2017

09/15

医療と介護両方の セーフティーネット 中小病院の役割その1

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
『地域医療・北海道』
社会福祉法人北海道社会事業協会小樽病院

ドクターズプラザ2017年9月号掲載

地域医療・北海道(28)

医療者業務の主体は患者のニーズに応えること

前回は中小病院の立ち位置について総論的な話を書きました。今回はさらに踏み込んで、どうあるべきかお伝えしたいと思います。

日本の医療施設は、国民皆保険に基づいた診療報酬制度というものにほとんどの場合は縛られています。昨今の診療報酬は中小病院にとって厳しい制度になっていて、2年おきの改定の度にさらに経営が厳しくなっていくのが常になっています。そこで私は、中小病院は診療報酬制度に盲目的に流されないことが必要と考えています。診療報酬制度の最大の目的は、医療費の削減です。そのため制度に乗っかり踊らされると、最終的には病院で行う医療行為そのものの絶対数が減ります。すなわち患者に向かう医療サービスが減少します。医療サービス削減の方向を最終的に向いている診療報酬制度には乗っかり過ぎない、目の前にぶら下がった甘いニンジンに惑わされないことが大事です。あくまでも私たち医療者業務の主体は、患者のニーズに応えることです。病院に担わされているニーズを見誤り盲目的に制度を追いかけると、その先には最悪医療機関の消滅が現実となってきます。

全ての病院、医療従事者の使命はよりたくさんの患者さんを診察し、治療することです。いろんな理由をつけて患者さんが来ないように診察を受けないようにすること、なるべく医療行為を行わないようにすること、元来それはやってはいけないことです。病院での診察治療が必要な全ての患者に行き渡るようにするには、ある程度不必要な診療が行われることも仕方ありません。医療はセーフティーネットですから。セーフティーネットの網の目を細かくするとたくさんの人が助かりますが、不
要な診療を受ける人もネットにかかります。網の目を荒くすると不要な医療行為は減りますが、助けなければならない人もすり抜けて必要な医療を受けられないことになります。どっちが良いか、分かりますよね? セーフティーネットで全員を助けようとすると網の目は細かくせざるを得ません。

介護施設と強い連携を持ち、セーフティーネットとして役割を果たす

私の勤務する小樽協会病院のような地方の中小病院は、大病院と開業医の間で医療のセーフティーネットであるべきだと考えます。また、さらに広げて介護福祉のセーフティーネットでもあるべきだと考えます。具体的には、三次救急を担うような大病院や開業医、介護施設で受け入れてもらえない患者、その上在宅が厳しい患者をどう受け入れていくかということです。大病院を追いかけずに地方の医療ニーズをしっかり見極めサービスを提供すること、医療難民・介護難民の受け皿となるような体制をつくっていくこと、現段階では特に特定の医療施設と直接関わりのないグループホームなどの介護施設と強い連携を持ち、困ったらすぐ診察出来るようにしておくことが大切だと思います。

小樽協会病院のある小樽市は、高齢者の割合が全国でもトップクラスに多い市なので、他の地域に先駆けて数年後には介護難民・医療難民が急増すると考えます。しかし、この急増に備えての準備は当院を含めて遅れている、もしくは準備すらしていないのが現実でしょう。

診療報酬制度を含めた社会の潮流に流されて、介護難民・医療難民を切り捨てるのか、予想される介護ニーズ・医療ニーズに応えて周到に準備しセーフティーネットとして名乗りを上げるのか。当院のような中小の地方病院の役割は、後者になることだと思います。中小の地方病院で求められているのは専門的な医療ばかりではありません。小樽協会病院では今後ますます、地方の住民が自分たちでも気付かない医療ニーズ・介護ニーズを掘り起こし、泥臭く地方のセーフティーネットとしても役立てるようにしていくのが必要だと考えています。

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