2013

08/23

寄生虫が狙っている

  • 感染症

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内藤 博敬
静岡県立大学環境科学研究所/大学院食品栄養環境科学研究院 助教。短期大学部看護学科 非常勤講師、静岡理工科大学 非常勤講師。専門は環境微生物学、病原微生物学、分子生物学、生化学。ウイルスや細菌の感染予防対策法とその効果について、幅広く研究を行っている。

ドクターズプラザ2013年8月号掲載

微生物・感染症講座(32)

最近になって報告が目立つ食中毒寄生虫も!?

はじめに

近年の日本では「寄生虫」という呼び名を耳にする機会が減っていますが、寄生虫症が起こらなくなったわけではありません。厚生労働省から発表される食中毒事件一覧を解析すると、ここ数年の食中毒では「その他」の項目が増えており、事件の内訳を見ると寄生虫が原因となっていることが分かります。また、海外渡航でヒトが感染して寄生虫やその卵を国内に持ち込んだり、交通網の発達によって食品を介した寄生虫症が起こったり、ペットの飼育率が高まったことで人獣共通の寄生虫症が見つかるなど、常に寄生虫は我々に感染するチャンスをうかがっているのです。今回はこの「寄生虫」についてお話しましょう。

寄生虫症は早期発見・早期治療!

「寄生虫」と聞いて、どんな“ムシ”を思い浮かべるでしょうか? 誰もが子供の頃に体験した“ギョウチュウ”検査や、海産物を介してヒトの腸管で数メートルにも成長する“サナダムシ”など(*1)、いわれてみれば身近なところに寄生虫の影を感じます。そもそも寄生虫とは、他の生物に寄生して生命活動を営む「動物」を指します。ダニやノミなどのように、ヒトやペットの体表面に寄生する“ムシ”も寄生虫の一つで、これらは「外部寄生虫」と呼ばれます。今回はこの外部寄生虫ではなく、身体の中に入り込んで感染症を引き起こす「内部寄生虫」についてお話してゆきます。

寄生虫の細胞は、私達と同じ真核細胞で、単細胞の寄生虫を『原虫:ゲンチュウ』、多細胞の寄生虫を『蠕虫:ゼンチュウ』と分けています。原虫は、アメーバのような「根足虫類」、移動手段として鞭毛を持つ「鞭毛虫類」と繊毛を持つ「繊毛虫類」、マラリアのように細胞内に寄生して移動手段を持たない「胞子虫類」に分けられます。蠕虫は、ギョウチュウやカイチュウ(回虫)のような「線虫(線形動物)類」、サナダムシのような「条虫類」、横川吸虫や肝蛭のような「吸虫類」などにそれぞれ分けられます。感染経路は個々に違っていますが、原虫は単細胞で目に見えないため知らないうちに直接摂取することで感染する場合が多く、蠕虫は多細胞なので肉眼で目にすることができるため、虫卵や幼虫を摂取することで感染する場合が多くあります。寄生虫症の中には、重症化して生命に関わるものもあるため、できるだけ早く治療する必要があります。寄生虫症の治療法は日々進歩を遂げており、現代では早期診断と的確な治療が可能となっているのです。

身近な場所に寄生虫は潜んでいる

2013年の春先、群馬県の水道水から「ジアルジア」の原因となる寄生虫が検出され、日本全国でちょっとした騒動が起こりました。上下水道の普及などによって衛生状態が向上した現代日本では、水道水から「寄生虫」が検出されることなど言語道断だと感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。ジアルジア症の原因は、ランブル鞭毛虫 (Giardia lamblia)という原虫の一種で、その姿がサルの面容を想像させることから「モンキーフェイス」と呼ばれることもあります。どうしてこの寄生虫が今回水道水から検出されてしまったのかというと、ランブル鞭毛虫は比較的塩素に強い寄生虫であるため、塩素消毒だけの浄水処理では生き残ってしまう場合があるのです。水道水に混入する恐れのある寄生虫はランブル鞭毛虫だけではありません。「クリプトスポリジウム」と呼ばれる原虫も塩素に強く、日本では以前より混入の可能性がある浄水施設に濾過等の処理設備を設けることとなっています。また、クリプトスポリジウムやランブル鞭毛虫は紫外線に弱いことがわかっており、2007年には水道汚染事故対策として、厚生省から水道施設の技術的基準を定める省令やクリプトスポリジウム等対策指針に紫外線処理が新たに位置づけられました。

ジアルジア以外にも、イヌやネコを介して感染するトキソプラズマや、コンタクトレンズの不正使用によって発症する危険性のあるアカントアメーバ―症など、われわれの文明・生命活動によって新たに起こっている寄生虫症は少なくありません。また、サバやイカなどの喫食によって感染する「アニサキス」や、ヒラメに寄生する「クドア・セプテンプンクタータ」など、最近になって報告が目立つ食中毒寄生虫もあり、これからも増え続けることが懸念されています。各論はまたの機会にしたいと思いますが、日常生活において、部屋や衣服を清潔に保つことはもちろん、手洗いの励行などを習慣づけて、しっかりと寄生虫症を予防してください。

 

(*1)サナダムシは条虫類の総称です。条虫類は、1個の頭部と数個から数千個の片節から成る形状をしていますが、その形が着物を着る時に使う「真田紐」のような形状であることから、日本では「サナダムシ」と呼ばれています。