2022

01/23

感染症対策と規制の在り方

  • 医療法

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竹内 千佳
行政書士。成城大学非常勤講師。スピカ総合法務事務所・所長。医療法人の許認可業務及び非営利法人の許認可業務を専門としている。実務の傍ら、現在は筑波大学大学院博士課程に在籍し、医療法の研究を行う。

ドクターズプラザ2022年1月号掲載

医療法(17)/諸外国の動向を踏まえて(2)

新型コロナウイルスの感染者数は、8月末のおよそ2万5千人(一日当たりの新規感染者数)をピークに減少し、10月24日には236人と大幅に減少しました。今回は、感染症対策と規制の在り方について、各国の政策を比較しつつ検討してみたいと思います。

日本の感染症対策と感染状況

東京都や大阪府の4都府県に発出されていた第3回緊急事態宣言(令和3年4月23日発出)は、対象地域の増減、期間の延長を繰り返しながら、2021年9月30日に全地域で解除されました。東京都では、2021年1月から現在までの297日中、その7割以上である210日が緊急事態宣言下だったということになります。

緊急事態宣言は、特措法に基づき発令されるもので、対象地域の都道府県知事は、不要不急の外出の自粛や、店舗の営業時間短縮、休業要請等を行うことができます。ただし、これらはあくまで要請であり、任意のお願いにすぎません。自粛要請に従わない場合には、命令を発令し、違反者には30万円以下の過料を科すことができますが、これは行政罰であり、刑罰ではありません。日本は、強制力を持たない自主規制によって、ロックダウンを行ったといえます。

諸外国の感染症対策と感染状況

一方、諸外国では、ロックダウン時には刑罰を伴う強制力を持たせることが多くあります。ロックダウンが発令されると、基本的に不必要な外出は禁止され、違反者には罰金や逮捕などの刑事罰が科せられます。各国の一例を見てみましょう。フランスでは、食料品店や薬局、医療機関以外の店舗が閉鎖され、その他の業種は基本的にテレワークとなり、外出が禁止されました。運動や買い物のための外出には、許可証を携帯することが求められ、外出範囲もパリでは500m以内、1時間以内という制限が課せられました。違反者には、罰金として最大1500ユーロ(およそ18万円)、さらに累犯者にはおよそ44万円の罰金と6カ月間の禁固刑も科せられます。イタリアやスペインなどの欧州諸国も、おおよそこうした規制を採っています。なお、ドイツは外出制限を比較的弱めにして、接触禁止に重点を置いた規制をしています。

アメリカでは、各州によって規制内容や違反者への罰則の有無、程度が異なります。連邦制を採るアメリカでは、私権制限の権限は州知事にあるためです。大統領が発令する国家非常事態宣言は、あくまで推奨にとどまります。当該宣言を受け、50州中20州以上の州では、外出禁止命令が出されました。内容は各州で異なりますが、例えば、ニューヨーク州では、医療機関や食料品店等の業種を除き、在宅勤務を義務付け、違反した事業者には罰金を科しました。

前述した例と同じく、外出禁止、違反者への罰則を設けていたイギリスは、新型コロナとの共生へと路線を変更し、2021年7月にロックダウンを全面解除しました。ボリス・ジョンソン首相は、声明の中でウイルスとの共存を指摘した上で、今後は法律による強制より、個人の判断が重要だと述べ、政府による情報提供や各種ガイダンスの更新を宣言しました。残念ながらイギリスでは、ロックダウン解除後の8月に新規感染者数が2万人台となったものの、10月21日には5万人を超え、規制撤廃後最も高い水準となっています。

規制の厳格性と感染対策の相関関係

日本で感染者数が急減した理由として、専門家からいくつかの要因が挙げられていますが、はっきりとした根拠は分かっていません。イギリスのメディアでは、この日本の状況を「謎めいた減少」と表現しています。減少要因として、ワクチン接種率の増加やマスク着用率の高さが挙げられていますが、規制の在り方とは相関関係があったのでしょうか。強制力を伴う規制によって感染を抑えられた国は、あったといえるでしょう。イギリスの例を見ると、強制力がなくなったことで感染が増えていると見ることもできそうです。一方で、日本のように強制力を伴わずとも感染が減少する国もあり、一概に規制の厳格性が感染対策と相関関係にあると言うことはできません。

感染拡大に際し、各国に比較して強制力を伴わない日本の政策には、批判の声が上がりました。また、強制ではなく任意であることから、補償が担保されていないことも批判を強めた要因であったように思います。しかし、だからといってこれまでの政策を一転し、強制力を持たせた政策に変更することで、感染症対策は奏功したのでしょうか。コロナ関連法改正において、刑事罰を盛り込むことの議論を踏まえると、国民の反発は必至であったように思います。

各国の文化や風習、国民性、価値観の違いと土壌が異なるため、唯一の正解というものはありません。日本の感染状況は、幸いにも現在急速に減少していますが、今後の感染率は上昇するかもしれず、感染対策として正しいといえるのかは、現時点では分かりません。とはいえ、これまで日本が刑事罰による制裁を背景に、強制力を伴うロックダウン政策を採らなかったことは、誤りではなかったのかもしれません。新型コロナウイルス対策に限らず、これからの感染症対策を考える上で、私権制限との関係については、今後も議論を続けてほしいと思います。