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手洗い・うがい・マスクで呼吸器感染症予防

感染症

内藤 博敬
静岡県立農林環境専門職大学
生産環境経営学部 准教授
日本医療・環境オゾン学会 理事
日本機能水学会 理事
ドクターズプラザ2020年5月号

微生物・感染症講座(70)

はじめに

2020年年頭、中国の湖北省に端を発した新型コロナウイルスの流行が起こりました。日本でも中国からの渡航者のみならず、国内でのヒト― ヒト感染が確認され、本誌が発行されるまでには終息していることを願うばかりです。暖冬の日本では、この新型コロナウイルスとともに、例年より遅れてインフルエンザが流行の兆しを見せていました。国内各所で人々が使い捨てマスクを求めたことで、店舗の棚からマスクが無くなる事例が相次ぎました。一方で、マスクによる予防効果は期待できないとコメントする有識者もおり、2009年の新型インフルエンザ発生時の経験が生かされていないと感じています。今回は、呼吸器感染症予防に「手洗い」「うがい」「マスク」がなぜ効果があるのか、お話ししたいと思います。

呼吸器感染症はマスクで防げるのか?

インド洋ダイポールモード現象の影響で偏西風の流れが変わり、今年の日本は暖冬となりました。冬に流行する季節型のインフルエンザは、気温が11〜12℃以下になると流行するといわれています。インフルエンザウイルスは、空気中の水分11g/㎥以上では感染活性が失活しやすくなり、逆にそれ以下では感染活性を長時間維持します。空気中の水分は、温度が高くなると溶ける量が多くなり、温度が下がると析出します。暖かい部屋で加湿器を使えば湿度も上がりますが、室温が下がると結露してしまうのです。つまり、11〜12℃の空気1㎥では11g以上の水を溶かすことができないため、冬場にインフルエンザが流行するのです。

咽頭・喉頭・気管・気管支・肺胞といった呼吸器系の感染症を呼吸器感染症と呼びます。われわれは生きるために呼吸をしなければなりませんが、その際に空気とともに気道を通って感染することから、経気道感染とも呼ばれます。ヒトからヒトへの経気道感染には、クシャミ、咳、会話によって口腔から放出される飛沫による飛沫感染と、この飛沫が乾燥した飛沫核による飛沫核(空気)感染とに分けられます(注)。何も遮らずにクシャミをすると、その飛沫は時速100㎞以上で10m以上も飛散するといわれています。よほどとっさで無い限り、ほとんどのヒトはクシャミや咳をするときに下を向いて手や布で口を覆うので、通常ではそれほど遠くまでは飛びません。また、感染のリスクは病原体を多く取り込むほど高くなるので、飛沫感染が起こるのは感染者と1.5〜2.0m以内の距離で接触することだと考えられています。この時、感染者がマスクをしていれば、さらに飛沫は飛びにくくなるでしょう。

現在汎用されている使い捨てのマスク(サージカルマスク)は、繊維を織った布製のマスクと違って、繊維を圧縮して作っているため、水分を通過させるのには時間がかかります。飛沫の大部分は水分であるため、マスクは飛沫感染に有効です。ただし、使い捨てにすることが大切です。

呼吸器感染症なのに手洗いで予防できるのか?

食中毒の予防に手洗いが効果的であることは、誰もが理解できることでしょう。しかし、インフルエンザの流行期にも、手洗いやうがいが予防法として奨励されます。ヒトは、鼻だけでなく口でも呼吸可能な唯一の動物なので、病原体が口腔を経て呼吸器に入る可能性があり、その予防としてうがいが有効であることは分かりやすいと思います。呼吸器感染症の予防にも手洗いが重要である理由は、ヒトが無意識に鼻や口に手を触れる習性を持っているからです。感染者が触れた所に病原体が付着し、そこを触った“手”で自分の鼻や口に触れることで病原体が移る、接触感染の予防に手洗いが効果的なのです。接触感染はマスクでは防げませんし、マスクをしているヒトもマスクの表面に触ることがあり、マスク表面には飛沫や汚れが付着しているので、マスクをしていても手洗い、うがいを忘れずにしましょう。

オリンピック開催時の感染症流行予測

オリンピックは、世界中から多くの方々が日本を来訪されるので、感染症の持ち込みにも注意をしなければなりません。ラグビーワールドカップの際に、夏場でありながらインフルエンザが報告されたのは、その時期の南半球が冬にあたり、応援団とともにインフルエンザウイルスが日本を訪れたものと考えられています。インフルエンザに限らず、麻疹・風疹などの呼吸器感染症、デング熱・マラリアなどのベクター感染症、さらには検疫の対象となる食品等を知らずに持ち込むことで起こる家畜伝染病など、注意すべき感染症は多岐にわたります。100%防ぐことは困難ですが、感染リスクを下げるには「見逃し」よりも「空振り」を心掛けることです。開催者や行政任せにせず、国民一人一人がしっかりと「手洗い」「うがい」「マスク」で感染予防対策を心掛けましょう。

(注)インフルエンザ、おたふく風邪、マイコプラズマなど、ヒトからヒトへと感染する呼吸器疾患の多くが飛沫感染です。結核、麻疹、水痘などが飛沫核感染(空気感染)をします。

 

ドクターズプラザ2020年5月号

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