2025

01/11

子宮頸がんと子宮頸がんワクチン

  • 小児の病気

鈴木 繁
社会福祉法人聖隷福祉事業団聖隷佐倉市民病院
小児科副部長兼臨床研修センター長

小児の病気③

子宮頸がん予防以外にも効果のあるHPVワクチン

子宮頸がんは子宮下部に発生する悪性腫瘍で、そのほとんどがヒトパピローマウイルス(以下、HPV)感染から発症します。日本では消化器がん等の死亡率は低下しているのに対し、子宮頸がんは増加傾向で年間約1万人の女性が罹患し、約2,900人の方が命を落としています。

子宮頸がん発症予防目的で接種されるHPVワクチンは世界的に普及しており、世界から遅れること数年、2013年から定期接種(積極勧奨)となりました。接種率は80%近くまで上昇しましたが、その後に副反応を否定できない多彩な症状が報告されたため、勧奨接種を控える勧告が出ました。定期接種開始2カ月後の勧告以降、接種率は激減しほぼ0%となり、この接種率が低下した年代では子宮頸がん有病率が増えてしまいました。

HPVワクチンは、B型肝炎ワクチンに次いで日本で認可されたいわゆる「がん予防ワクチン」です。HPVはおよそ200種類のタイプに分けられ、現在主流となっている9価ワクチンは子宮頸がんハイリスクタイプ9種類の感染を予防します。「たった9種類?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、このワクチンが90%以上の子宮頸がんを予防できるとされているのは驚きです。子宮頸がんの他、女性の膣がんや新生児の呼吸器乳頭腫、男女ともに外陰がん、肛門がん、中咽頭がん、尖圭コンジロームも予防できます。HPVは性感染症ですが、男性が子宮頸がんや尖圭コンジローム発症に関与しているという認識がとても薄い実情をふまえ、海外の約50カ国では男性も子宮頸がんワクチンが定期接種化されています。ワクチンは低年齢(16歳以下)接種の方が17歳以上の接種に比べがん予防効果が高いことが分かっています。また感染してしまったHPVに対しては無力であるため、感染前(性交渉前)の接種が勧められています。

ただ実際に接種するに当たり、外来では「以前、マスコミで大々的に取り上げられた副反応について心配です」という内容の質問をよく受けます。

ワクチン接種を逃しても、キャッチアップ接種が可能

その後の調査において、頭痛や倦怠感、関節痛などの有害事象の一部はストレスや不安で惹起されるストレス関連反応とされ、接種への不安や嫌悪、知識不足が影響すること、HPVワクチン以外のワクチン接種後においても同程度のストレス反応が起きていることも分かってきました。HPVワクチン成分自体と有害事象の因果関係については証明されていません。また接種前の不安軽減のためのリーフレット配布、有害事象に対応する医療機関の選定など、被接種者と保護者が安心安全に接種に臨むことができるよう対応しています。

このような取り組みが進み、女性のワクチン接種率と子宮頸がん検診受検率が向上すれば、2060年頃には子宮頸がんは排除できる可能性が示唆されています。

現在の接種プロトコールは、15歳以下でのワクチン開始では2回接種、16歳以上では3回接種を原則としています。またキャッチアップ接種といって、積極的接種が止められていた期間に接種ができなかった女性を対象に公費負担での接種ができますので、詳しくはお住いの市町村に問い合わせてみてください。接種に対し心配なことがありましたら、市町村またはかかりつけ医師に相談してみてください。

今後、子宮頸がんで悩む女性が減り、同時に男性への接種環境が整備されることを期待しています。

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