2014

03/15

幸せな結婚をしたはずが……。

  • メンタルヘルス

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西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2014年3月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(24)

ADHDの「不注意」「多動性」「衝動性」の特徴に加えて「察しの悪さ」というASDの傾向を合併

衝動的に行動して失敗

A子さんは、昨年の秋に周囲から祝福されて学生時代から6年間付き合ってきたボーイフレンドと結婚しました。幸せな新婚生活のはずが、まったくうまくいきません。大学院卒業後就職した研究所では、それなりに業務をこなしているのに、自分の家のことをするとなると、どうにもうまくいきません。会社から帰りいざ夕食の支度をしようとすると、具材のいくつかを忘れていること(不注意)に気づき、大急ぎで近くのスーパーに駆け込む毎日です。時には夫に足りないものを無理やり買ってくるように頼み込み、喧嘩になってしまいます。部屋も片付きません。

暮れからお正月にかけて初めて夫の実家に帰省したA子さんは、周囲から集中攻撃を受けてしまいました。ぽろっと夫が漏らした「結婚祝いの高価な鍋を焦がしてしまった」「まともに夕食ができたことがない」などという愚痴に加えて、お茶出しや親戚への気配りがまるでできないことに、周囲から「大学院まで出ているのに」と驚かれてしまいました。バタバタと慌てて立ち動いている(多動性)のですが、周囲の状況はまったく読めていません。お姑さんから「もう少し気配りをして」(察しの悪さ)などと言われましたが、A子さんはどうしたらいいのかわかりません。夫に「お義母さんから気を配るように言われたけど、どうしたらいいかしら」と尋ねましたが、夫は「そんなこと、人に聞くことじゃないだろう」と何だか不機嫌です。途方に暮れたA子さんは、2日まで滞在する予定を切り上げて、一人で1日の夜に自分の実家に帰ってしまいました(衝動性)。2日になったら予定通り来ると思っていた夫が夕方になっても来ないので、夫に連絡を入れましたが、夫は「勝手に帰っておいて、どんな顔をしてお前の実家に一人で行けるんだ。僕はもう自分の家に戻ったよ」とすっかり怒っています。

振り返ると、小学校低学年の頃は「忘れ物名人」などと呼ばれていました。学年が上がるにつれ成績も上がり、学校では怒られないコツというようなものを身につけましたが、お稽古や親戚の集まりでは「A子ちゃんは有名大学に通っているとは思えないわよね」などと、落ち着きのなさを冷やかされ続けていました。今回のように周囲の状況にお構いなしに衝動的に行動して失敗したことも数え切れません。

成人期ADHDの診断

この度、2013年5月に発表されたDSMー5(アメリカ精神医学会の診断基準)における成人期ADHD(注意欠如多動性障害)の診断基準は、従来の診断基準からいくつかの点で変更されました。症状発現が確認される年齢が7歳以前から12歳以前に引き上げられ、ASD(自閉症スペクトラム障害)との併存が認められ、17歳以上の診断に必要な項目が6項目から5項目に減るなどの変更でした。これらの変更はいずれも診断基準の緩和につながりますので、この改訂により今後成人期のADHD診断は増加することになるでしょう。ADHDの主な症状は、不注意、多動性、衝動性の三つですが、成人になって初めて医療機関を受診する場合は、これらの症状によって受診することはほとんどないと言っていいでしょう。小さい頃から慣れ親しんだ不注意や多動、衝動性は、本人にとってむしろ個性の一つのように捉えられており、今更悩むほどのことではありません。むしろ環境の変化、例えば就職や昇進、結婚や出産などに伴って適応が難しくなり、落ち込んだり問題を起こしたりして受診する場合が大半です。

A子さんの場合は不注意、多動性、衝動性というADHDの特徴に加えて、察しの悪さというASDの傾向を合併していました。結婚生活、家事というルールのない仕事にすっかり不適応を起こしてしまいました。呆れ果てた夫から言われた「この頃流行りの大人のADHDだよ」という一言から、成人期ADHDを疑って、受診しました。精査の結果、「成人期ADHD、ASD傾向」が確認されました。その後、認知行動療法を受け、ずいぶんと生活が楽になったという実感を持っています。ADHDの患者さんの特徴として、自分が興味があるものには集中できますが、興味を失ったとたん、注意が散漫となる傾向があります。治療は改善が実感できるものから開始する必要があります。

成人になって初めて医療を受診する場合は、うつ病や適応障害、解離性障害など別の疾患で初診する場合をしばしば認めます。受診動機となった症状が改善しても、集中できない、対人関係がうまくいかない、物事がうまく進まないなどの訴えが続くときには、改めて成育歴などを確認し、ADHDを除外診断する必要があるでしょう。