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新型コロナウイルス感染症 COVID-19パンデミック

感染症

内藤 博敬
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 准教授
日本医療・環境オゾン学会 理事
日本機能水学会 理事
専門は環境微生物学、病原微生物学、分子生物学、生化学。
ウイルスや細菌の感染予防対策法とその効果について、幅広く研究を行っている。
ドクターズプラザ2020年9月号掲載

はじめに

中国・武漢に端を発した新たな感染症は、ヨーロッパへと感染が広がり、イタリアでの被害が大きく報じられるようになりました。「イタリア風邪」、記憶の片隅にあったその名前は、SF作家である小松左京先生が、奇しくも先の東京五輪が開催された1964年に記された、「復活の日」で語られた感染症でした。当初は風邪に似た症状が肺炎となり、著名人が亡くなり、映画やドラマが作成できず、スポーツの大会が次々と中止されるといった小説や映画の中の架空の被害が、現実になるとは私自身思ってもみませんでした。

2020五輪のチケット購入が開始された去年の初夏、誰が現在の世界を想像できたでしょうか。本誌が発刊されるころはパラリンピックが開催されていると、誰もが疑わなかったことでしょう。しかし、世界はたった1つのウイルスによってフリーズし、今なお猛威を振るうその病は、全世界の人々を恐怖のどん底に突き落としました。 当初、新型コロナと呼ばれたこのウイルスについては解明されていないことも多々ありますが、ウイルス学、公衆衛生学の視点でわれわれ人類と感染症との戦いを振り返りながら、私たちはこれからどうあるべきかを考えていきましょう。

人類と感染症

感染症の原因は、微生物です。微生物には、われわれ人間と同じ真核細胞から成る単細胞生物の真菌や原虫、同じく単細胞ですが構造が単純な原核細胞から成る細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジアなどがいます。また、細胞構造を持たないものの、タンパク質の殻と遺伝子を持つウイルスや、感染性タンパク質の異常プリオン、感染性RNAであるウイロイドなども感染症の原因であり、微生物学で扱います。多種多様な微生物ですが、われわれが知っている地球上の微生物は極わずかで、ほとんどの微生物は人間と直接的に関係していません。極わずかな微生物と、時には都合よく、時には牙をむかれる関係を、人類は地球に誕生した時から築いてきました。一般的にいわれる「善玉/悪玉菌」といった微生物はおらず、細胞構造を持つ微生物とは量や環境などその時々の状況で、敵にも味方にもなる関係性を築いています。一方で細胞構造を持たないウイルスとの共生関係は不明であり、もっぱら人間が寄生されて痛い目を見ています。

人類に初めて感染した微生物は分かりませんが、過去の遺跡から虫歯や天然痘などの痕跡が見つかっています。また、今日でもわれわれを苦しめている結核の痕跡は、新石器時代(紀元前5000年ごろ)のミイラからも見つかっています。記録が残されている感染症(表1)では、ペスト、ハンセン病、梅毒、コレラなどがあり、これらは現代でも人類を苦しめています。17世紀にその存在が発見された微生物ですが、ドイツのロベルト・コッホによって細菌が感染症の原因となることを突き止められるまでには発見から200年かかっています。ウイルスの発見は1892年のことで、人類が敵を認識してからまだ130年ほどなのです。

ウイルスが発見されたとはいえ、戦争の続く時代でもあり、現代のようなスピードで情報が世界を駆け抜けることなどなく、ウイルス対策はおろか感染症との関連すら不明なことばかりでした。第1次世界大戦終戦の翌年に当たる1918年、全人類に戦争以上の恐怖を与えた感染症が流行しました。そう、「スペイン風邪」と呼ばれるインフルエンザです。今回のCOVID -19とも比較されるスペイン風邪は、1918〜1920年にかけて、全世界で6億人以上が罹患し、4000万人以上が亡くなったと推定されているパンデミックです。既にワクチンや血清療法の技術は開発されていましたが、現代ほどの汎用性は無く、また、対処療法で用いる抗生物質も発見されておらず、今日以上に医療従事者の方々は苦労されていたことが記録から伝わってきます。また、日本でも多大な被害が出たスペイン風邪ですが、当時の日本ではテレビどころかラジオも放送されておらず、人々がスペイン風邪の恐ろしさを知ったのは、当時の劇作家・島村抱月がスペイン風邪で亡くなり、女優の松井須磨子が後追い自殺をしたことによるゴシップだったそうです。

1929年、細菌培養中に真菌が汚染したことから、抗生物質であるペニシリンが発見されます。その後多くの抗生物質が発見され、第2次世界大戦後から今日にかけて、人類は多くの感染症を制御してきたように感じています。1980年には、1798年に発見された種痘法の成果によって天然痘が撲滅されました。ところが一方で、エボラ出血熱、腸管出血性大腸菌O157、エイズ、C型肝炎などの新興感染症が出現し、コンタクトレンズや生理用品など文明の発展とともにこれまで感染症の原因とならなかった微生物が牙をむくことも増えてきました。そんな折、2002年には重症急性呼吸器症候群(SARS)、2009年には新型インフルエンザ、2012年には中東呼吸器症候群(MERS)と、新たな呼吸器感染症の出現を経験しています。

「コロナウイルスとは?」風邪、SARS、MERSについて

コロナウイルスは、ニドウイルス目コロナウイルス科のRNAウイルスで、外被膜エンベロープを有し、その表面に配したSタンパクと呼ばれるスパイクによって絵に描いた太陽のように見えることから「コロナ」の名前が付けられました。SARSが出現するまでのコロナウイルスは、いわゆる風邪症候群の原因となるウイルスとして、アルファコロナウイルス属のHCoV-229、HCoV -OC43、HCoV -NL63およびベータコロナウイルス属のHCoV-HKU1の4つが知られていました。これらの風邪コロナウイルスは、人類と長い間共存してきたからなのか、罹患しても免疫記憶が持続せず何度でも罹患するため、2〜4年ごとに流行を繰り返しています。治療法やワクチンはありませんが、症状が重症化することもほとんどありません。

2002年、中国から香港、台湾、シンガポール、カナダなどで重症呼吸器症候群(SARS)が発生し、原因となった病原体としてSARSコロナウイルスが特定されました。その後の調査で、SARSコロナウイルスはコウモリを終宿主とするウイルスであることが判明し、家畜などの哺乳動物を介してヒトへ感染したと考えられています。2002〜2003年に流行したこのSARSウイルスですが、その後の感染拡大は報告されていません。SARSの症状は、発熱、頭痛、筋肉痛などの感冒症状が初期に現れ、また、一部の患者では乾性咳、息切れ、呼吸困難などが見られ、低酸素血症を起こすことがあります。高齢者や基礎疾患を持つ者では、容易に重症化することも報告されています。ワクチンや確立された治療法は無く、対症療法がとられます。

SARSの出現から10年後、アラビア半島諸国からヨーロッパへと感染範囲を拡大していった呼吸器感染症が出現しました。中東呼吸器症候群(MERS)と名付けられたこの感染症も、新種のMERSコロナウイルスを原因とする感染症です。このウイルスも遺伝子解析の結果からコウモリを終宿主とするウイルスであることが分かりましたが、一方でコウモリからヒトへと直接的に感染したことは証明されませんでした。その後の調査で、ヒトコブラクダがMERSコロナウイルスの宿主であることが判明し、東アフリカでは1983年の時点で既にヒトコブラクダがMERSコロナウイルスに感染していたことも明らかとなりました。MERSの症状はSARSと似ていますが、重症例では腎炎の合併も報告されています。ワクチンや治療法についても、SARSと同様で確立されていません。MERSは2012年に初めてヒトへの罹患が確認されてから徐々にその感染範囲を広げていますが、現在のところヒトからヒトへの感染が感染患者との濃厚接触に限られており、小規模で散発的な流行が続いている状況にあります。2019年にもオマーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦での流行が確認され、厚生労働省は2019年11月までに世界で2429人が感染し、少なくとも858人が死亡していると報告しており、今なお終息の気配すら見えません。

SARSコロナウイルスおよびMERSコロナウイルスは、いずれもベータコロナウイルス属のウイルスです。ベータコロナウイルス属には、げっ歯類に感染するコロナウイルスが含まれており、マウスコロナウイルス(タイプ)とも呼ばれ、哺乳動物へも感染するコロナウイルスが含まれます。近年、世界的に人口が増えたことで、人類は野生動物の生息域へ活動範囲を広げ、それによってこれまで経験したことの無い感染症が引き起こされている可能性が高いとされています。また、国・地域によっては、ワイルドミート、ブッシュミート、ゲームミートなどと呼ばれる、野生動物の捕食を食文化としている場合があり、これによる新たな感染症の発生が懸念されています。1976年に発見されたエボラウイルスや、中央アフリカで発生したヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV -II)は、野生サルやチンパンジーとの接触・捕食が原因だと考えられています。SARSの原因となった哺乳類はハクビシンである可能性が推察されています。また、中東ではお祝いなどでラクダを食す食文化があり、これによってMERSがヒトへと感染した可能性が高いと考えられています。

日本ではSARSやMERSの感染が確認されていないため、これらの流行は対岸の火事でした。しかし、SARSコロナウイルスの研究が進むと、このウイルスには近縁種が多く存在することが分かりました。SARS流行の起源と考えられたハクビシンからも、複数の系統のウイルスが同定され、2009年に国際ウイルス分類委員会(ICTV)は、近縁種を含めてSARS関連コロナウイルスと呼ぶように提言しています。また、近縁種が多いことはSARSやMERSのようにヒトへの感染が可能な新型コロナウイルスがいつ出現しても不思議ではない状況にあり、新型コロナウイルスの流行の可能性を指摘していた世界保健機構(WHO)の予測が的中するという、残念な結果となりました。

新型コロナウイルスの感染状況

2020年の幕開けは、中国・武漢で大規模な肺炎が流行しているというニュースでスタートしました。日本でも、武漢から帰国した方の感染が1月16日に報じられていますが、このころは中国・武漢にさえ行かなければ安全だと思われた方も多かったことでしょう。1月20日に横浜港を出発し2月3日に帰港した、英国の豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号で、新型コロナウイルスに感染している乗客が乗船していたことが大々的に報道されました。また、同時期に武漢市からチャーター便で帰国する方々の様子が報道され、対岸の火事と思っていた日本国民をパニックへと導いていくこととなりました。

新型コロナウイルスの感染が中国から世界へと広がりを見せ始めた2月11日、WHOはこの新型コロナウイルス感染症をCOVID-19と命名しました。また、COVID -19の原因となるコロナウイルスの名称を、暫定的に2019 -nCoVとしました。その後の研究でこのコロナウイルスは分子遺伝学的にSARSコロナウイルス(SARS -CoV)に近縁であることが分かり、ICTVがSARS -CoV -2と命名しました。SARS -CoV -2の自然宿主は特定されていませんが、おそらくコウモリだろうと考えられています。また、哺乳類のマレーセンザンコウからも遺伝子レベルで類似のコロナウイルスが発見されており、センザンコウの捕食を起源とする推察もあります。一方で、SARS-CoV-2がペットであるネコに感染し、ネコの間で伝播することを東京大学医科学研究所(東大医科研)の河岡義裕教授が報告しており、多くの哺乳類が感染する可能性や、そこからヒトへ感染が広がることが懸念されています。

SARS-CoV-2がヒトに感染すると、発症までの潜伏期間は推定で2〜14日、症状は無症候性から重症の肺炎、死亡まで幅広く報告されています。また、特異的、特徴的な症状は無く、発熱、空咳、倦怠感といった感冒症状や、嗅覚や味覚障害が報告されています。

日本における感染者は4月に流行のピークを迎え、緊急事態宣言が解除された5月25日時点でクルーズ船乗客を除いた感染者累計が1万6623人、死亡者852人でした。約2カ月後の7月21日時点の感染者は2万6476人、死亡者989人と、死亡率は抑えられているものの感染者数の急増が起きています。7月16日の参院予算委員会において、東大先端科学技術研の児玉龍彦名誉教授は、ゲノム疫学的に第1波は武漢型、第2波はイタリア、アメリカ型、現在は国内で変異が進んだ東京・埼玉型によるエピセンター(震央、中心地)化が進んでいると警鐘を鳴らしています。4月7日に埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県に緊急事態宣言が出され、16日には全国へと発令されました。約1カ月後の5月14日に39県で宣言解除され、25日に全国が宣言解除となりました。緊急事態宣言が解除された以降も、県を越えての移動自粛や、職場や学校への時差通勤・登校などが続き、大学によっては9月一杯の入校を禁止するなど、今なお1月以前の生活には戻っていません。それでも今春の第1波を他国と比較すると、日本における感染ピーク、感染者数、死亡率はいずれも極めて低く抑えられています。日本の対策を評価する声もありますが、欧米で暮らす友人から「日本人は自身が感染しないことよりも自身が感染源になることを恐れてマスクをしている」との意見をもらいました。また、COVID -19には不顕性感染が多く、日本では検査数の少なさから見落とされている感染者を指摘する意見もあります。医療崩壊、病床数確保を見据えて、COVID -19が疑われた場合のみのPCR検査としたことについては、各国からの評価が分かれています。

コロナウイルスはRNAウイルスであり、DNAウイルスのPCR検査と比べるとRNAをDNAにする行程が増え、またDNAと比べてRNAは壊れやすいため、検出感度が低くなります。また、検査試料とする気道分泌液中に十分なウイルスが存在しなければ陰性となります。鑑識や親子鑑定で行われる遺伝子診断のイメージを持たれる方も多いようですが、PCR法によるウイルス遺伝子検出も前出の技術的事項から高感度ではあっても100%確実な診断法ではなく、時間と手間がかかります。逆に、抗体検査は短時間で結果が出ますが、確実性はPCR法よりも低い検査法です。現在、短時間で確実にSARS-CoV-2を検出する試験法として、ゲノム編集技術を応用した検出法を東大医科研が開発したことが6月2日付で報じられ、これからの検査法として期待されています。

日本国内では第1波は終息したと考えられますが、世界では7月末の時点で、感染者約1700万人、死亡者は約70万人と、アメリカを筆頭にブラジル、インド、ロシア、南アフリカなどで感染者が爆発的に増加しています。世界的にヒトの移動は制限されていますが、日本でも流行は続いており、第2波に備えた予防対策を考えなければなりません。

今秋、来秋へ向けたコロナ再燃への心構え

感染症流行は、必ず終息します。COVID-19が、いつ終息するのかは誰にも分かりませんが、対策をしようがしなかろうが、必ず終息することは感染症の歴史から分かります。日本のスペイン風邪による感染者数は、当時の人口の4割以上であり、1918年11月と1920年1月の2つの感染ピークが確認され、1921年1月には感染者が激減して終息しています。SARSは、2002年11月〜2003年6月の間に、29の地域で8098人の感染者、774人の死亡者を出して終息しています。2009年の新型インフルエンザパンデミックにおける日本の感染者数は、2009年5月から終息宣言が出された2010年3月までに推計で2100万人、死亡者数は198人であり、成人への感染が少なかったことから他国と比較して死亡率が低くなっています。また、2009年にはインフルエンザの治療薬が開発されていたことから、翌冬に向けて薬剤の備蓄が行われましたが、幸いなことに新型インフルエンザの再燃は見られていません。

呼吸器感染症の流行において、われわれができることは「手洗い、うがい、マスク」予防だけであり、ワクチンや治療薬が有っても無くても、いずれ終息します。COVID-19に限っては、感染者が獲得した抗体は平均で3カ月しか保持されないとの報告が、英国のキングス・カレッジ・ロンドンから出されました。一方で、これまでのワクチンとは異なるウイルスベクターを用いたワクチン開発が臨床試験の最終段階まで進んでおり、抗体獲得に加えて感染細胞を貪食する免疫細胞を活性化する効果も確認されていることから期待が持たれています。ワクチンや治療薬は、早期終息を願っての策ではありますが、期待する一方で、認可を急ぐあまりに安全性がおろそかにはならぬよう、慎重に進めてほしいと思います。

呼吸器感染症の流行は、症状の重さや不顕性感染の多さによって、広がり方が変わります。症状が極めて重い場合には感染者の活動範囲が狭まり、接触者も減ることから感染の広がりは限定的になります。症状が顕れない不顕性感染や軽症者が多い場合は、罹患者の行動範囲が広くなるために感染拡大が起こります。COVID-19が急速に世界中へ広がりを見せたのは後者であったためですが、今後重症化率が上昇しないとは言い切れないため、強毒性ウイルスに変異しないように注意する必要があります。ウイルスの動向に気を付けながら、終息するまでは3密を避け、「手洗い、うがい、マスク」でしっかりと予防しましょう。また、コロナウイルス対策には、消毒用エタノール、次亜塩素酸水(掛け流し35㏙以上、拭き掃除80㏙以上)、次亜塩素酸ナトリウム溶液(200㏙以上)が有効です。さらに、2020年5月には、オゾンのCOVID-19に対する有効性を奈良医大が報告しています。過剰な消毒で腐食や手荒れといった問題を引き起こさないよう、適度な予防を心掛けましょう。

おわりに

最後に私見となりますが、教育に携わる者としての意見を書かせてもらいます。日本において エリートと呼ばれる優秀な人材は、「正解」を求め導き出せる人材です。彼らは日常生活の中では最も頼りになります。しかし、今回のような想定外の状態では、誰も知らない正解を求めても答えは見つかりません。むしろ「決断力」、「想像力」や科学コミュニケーションが求められてきました。今後は、感染症だけでなく多くの想定外に対抗できるよう、正解を求める能力に加えて、これまで見過ごされてきた決断力、想像力、伝えるチカラを育成していける教育を心掛けたいと思います。

 

参考文献

池田一夫 他、日本におけるスペイン風邪の精密分析、Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. P. H., 56, 369-374, 2005
国立感染症研究所、病原微生物検出情報
厚生労働省ウェブサイト

ドクターズプラザ2020年9月号掲載

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