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地域の保険医療支援から、学びの場へ。日本と共通点多く、交流も盛んなベトナム

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国立研究開発法人国立国際医療研究センター(以下、NCGM)、国際医療協力局人材開発部 研修課の土井正彦看護師は、海外の保健医療支援のプロジェクトに携わり、現在は地域保健に関する研修や、民間企業向けの視察などを率いている。特に関わりの深いベトナムでの活動を中心に、海外での経験や活動の変遷について伺った。
ドクターズプラザ2020年5月号掲載

海外で活躍する医療者たち(29)/国立国際医療研究センター

公衆衛生の大切さを実感

――土井さんは、なぜ看護師になったのですか。

土井 私は、実は保健師になりたいと思っていました。大学で社会福祉などを学ぶ中で、地域住民の生活を支えている保健師の仕事は素晴らしいと思ったからです。しかし、当時の日本の法律では「保健婦」のみで男性は認められておらず、看護学校に進みました。現在は男女を問わず「看護師」ですが、その当時は「看護婦」「看護士」と性別によって使い分けられていましたから、私は「看護士」になったのです。
看護学校を卒業後、約4年間病院に勤務し、病棟で仕事をしました。当時、男性看護師には力仕事などが求められることが多く、手術室や救急病棟、精神科など働く場も偏っていました。一方で、男性看護師なりの関わり方は一般病棟でも必要だろうという流れもあり、私は脳外科と泌尿器科に勤務しました。

――その頃は、男性の看護師はかなり少なかったのではないかと思います。

土井 そうですね。今では一般的になりましたが、当時は医師と勘違いされる患者さんも多く、よく「先生」と呼ばれました。ナースコールで患者さんのところに行くと「あなたじゃない」と言われることも度々ありましたね。

――海外での活動に興味を持ったきっかけは。

土井 大学生のころに、バックパッカーとして海外に出掛けていたので、もともと興味はあったのだと思います。看護師になってからは、資格を活かして海外で活動してみたいと思い、国際協力を行っている団体などを調べました。最初のきっかけになったのは青年海外協力隊で、看護師になって4年目にパナマに2年間行きました。パナマでは、地域の保健センターで看護師として活動しました。これはまさに、当初私が保健師として関わりたいと思っていた活動で、そういう意味で夢が叶ったのが青年海外協力隊でした。

――実際海外で仕事をしてみて、いかがでしたか。

土井 地域住民の一人として生活しながら保健センターで働く中で実感したのは、病気やけがの患者さんを診療、治療するだけでなく、人々が健康に生活していけるような支援、例えば予防接種、妊産婦や子どもの検診など、公衆衛生の活動もとても重要だということです。それまでは病院でしか働いたことがありませんでしたが、もっといろいろなことを知り、勉強する必要があると思いましたし、同時にとてもやりがいのある仕事だと感じました。このときの思いが、今につながっているのだと思います。

ホンジュラス、中国、ベトナムで地域医療の活動

――その後、NCGMに入られたわけですね。

土井 はい。青年海外協力隊から戻った後、いろいろ調べていく中で、NCGMが国際協力も行っていることを知りました。1999年9月にこちらの病院に就職し、4年弱の間、病棟に勤務しながら、国際協力に関する研修などの機会があれば参加しました。その後国際医療協力局に異動になり、まず中米のホンジュラスに派遣されました。

――ホンジュラスでは、どのようなプロジェクトが実施されたのですか。

土井 この時期は、世界各国で感染症対策や母子保健対策に関わる活動が増加していた時期で、ホンジュラスでは、2000年から5年間、「リプロダクティブヘルス向上プロジェクト」が実施されました。私は2002年から2年半赴任し、母子保健に関するシステム作りや研修を通じた、県の保健医療行政の支援や、普及・啓発活動などに携わりました。例えば患者さんや地域の人たちが、自分の課題を認識し、自分たちで解決できるように手助けするカウンセリングの活動も一つです。課題を抱えた人たちが、自分たちの持っている力を活かせるように気付きを促すということは、まさに看護師の役割でもあります。また看護師は、日頃からいろいろな人たちと連携して仕事をしていますから、医療スタッフや専門家、現地の方々などと連携した活動にも、看護師としての経験が活かせると思いました。

――ホンジュラスのプロジェクトの後は。

土井 中国の感染症予防、特に予防接種のシステムを作っていくプロジェクトでした。予防接種は主に幼稚園から小学生の間に行いますので、保健医療側だけではなく、教育側の理解や協力も必要です。そこで、学校の先生方にも研修を実施したり、保健医療行政と教育が連携する仕組みを作ったりしました。ほぼ同時期に、ベトナムの地域医療向上のプロジェクトにも関わっていました。地方の省(日本の県に相当)に日本のODAで病院を建てて技術協力をし、保健医療行政と病院の連携、病院の縦、横の繋がりによって保健医療サービスを向上させるというもので、2004年から2009年まで行われました。さらにこのプロジェクトをもとに、別の省に活動を展開するプロジェクトも2013年から2017年にかけて実施され、私はこちらにも参加しました。

ベトナムの成果を学生に、民間に

――現在も、ベトナムとの関わりが深いと伺っています。

土井 はい。ずっとベトナム関連の事業に携わっています。一つは、若手の医師や看護師、地域保健を学びたい、今後関わっていきたいという方のための勉強の場として、ベトナムで行う研修です。先にお話ししたプロジェクトの成果を、ベトナムだけで終わらせてしまうのはもったいないですよね。NCGMで現地の視察や研修の機会を作り、10年ほど続けています。さらに、民間企業の方々による視察も行っています。今年の2月に実施した視察で3回目になりますが、今回は東京都の事業である「現地ニーズを踏まえた海外向け医療機器開発支援」(SMEDO)として、医療機器の開発や販売に携わっている企業の7社の方々と一緒に、ベトナムの医療機関や団体等を訪問しました。

――民間企業による視察は、どのような目的で行われているのですか。

土井 日本の優れた医療技術やサービスを世界にも提供していこうという国の方針がありますが、単に日本のODAとして提供するだけでなく、日本にとっても得るものがあるような関係、つまりビジネスとなるようにしていこうというのが現在の方向性です。そこで、実際に企業の方々がベトナムの医療事情を見たり、ニーズを理解したりすることで、何らかのアイデアの種としていただくことが目的です。例えば日本の医療機器の品質が非常に良いことは、ベトナムの方もよくご存知ですが、他の先進国も優秀な機器を作っていますし、最近では中国や韓国も優秀で安価な機器を作るようになっています。そういう中で選ばれるためには、スペックや使い方、価格などを総合的に考えなければなりません。

また、高品質な機器があるだけでなく、使いこなすための教育、電気等のインフラなど、一つの機器を使うにはいろいろなシステムも必要です。例えば、ホコリが多い環境の場合もありますし、電気が不安定な地域もあります。部品の交換が必要になっても、すぐに手に入らないかもしれません。そういった日本とは異なる環境、状況を知っていただくことで、より使いやすく、安定的に稼働させられるアイデアに活かしていただきたいと考えています。さらに、ベトナムに進出している日系企業でお話を聞いたり、工場を見学したりすることで、今後の海外進出や生産の仕方など、経営の判断材料にしていただくこともできます。現に1回目の視察に参加した企業の中には、新たな機器を開発してベトナムに進出し、それを足がかりに他の国への展開を考えている企業もありますし、逆に日本国内で生産するという方針で開発に取り組んでいる企業もあります。

――現在はどのようなことに携わっていますか。

土井 民間企業との活動を続けながら、もう一方ではベトナムにおける医療の質向上や安全といったテーマにも取り組んでおり、研修やフォーラムを開催しています。ですから、ベトナムには毎月1〜2週間行っていますね。

――長い間ベトナムを見てきて、どんなことを感じていますか。

土井 おそらく多くの方がベトナムについて感じているように、すごく発展してきていると思いますね。同時に、ベトナムの方々は日本を一つの目標にしていて、多くのベトナム人が日本に来ています。日本とベトナムの関係は、経済だけでなく、人材も含めて交流がものすごく盛んになっていると思います。またベトナムはお米の国、お箸の国で、日本とも共通するところがあります。フォーや春巻きなど日本でもよく知られている料理も、フランスパンもおいしいので、食事に困ることはありません。比較的治安もよく、日本からも近い。初めてベトナム赴任が決まったときには、上司から「ベトナムは専門家の天国」と言われましたが、本当にそう思います。田舎に行くと、昔の日本のような風景も見られます。ベトナムの地方に工場を作った方に、そこを選んだ理由を聞くと、「本社のある土地にそっくりだから」とおっしゃっていました。

――今後はどのような活動を。

土井 私がベトナムのプロジェクトに参加する以前から関わってきた先輩がいらしたように、私の次に続く人たちもいますから、当面は若手と一緒にベトナムに関する活動を続けていくことになると思います。その中で、新たに取り組むべきテーマが出てくる可能性もありますし、他の国に展開するということもあるかもしれません。

――最後に国際協力に興味を持っている人たちに、メッセージをお願いします。

土井 関心のある方は、まず行ってみるといいと思います。私が関わってきたプロジェクトでも学生の受け入れをしていましたし、ベトナムのいくつかの地域は、学生の学びの場ともなっています。実際に、見たり体験したりすることで、海外で活動していきたいのか、他の選択をしたいのかも分かってくると思います。

民間企業とのベトナム視察

ベトナム社会主義共和国
●面積/32万9,241㎢
●人口/約9,467万人
●首都/ハノイ
●民族/キン族(越人)約86%
他に53の少数民族
●言語/ベトナム語
●宗教/仏教、カトリック、カオダイ教他
(令和元年9月6日時点/ 外務省ホームページより)

ドクターズプラザ2020年5月号掲載

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