2019

09/03

多様な価値観に柔軟に対応できる職場が望ましい

  • インタビュー

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2019年に医師国家試験を受験した1万146人のうち、女性は3303人( 32.6%)。女性の合格者はちょうど3千人、合格率は90.8%で、近年医師を志す女性はおおむね増加傾向にある。しかし出産や育児と仕事の両立には、病院の体制、職員や家族の理解や協力が必要だ。女性医師の復職支援や、働きやすい職場環境の促進に取り組んでいる公益社団法人日本医師会の「女性医師支援センター」について、同会・常任理事の小玉弘之氏に伺った。

隔月刊ドクターズプラザ2019年9月号掲載

巻頭インタビュー:日本医師会・女性医師支援センター

~女性医師が働きやすい職場は、男性医師も働きやすい~

女性医師は約2割

―最初に、女性医師の現状について教えてください。女性医師は増加しているようですが、実際はどのくらいいるのでしょう。

小玉 厚生労働省が2017年末に公表した「平成28年(2016)医師・歯科医師・薬剤師調査」の結果によると、全国の届出「医師数」は31万9480人、そのうち女性医師は6万7493人で、医師数全体に占める割合は21.1%(図1)です。この調査は2年に1度行われており、前回(2014年)の調査と比較すると、全医師数で2.7%、女性医師数では6.3%増加しています。女性医師は、数、医師数全体に占める割合ともに、年々増える傾向にあります。

―性別によって、従事する診療科の違いというのはあるのでしょうか。

小玉 平成28年調査の「主たる診療科別にみた医療施設に従事する医師数」によると、全体では「内科」が最も多く、次いで、「整形外科」、「小児科」となっています。これを男女別にみると、男性は、「内科」が多く、次いで「整形外科」、「外科」となっています。一方、女性は「臨床研修医」を除くと「内科」が最も多く、次いで「小児科」、「眼科」となっています。女性医師の多い診療科は、現時点で女性が選択しやすい診療科であるといえると思います。

―勤務形態や、仕事の中断・離職の状況はいかがでしょう。

小玉 日本医師会男女共同参画委員会と日本医師会女性医師支援センターが病院に勤務する女性医師を対象に実施した「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書・クロス集計表(2017年7月に作成)」というのがあります。その調査によると、常勤が80.3%、嘱託、パート等の非常勤が15.8%、短時間正職員が3.2%、(無回答が0.6%)でした。また回答者の49%が休職、または離職の経験があると回答しています。専門科目別にみると、休職・離職の経験がある人が5割を超えているのは、精神科(58.5%)、麻酔科(57%)、眼科(54.7%)、小児科(54%)、放射線科(54%)、皮膚科(53.1%)、耳鼻咽喉科(52.9%)、逆に4割に満たないのは、外科(39.4%)、脳神経外科(37.5%)です。

休職・離職の理由(図2)として特に多いのは「出産」(76.8%)と「子育て」( 47.4%)、休職・離職の期間(図3)は「6 カ月〜1年未満」が34.3%と一番多く、次いで「1〜6カ月未満」が23.8 %、「1〜2年未満」が18.5%となっています。

女性医師バンクで復職を支援

―女性医師支援センター事業はどのような目的で開始されたのですか。

小玉 日本医師会が厚生労働省から委託を受けて、2006年度に「医師再就業支援事業」としてスタートし、2009年度に「女性医師支援センター事業」と改称して今日に至っています。先にご紹介したとおり、全医師のうち女性医師は約2割ですが、国家試験合格者では女性が3分の1を占めており、今後も女性医師は増加していくと考えられます。しかし女性医師は、出産や育児などのライフイベントにより離職せざるを得ない状況にあることから、ライフステージに応じた柔軟な勤務形態の促進やキャリア形成の支援などを行い、医師確保の対策に資することを目的としています。女性の医師が増える、女性が活躍するということは社会の要請ですし、女性医師が働きやすい環境を整備していくことは当たり前のことだと思っています。

―具体的にはどのような活動を行っていますか。

小玉 活動の中心は、2007年に開設された「日本医師会女性医師バンク」です。これは女性医師向けの職業紹介システムで、休職中の女性医師、また女性医師の採用を希望する医療機関に登録していただき、医師の就業希望条件に合う医療機関を紹介して、就業までの支援を行っています。日本全国どこからでも、また日本医師会員でない方でも登録することができ、登録料や紹介手数料等の費用はかかりません。専任コーディネーターが、求職者一人一人の状況に合わせて完全オーダーメイドで就業先をご紹介しますし、医師のアドバイザーが専門的な相談にも対応します。医療は日進月歩なので、離職期間が長くて心配な方には、再研修が可能な施設もご紹介して、スムーズに仕事に戻れるようサポートしています。運営にあたっては、日本医師会館内にデータベース管理や運営に関わる諸問題に対処する中央センターを設置し、具体的な職業紹介に関する相談窓口として、東日本センター、西日本センターを置いています。

―女性医師バンクはどのくらい利用されているのですか。

小玉 2019年3月末日の運用状況は、就業支援件数が462件、求人登録施設数が521施設(累計4876施設)、就業実績が204件(累計882件)です。6月末までの求職登録者数累計は1341人です。各女性医師にそれぞれの事情がありますし、医療機関の規模や地域によって状況も異なりますから、支援の内容は非常に多様性が高いです。勤務時間や日数、当直の有無などは、コーディネーターが施設と交渉することもでき、就業後の相談にも対応しているので、皆さんご希望の条件で復職されています。

―女性医師バンク以外ではどのような活動がありますか。

小玉 われわれの事業は女性医師バンクからスタートしましたが、事業の範囲は広がっています。例えば、女性医師が生涯にわたって能力を発揮するためには、男女共同参画やワークライフバランスについて、性別を問わず早期から理解を深めることが重要であるため「医学生、研修医等をサポートするための会」などの啓発活動を各地で開催したり、勤務環境の整備を担う「病院長、病院開設者・管理者への講習会」を行ったり、「女性医師支援シンポジウム」を開催したりしています。育児支援として、医師会主催の講習会等に参加しやすいよう、託児サービス併設の促進、費用補助も行っています。日本医師会でも、女性医師センターが手掛けた調査の結果から抽出される課題を解決するために、政府に働き掛けるなどの取り組みをしています。

スタートラインは公平でなければならない

―女性医師の勤務環境について、変化はみられますか。

小玉 日本医師会男女共同参画委員会と女性医師支援センターが行った「女性医師の勤務環境の現況に関する調査」について、2009年と2017年の調査結果を比較した報告書があります。それによると、例えば「子育て中の女性医師の割合」(末子が学童以下)は(図4)、2009年調査では30.2%でしたが、2017年調査では37・6%です。育児休業の取得状況は、乳児子育て中(図5)に取得した方は2009年調査が61.5%、2017年調査が79.4%、同様に幼児子育て中(図6)に取得した方はそれぞれ53.6%、75.9%となっています。

これらの数字から、子育てと両立する人が増加していることが分かります。それは病院側の体制や理解だけでなく、配偶者や女性医師本人の考えも変化しているということだと思います。女性医師が働きやすい職場は、男性医師にとっても非常に働きやすい職場ですから、女性のためということではなく職場全体の問題として考えていかなければいけないでしょう。最近では、女性医師から「そろそろ『女性』と区別しなくてもいいのではないか」という声も聞かれるようになりました。

―しかし女性特有のライフイベントがあるのも事実です。

小玉 医師は、ある時期一生懸命仕事をしないと、一生涯の財産となるいわゆる基礎財産を形成できない可能性があります。その時期は非常に大事なのですが、女性医師の場合はちょうどライフイベントの時期と重なってしまうので、どう柔軟に対応していくかが重要です。大前提として、医師になるための教育の機会や、医師としてスタートラインに立つことに、性別による差別があってはなりません。逆に医師を志す人は、求められることに性別は関係ありませんから、しっかり自覚を持たなければいけないでしょう。

一方で女性には女性ならではの特徴があるように、男性にも男性としての特徴があります。女性、男性それぞれの特徴、強みを活かすことがまず大切で、それを排除するのでは男女共同参画の理念にそぐわないと思います。医師が、エキスパートか、臨床か、あるいは起業するかなどを選択するように、子育てや介護をどのようにしていくかも選択の一つです。女性医師の配偶者には男性医師が多いのですが、そういったカップルには、男性が中心になって子育てをするというケースもでてきていますし、多様な価値観に柔軟に対応できる職場が最も望ましいと考えています。

―今回のインタビューのテーマから外れますが、どこの職場でも男女の問題だけでなく、年代によっても考え方が違うという話を聞きます。医療業界も世代間による働き方に対する考え方のギャップはありますか?

小玉 ある県において、勤務医を対象とした「医師の働き方改革」についての調査があります。その調査結果の中で、まさに年代ギャップが如実に現れています。「365日、24時間働けますか」の成長期の名残りがある世代といわゆる成熟期世代のギャップと考えています。その時代、時代にマッチした医師の在り方があっても良いと考えています。しかしながら、社会が医師に求めるものは時代によって変わるものではないと思います。それをどの様に受け止めるか、医師として自己形成をする中で、個人個人が考えていかなければなりません。当然、医師も人間ですので、医師として成長する中で自己形成がなされることもあるでしょう。その意味において、ある程度の時間、社会が温かい目でみて頂くことも必要だと思います。

―最後に、女性医師支援センターの今後の活動についてお聞かせください。

小玉 これまでの各活動を踏襲しながら、女性医師バンク事業については、コーディネート体制の強化、都道府県医師会や大学、学会等との連携強化を図っていきたいと思っています。また全国の女性医師支援に関する取り組み事例の収集、情報提供体制も検討していきたいと考えています。女性医師に対する支援はこれからも様変わりしていくと考えています。仕事と家庭の両立に関して、女性も男性も意識が変化してきていますし、AIやICTの進歩により、医療の在り方が大きく変わる可能性もあります。医療機関もそういった社会の要請、ニーズの変化に対応していかなければなりませんし、女性医師支援センターも変わることを求められる時期がくるのではないかと思います。

 

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