2024

10/08

地方病院が求められる医療ニーズとは?

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
北海道社会事業協会 岩内病院 院長

地域医療・北海道(54)

コロナ禍という異常事態で見えてきた医療ニーズ

コロナ禍が終わり、公的病院を含めた当院のような地方病院では、多くの場合、入院・外来患者共に著しく減少しています。当院でも、入院患者さんは、コロナ禍前の3分2程度になっています(不思議なことに、当院では、外来の患者さんは増加していますが……)。これは、今まで病院に来ていた患者層が変化したわけではなく、通院や入院の不要な患者さんが病院に来なくなったということだと考えられます。元々不要な医療ニーズがコロナ禍という異常事態であらわになり淘汰された結果、全国で入院・外来患者共に本当に必要な医療にニーズのみに絞られたということです。ただし、本当に必要な医療ニーズに絞られたのは、以前と同じ患者層の中だけだと思っています。

当院の医療圏で入院・外来患者層というのは、コロナ禍前後では変化していません。

定期的に当院へ通院している患者層の多くは「仕事をしているけれど定期的に通院可能な患者さん」と「仕事をしていない通院可能な患者さん」の2つに分けられます。そして、「仕事をしているけど定期的に通院可能な患者さん」には、下記の通り3つ(①~③)のパターンの患者さんが考えられます。また、「仕事をしていない通院可能な患者さん」には、同4つ(①~④)のパターンの患者さんが考えられます。

1.仕事をしているけれど定期的に通院可能な患者さん

①平日の日中、フルタイムで仕事をしているが、通院のための時間を作れる
②フルタイムで仕事しているが平日に休みが取れるもしくは元々平日が休み
③仕事がフルタイムではない

2.仕事をしていない通院可能な患者さん

①専業主婦(主夫)
②就学年齢であるが学校に行ってない
③仕事をしていない年金生活者である
④仕事をしていない生活保護者である

当院のような地方病院の場合は、上記2つのような患者さんが通院患者さんの多くを占めています。

では、当院の医療圏において、住民全体で考えると必要な医療ニーズに(検診などの予防医療のニーズも含めて)当院が十分に応えられているかは疑問です。2023年10月のコラムで、「当院の医療圏ではがん検診の検診率が著しく低い」と書きました。昔から、せっせと病院やクリニックに通院している患者層(当院だとほとんどが高齢者)とは異なり、定期的に病院に通院できない、通院しづらい患者層は、コロナ禍前からコロナ禍後の現在まで、積極的には病院に来るようになっていません。病院に来ていなかった患者さんに来てもらうようにするにはどうしたら良いか? “必要な医療を受けられていない患者さん”の医療ニーズにしっかり応えられるようにするにはどうしたら良いか?

それを考えなければならないと思います。

通常の夜間診療を試験的に開始

それでは、当院のような地方の医療圏で病院にかかれない、もしくは、かかりにくい患者層とはどういう患者層でしょうか(多分、都会とはだいぶ違う患者層だと思います)。

下記のように「フルタイムで働き、通院の時間が作れない、作りにくい患者さん」と「決まった休日がない個人事業主の患者さん」の2つに分けることできると思います。

1.月曜日から金曜日迄フルタイムで働き、通院の時間がつくれない、もしくはつくりにくい患者さん

・昼休みなどに気楽に病院へ行けない(行きにくい)環境の事業所の患者さん

例えば、当院の医療圏で一番大きな事業所は、泊村の泊原子力発電所です。ここには、電力会社の社員、協力会社の社員、そして、防潮堤の工事を請け負っているJ Vなどの土木建築会社が事業所として入っています。知っている方もいると思いますが、原子力発電所の出入りは非常に厳重で、定期的に通院するために昼休みを利用したり、(日中の)数時間、有給休暇を取ったりすることがしにくい事業所です。

このような事業所で働いている職員が定期的に通院するためには、しっかり休みを取ることが必須です。しかし、そのようなことができないために定期の通院ができなかったり、職員健診の結果が悪くても、2次検診に行くのをためらったりする要因となっています。

2.決まった休日がない個人事業主の患者さん

・農業や漁業などの1次産業従事者など

当院のような医療圏では、繁忙期には休みが取れない1次産業に従事する個人事業主(農家さんや漁師さん)も多くいます。彼らが繁忙期に休むことは1年分の収入を減らしてしまう要因になりかねないので、よほどのことがない限り日中は通院の時間が取れません。結果、手遅れになるまで放置されている患者さんが少なからず存在します。

上記のような日中、“病院に来られない”、“来にくい”患者さんの医療ニーズに応えるためにはどうしたら良いのか? それは、簡単です。日中以外に病院を開ければ良いのです。当院では、日中に働かなきゃならない患者さん、日中、安易に職場を抜け出すことができない患者さん、そもそも日中休みがない患者さんのニーズに応えるべく、8月末より、まず毎週木曜日に夜間診療を開始しました。救急では無く、通常の診療を夜間にする夜間診療です。試験的な運用ですが、日中働く患者層のニーズを掘り下げていこうと考えています。

フォントサイズ-+=