかし、薬剤師の仕事というと、調剤や製剤業務のイメージが強く、他にどんな仕事をしているのか知らないという方は多いかもしれない。今回は、東京都済生会中央病院薬剤部の有野徹氏に、多岐にわたる薬剤師の仕事の内容ややりがい、どんな薬剤師を目指しているかなどを伺った。
ドクターズプラザ2020年5月号掲載

職場訪問(5)/社会福祉法人恩賜財団 済生会支部東京都済生会 東京都済生会中央病院

研究活動は薬剤師の使命の一つ

――病院薬剤師になろうと思った動機をお聞かせください。

有野 実は薬剤師に憧れがあったわけではないんです。ただ高校2年生の時、自分の性格を考えたんですが、割と几帳面で、一人で黙々と仕事をするのが得意なタイプでしたので、薬剤師に向いているかなと勝手なイメージを持ったのがきっかけでした。もう一つは、実家がガソリンスタンドを経営していて、僕は高校1年生の時に危険物取扱者免許を取得したんです。その時、国家資格の責任の大きさを学んだので、そんな経験もあって薬剤師を目指したんです。医療関係者が親族にいたわけではなく、知識も全くないまま、飛び込んできたという形です。

――薬学部は4年制から6年生に変わりました。大きく変わったことなどはありますか?

有野 薬学部は2005年まで4年制だったのですが、それ以降は6年制になりました。6年制だと実習が多くなりますが、基本的な内容は変わらないので、今の方が余裕を持って勉強できているのかなとは思います。6年間、学部で勉強して、実習で臨床現場に行くのですが、4年制の時代は、学部で薬学の勉強をしたあと多くの人が大学院に行きます。大学院では薬を作ったり、人の機能や細胞の機能を調べたりする研究活動に時間を割きます。僕も2年、大学院に行きました。僕は薬剤師の使命の一つは研究だと考えているので、薬の副作用などの疑問を研究、発表したことで、社会へ貢献ができたのかなと思います。

――薬剤師になるためにはどのような勉強をするのでしょうか。

有野 薬学部では、まず基礎科目として有機化学・無機化学・分析化学・放射線化学・生物学・物理学など理系の科目を多く学びます。さらに専門科目として薬理学・薬物動態学・製剤学・病態生理学・薬事関係法規などがあります。また、薬学部は実習に多くの時間が割かれていることが特徴です。薬理学や製剤学などの理解を深めるため、実際に動物に薬物を投与したり、医薬品を合成したりといった実験を行います。また、6カ月間は実務実習として、病院や薬局に実習に行き現場の薬剤師から直接指導を受けます。

――今の職場を選んだ理由は何だったのですか。

有野 転職前は大学病院で働いていて、調剤や抗がん薬調製、注射薬を患者ごとに取り揃えるなど、基本的な仕事をメインにやっていました。しかし、どうしても病棟で働きたいとの思いがあり、そこで当院に移りました。今年で8年目になります。

――東京都済生会中央病院について、ご紹介ください。

有野 明治44年に、明治天皇が当時の総理大臣・桂太郎氏を招聘して「医療を受けられないで困っている人たちが、よい医療を受けられる施設を作るように」との趣旨の『済生勅語』と、御手元金150万円を下賜されました。これを基金として恩賜財団済生会が創立され、当院は大正4年に済生会芝病院として開院、北里柴三郎先生を初代の院長に迎えました。現在の病床数は535床で、34の診療科を扱い、常勤職員は約1200名を数えます。当院は、今年で105年を迎え、高度急性期医療を担う地域の中核病院として、あらゆる人々に医療・福祉の手を差し延べることを理念に、医療機関や福祉施設等との連携を密にして運営されています。一昨年よりリブランディング活動にも力を入れており、「3つの約束」を地域の皆さん、当院へお越しになる患者さんへのコミットメントとして掲げて取り組んでいます。

――この地域の特徴はありますか。

有野 有数の大病院が集中している港区は、大使館などが多い地域で、外国の方が多いのが大きな特徴です。観光客よりも、大使館職員とその関係者など日本在住の外国籍の患者さんが非常に多くいらっしゃいます。

――通訳をするスタッフも必要ですね。

有野 診療に使う外国語に関しては、病院全体で取り組んでいかなければならないテーマなのですが、日本語が分かりづらい方に関しては、当院には医療通訳が2名いるので、診察でも助けていただいています。また、病棟にも、英語や中国語を話せるスタッフがいたり、薬剤師にも帰国子女の方がいます。ただ、日本で働いている外国籍の患者さんが多いので、日本語が分かる方が多いです。

近年大きなウエイトを占める抗がん薬調製

――院内ではどのような仕事があるのですか?

有野 専門性が分かれています。当院には薬剤師は43人いますが、一番多いのが病棟薬剤師です。各診療科の病棟に常駐していて、医師や看護師と治療方針や薬物治療の情報を共有し、薬剤師の視点から確認することで安全確実に治療が行えるよう取り組んでいます。また、患者さんに薬の説明をしたり、副作用の確認、予防や対策を行ったりしています。他にも、必要な薬が必要な数、病院に納品され、有効期限内に使えるよう管理する医薬品管理室や、日々更新される最新の情報を製薬会社から手に入れて、それを現場のスタッフにフィードバックする医薬品情報室、入院患者の注射薬を患者ごとに準備する注射室、売っていない薬を病院で作る製剤室もあります。最近、大きなウエイトを占めている抗がん薬調製は、医師が処方した抗がん薬の投与量に誤りがないか確認し、各患者の投与量に応じて抗がん薬を調製しています。抗がん薬治療のマネジメントにおいては重要な部署で、多くの人員を割いています。私は掛け持ちで、病棟業務や抗がん薬調製業務など、シフトによる人員調整に応じています。部署や診療科によって必要とされる知識が異なり、幅広い知識が必要になってくるんですが、ベテランになってくると、いろいろな役割を担うのが当院のスタイルになっています。

――薬剤師の仕事は多岐にわたるのですね。

有野 ひと昔前、病院薬剤師は薬の調剤に追われていました。しかし医薬分業が推進され、院外処方せんを出して調剤薬局の薬剤師さんに第三者の立場として内服薬などの処方内容の確認と調剤を行っていただいています。現在は、病院薬剤師は調剤などの業務が減った分、入院の患者さんと直接顔を合わせて、副作用や投与スケジュールを確認し、より良い治療を先生と相談して行うとの立ち位置になってきています。

チームワークの良さが一番の自慢

――今の職場の雰囲気はいかがですか。

有野 薬剤部・技師長の楠見をはじめ、スタッフみんな親切で思いやりがあり、協力して働けるというのが魅力です。それが一番、大事じゃないかな。ですから、僕も先輩と後輩の橋渡しをする役割かなと思っています。薬剤部はA〜Dまでのチーム制になっており、お互いに協力しやすくなっているのですが、チーム内で飲み会をしたり、バーベキューなどで、より親睦を深めるようにしています。また飲み会をしても、働いている人だけでなく、退職した人も一緒に情報交換したり、チームワークは薬剤部の一番の自慢だと思います。

――意思疎通が、十分に図れているんですね。

有野 薬剤部内では、先輩と後輩が良好なコミュニケーションを取っています。意見を出すと、ちゃんと上の人が話を聞いて検討してくれます。例えば「抗がん薬曝露」と言って、抗がん薬を調製する薬剤師自身が、被曝をしてしまうケースがあるんですが、1年くらい前、他の病院から入職した薬剤師が、その曝露をもう少し減らせるのではないかという意見を出してくれました。それを先輩に話したら、「抗がん薬曝露に関する検討委員会」というワーキンググループを立ち上げてくれて、現在、改善のために動いている最中です。

――勤務体制について教えてください。

有野 勤務時間は8時30分〜5時までが定時で、残業しないようにとは言われていますが、なかなかできないところもあります。薬剤部内では業務改革を進めていますが、平日は7時くらい、早ければ6時くらいに終わります。当直は持ち回り制で、月1、2回のシフトで入ります。当直の勤務時間は朝10時半〜翌日の9半時まで。昔のやり方が引き継がれているので、ここも徐々に改善されていくと思います。

――薬剤師の仕事のやりがいはなんですか?

有野 当院は「がん研有明病院」という、がん専門の病院と連携病院になっていて、薬剤部同士の交流があるんです。先日も血液がんに関しての勉強会をやったんですけれども、専門病院の薬剤師の話を聞いたり、仕事を勉強させていただくことで視野が広がり、当院の良さも、足りない部分も見えてくる。その意味で、がん研との交流は仕事のやりがいにつながっているかもしれないですね。僕個人としてのやりがいは、医師にも看護師にも頼られていることでしょうか。治療の過程で意見を聞いてくれたり、薬剤師が必要とされているのだなと感じられるのです。私が以前担当していた血液内科の先生は、医師と同じようにチームの一人として薬剤師を見てくれるので、最新の治療を一緒にやっているのだという実感を持てました。

――どのような薬剤師を目指していますか。

有野 これができるとか、こういう資格を持ちたいではなく、いろんな場面で頼られる存在になりたいと思っています。先輩や後輩、医師や看護師、患者さんからも必要とされる薬剤師になりたいという感じです。

――最後に、薬剤師を目指している人にアドバイスをお願いします。

有野 薬学部の学生に言いたいのは、国家資格は必ず取っておくべきだと考えてほしいです。薬剤師の国家試験は難しいので、大学によっては3割しか受からない場合もあるんですが、とても重要なことです。企業に就職したら資格は必要が無い、病院や薬局に就職する人だけが取ればいいと思っているかもしれませんが、薬剤師に限らず、医師にしても検査技師にしても、資格を取ってからが始まりだと思います。何かをきっかけに、自分の人生の道が変わる場合もあるかもしれない。新しい薬や治療法がどんどん増えるので、10年後に取ろうとしても、なかなか難しい資格ですから、現役の学生さんには卒業ではなくて、最低限、資格を取ることを目標にしてほしいと考えています。

ドクターズプラザ2020年5月号掲載

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