2014

05/21

再興する性感染症

  • 感染症

  • null

内藤 博敬
静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科/大学院食品栄養環境科学研究院、助教。静岡理工科大学、非常勤講師。湘南看護専門学校、非常勤講師。

ドクターズプラザ2014年5月号掲載

微生物・感染症講座(40)

若年層で増加する梅毒

はじめに

年度が明けて間もなく、平成25年の梅毒患者数が前年から1.4倍増加し、1226名に達した事が国立感染症研究所から報告されました(参考)。現在の統計法が用いられるようになった平成12年以降、梅毒患者数が1000名を超えたことは初めてで、今後更なる増加が懸念されています。かつては四大性病の一つとして恐れられた梅毒ですが、近年ではエイズ、クラミジアや尖圭コンジロームなど性感染症の種類も増加し、注目されることも少なくなってきていました。今回はこの梅毒について紹介しながら、近年増加する原因を探ってみましょう。

梅毒の伝播は15世紀!?

梅毒の原因となる微生物は、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidamsubsp. Pallidam)と呼ばれる細菌です。球菌や桿菌の多くは1㎛程度ですが、梅毒トレポネーマは直径こそ0.2 と細いものの、菌体をらせん状に約10 ほど巻いた細長い細菌です。乾燥、熱、消毒薬などに弱いため空気感染や経口感染することはなく、感染経路は性行為などの接触感染が主で、この他に輸血と母児感染が知られています。性交の際に小さな傷口から菌が侵入して感染し、血液を介して全身に広がります。感染後10日〜30日の潜伏期間を経て菌の侵入箇所に硬いイボ(硬性下疳)ができ、リンパ節が腫れる第1期へと進行します。その後しばらく(2〜12週間程度)は無症状となりますが、全身へと広がった梅毒トレポネーマは、皮膚や粘膜の発疹(バラ疹)や骨・関節で梅毒性の変化をもたらす第2期へと進みます。第2期の症状は無治療でもおよそ1カ月で消失しますが、梅毒トレポネーマが体内から消えることは無く、数年から10年の後期潜伏期を経て、皮膚の潰瘍やゴムのような腫瘍(ゴム腫)が現れる第3期へと進行し、さらに多くの臓器に腫瘍ができ、中枢神経がおかされて脳梅(脊髄癆)や進行性麻痺を起こす第4期(変性梅毒)へと進行します。

梅毒の治療はペニシリンやドキシサイクリンなどの抗生物質が非常に有効で、現在のところ薬剤耐性を獲得した菌は見つかっていません。抗生物質が発見された20世紀中頃までは治療法が無く、日本でも遊郭や遊女に関する書物や文献の中にも梅毒のことが記されています。日本に梅毒が伝わった経緯や時期は定かではありませんが、梅毒が世界中に広まった時期はコロンブスのアメリカ大陸発見の時期でもあり、コロンブスがアメリカからヨーロッパへ持ち帰ったとする仮説が有力とされています。

梅毒の感染増加は男性間性的接触が要因!?

抗生物質が発見されて以降、先進国では梅毒罹患率が減少傾向にあり、日本でも梅毒は“過去の病気”と感じている方がほとんどでしょう。しかし、2012年のCDC(アメリカ疾病予防管理センター)などの調査報告によれば、近年の欧米では男性間で性的関係のある男性を中心に梅毒の感染が拡大しているとのことです。冒頭の国立感染症研究所からの調査結果でも、2013年の日本における梅毒の発生動向については8割以上が男性と報告されています。そのうち9割近くが性的接触によるもので、異性間性的接触に比べて同性間性的接触で感染した方が1.4倍ほど多く、2011年以降は日本においても梅毒の男性同性間性的接触感染が異性間性的接触感染を上回っています。また、梅毒の男性感染者の年齢では20〜30代が多くなっているものの、異性間性的接触での感染が主とされる「クラミジア」や「淋病」(*1)は増加しておらず、梅毒の男性同性間性的接触感染の急増が懸念されています。

もちろん、男性間のみならず異性間での性的接触でも注意は必要です。梅毒を完全に予防する方法はありませんが、性感染症は性行為の際にコンドームを用いることで予防効果を高められます。前述のように梅毒には抗生物質が有効ですが、診断が遅れれば後遺症が残ることもありますし、妊娠中の母体への感染は死産や先天梅毒の原因となります。大切なパートナーと共にしっかりと予防することを心掛けましょう。

*1「クラミジア」はChlamydia trachomatisを原因とした感染症で、血清型によって結膜炎、性病性リンパ肉芽腫、尿道炎・頸管炎を起こすタイプに分かれる。「淋病」はNeisseria gonorrhoeaeを原因とした感染症で、男性では急性尿道炎、では尿道炎、膣炎、子宮頸管炎を引き起こす。

(参考)(1)増加しつつある梅毒―感染症発生動向調査からみた梅毒の動向―、国立感染症研究所、病原微生物検出情報 Vol.35, p.79-80