2019

08/28

昼寝は必要? どのくらい?

  • 睡眠

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西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

DRP Healthcare magazine2019年9月号掲載

よしこ先生の睡眠の話

昼寝の長さによっては作業効率が悪くなることも

私たちヒトは、筋肉を休めるための眠り(レム睡眠)と、脳を休めるための眠り(ノンレム睡眠)を必要とする生き物です。ヒトは昼間起きて夜眠る昼行性の生き物ですが、夜行性昼行性を問わず生き物は、実は1日に2回、午前2時頃と午後2時頃に強い眠気を感じます。日本人の成人の15%は我慢できない昼間の眠気を訴えているという報告があります(内村,2015)。

昔から「腹が張ると瞼が緩む」といわれていますが、それは腹が張ったというより、12時間ごとに起こる強い眠気の1つと考えていいでしょう。日中活動する学生や働く人たちは、この時刻の強い眠気にあらがえないと感じることがあるのではないでしょうか。もちろ現代人の睡眠時間は、どんどん短時間化しており、それによる睡眠不足の影響であったり、ゲームなどの夜間活動の影響であったりする可能性もありますが、生理的に午後の2時頃は眠くなるとされており、この時刻付近に昼寝をすることは、それ以降の勉強や仕事の能率を向上させるといわれてきました。

ところで、本当に昼寝はした方が良いのでしょうか。するとしたらどのくらいの時間が良いのでしょうか。眠くならなくても、予防的に昼寝を取ることは良いのでしょうか。実は、昼寝は深く長くなると、全体としての睡眠の質や作業効率に悪影響を与えるといわれています。乳幼児においては、保育園児は幼稚園児より長い昼寝を取り、夜間の睡眠の質が悪化しているという研究が発表され、トピックスになりました(岡,2018)。保育園に預けると、夜に寝ぐずり(入眠困難)が起こるというわけです。乳幼児は寝れば寝るほど育つといわれていたのに、適切な昼寝の時間があったということです。また、午後2時に健康な若年者に20分間の睡眠をさせるという実験をしたところ、睡眠段階は深くなることなく(ステージ2まで)、昼寝の後は眠気が改善し、その後オン作業効率が上がる(Hayashi M,1999,2004)ことが分かりました。大学受験の青年では、午睡を導入した高校で、導入前後の3年間の大学入試センター試験の成績が、有意差をもって向上したという報告もあります(内村,2015)。高齢者においても、短時間の午睡が認知症の発症予防有効だとしています(白川,2018)。つまり、昼寝はした方が良さそうです。しかし、どうやら長く寝すぎては良くなく、10分から20分というところが望ましそうです。

昼寝から覚めてボーッとして、体がだるくて仕方がなく、その後は仕事にならなかったという人はいませんか。これを睡眠慣性と言います。起きた直後に眠気や疲労感が残る現象です。もし、このようなことがあれば、昼寝が深過ぎたか長過ぎたかなと考える必要があります。このように昼寝は、目安となる長さはありますが、まず睡眠は人それぞれ、起きた時にだるさや疲れた感覚がなく、スッキリしており、その後の活動ができたら適切な昼寝だったと考えるのが良いでしょう。

人の生体リズムは、この地球に暮らす多くの動物と同じように、体内時計によって調整されています。体内時計は約25時間の周期(サーカディアンリズム)で活動と休息をしていますが、現代では、地球の1日の周期は23時間56分となりました。しかし私たち生き物は、地球に生命を授かった時と同じように、25時間の生体リズムを持ち、昼行性の生き物も夜行性の生き物も、1日2回強い眠気に襲われます。光を充分に浴び、社会リズムを整えることによって、意味のある活動を昼寝の後にすることが大事です。昼寝はした方が良いのではなく、昼寝をすると元気に動ける人は昼寝を、昼寝をするとだるくなる人はしないことが大事です。眠りも生き方も、その人らしくが一番ですね。

 

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