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在宅医療の目的

小黒 佳世子
『薬剤師のお仕事』『小黒先生の薬の話Q&A』連載
株式会社メディカル・プロフィックス取締役、株式会社ファーマ・プラス取締役、一般社団法人保険薬局経営者連合会 副会長
ドクターズプラザ2020年1月号掲載

薬剤師のお仕事(6)

患者さんの生活を維持することも重要な役割の一つ

病院と在宅では医療の目的が異なる場合があります。病院では病気を治すために行われる医療も、在宅医療では、現在の病状を維持したり、今ある機能を上手に使い続けたりすることも医療の重要な要素となります。私は今年の4月に、ある薬剤師からの依頼で在宅では極めて稀な症例に関わることになりました。その薬剤師Nさんとの出会いは、私が講演を依頼された研修会から始まりました。私の薬局には無菌調剤が可能なクリーンベンチを備えており、在宅で輸液が必要な患者さんや、がんの疼痛コントロールのための医療用麻薬注射薬の調整で毎日のように稼働しております。医療用麻薬注射薬による疼痛コントロールでは注射薬の細かい流量設定が患者さんのADL維持の上でも重要であると考えており、当社ではそれを目的とした、携帯型精密輸液ポンプのレンタル業も行って、薬剤師から医師に積極的に医療用麻薬の用量調節のご提案を行っています。研修会ではその話をご紹介し、この携帯型精密輸液ポンプは心不全の治療においても応用できるのではないかとお話し致しました。その話が病院薬剤師のNさんの心に留まったのです。

Nさんは、研修会終了後に私のところへ名刺交換にお越しになり「頼みたい患者さんがいます。医師と相談して了解が得られたらご連絡してもいいですか?」とおっしゃいました。そして私はそれから何回か病院に足を運ぶことになりました。

その患者さんは重症の心不全で、除細動機付きのペースメーカーを埋め込んでおり、さらに僧帽弁の閉鎖不全もありますが手術を望まず、入退院を繰り返していました。昨年冬からは心不全の悪化で長期入院となり、ドブタミン注射を点滴すると改善するものの、中止すると悪化するということを繰り返しながら退院できず入院期間は半年を超えていました。孫が庭で遊んでいる姿を見ながら静かに自宅で過ごしたいと退院を希望し、心不全の悪化や突然死を覚悟の上で点滴を中止して退院するか、何とか点滴を継続する方法がないか、病院内で検討を重ねていたようです。

入院中は1㎎/㎖に希釈したドブタミンを右上腕に造設したポートから1時間9㎖で点滴していたそうで、在宅で継続する方法として在宅の中心静脈栄養法でよく使用されるポンプも試されたそうです。しかし流量精度が1時間当たり10%の誤差があること、このままの濃度では3日ごとに交換したとしても最大で約700g程度の輸液を持ち歩かなくてはならず、手詰まりになっていたそうです。

携帯型精密輸液ポンプでは、0.1㎖単位で流量が設定でき、誤差も少なくなっています。ドブタミンは600㎎/200㎖のキット製剤があり、それを1時間3㎖で点滴すれば今までと同様の効果が期待できるのではないかと病院薬剤師のNさんから提案がありました。私はそれを実際に在宅で使用できるかどうか、病院内で試してもらったり、在宅医や訪問看護師に説明したり、入浴時の対応を考えたりしました。注射薬の交換サイクルも考慮し、キット製剤3キットを2個のバックに薬局のクリーンベンチで詰め替えて、週2回交換するというサイクルをご提案しました。

医薬品の使用方法だけでなく、それにかかるコストの問題もありました。在宅医療では、このような携帯型精密輸液ポンプのレンタル料金は、往診医のがん終末期に関する医療保険の加算の中で賄われますが、心不全による使用は適応外です。ポンプのレンタル料、ポート用の針、携帯型精密輸液ポンプ用のルート、その他の医療材料などのコストは1カ月当たり2万円を超えます。この患者さんの場合には、息子さんが全て負担してでも退院させたいというご家族の強いご希望もあって自費で対処することとなりました。医師からは厳格な塩分制限のため食事は全て塩分制限食の配食サービスを利用するようにという条件があり、私からは当薬局の管理栄養士の在宅での介入もご提案しました。

また再入院も考慮に入れて、在宅医療の日常を病院スタッフの皆さまも見守れるように、情報共有のSNSでグループを作り、病院スタッフと在宅医療に関わるケアマネ、往診医、訪問看護師、管理栄養士、薬剤師などのそれぞれの書き込みを一度に全員が共有できるようにしました。

退院後、しばらくはおそるおそるだった日常生活も、ご家族との生活の中で徐々に体力を付けて、心不全の悪化なく体重も徐々に増えながら半年が経過しています。これまで半年近くの間には、ポートトラブルで2回ほど数日程度の入院もしましたが、病院関係者も在宅医療におけるカテコラミンの持続点滴が、このような患者さんの生活を維持できる可能性を感じています。何よりも、病院の医療チームと在宅の多職種のチームが協力して患者を支えていること、患者さんご自身もその一員の一人として自覚し、自ら努力していることが成功につながっていると感じています。今後の在宅での心不全治療における制度を変えるきっかけにもなるのではないかと期待し、今後も見守りながら関わっていきたいと思っております。

ドクターズプラザ2020年1月号掲載

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