2022

10/07

保健室ってどんな場所(2)「学校に保健室がある理由」

  • 保健

内山 有子
東洋大学ライフデザイン学部健康スポーツ学科

1.学校に保健室がある理由

現在、日本のほぼ全ての小・中・高等学校に保健室があります。その理由は、前回もお話ししたように学校教育法施行規則第一条に「学校には、その学校の目的を実現するために必要な校地、校舎、校具、運動場、図書館又は図書室、保健室その他の設備を設けなければならない」と明記されているからです。ではその保健室は具体的にどのようなことをするまたはできる場所なのでしょうか?

学校保健安全法第七条に「学校には、健康診断、健康相談、保健指導、救急処置その他の保健に関する措置を行うため、保健室を設けるものとする」という一文があります。保健室は「ケガをしたり体調不良になったりした子どもに対応する場所」という印象が強いと思いますが、それ以外にもアレルギーや慢性疾患がある子どもの健康管理、心身の悩みに対する健康相談、ケガや病気などが発生しないための保健指導など学校における健康の保持増進の中核的な役割を担っている重要な場所として、設置が義務付けられています。

2.保健室の位置・設備・備品

では、保健室は学校のどこにあるのでしょう? この点については明確なルールはありません。しかし、保健室の位置として「学校のどの場所からも同じように行けるように学校の中央に位置し、トイレ、職員室、体育館、グラウンド等になるべく近い」「南に面し、風通しや採光がよく、静かな場所であること」「救急車やレントゲン車などが容易に近接できる位置」などが望ましいといわれています(※1)。

保健室には体調不良者に使用するベッドやついたて、長いす、薬品棚、体温計、氷枕などとともに、健康管理に使用する身長計や体重計、環境衛生検査に使用する温度計や水質検査用器具などさまざまな備品が用意されています。また、冷蔵庫や製氷機、洗濯機などとともに、最近では保健室にシャワーを設置する学校も増えてきました。

また、保健室に来室する子どもがよく「薬をください」と訴えますが、保健室は医療施設ではないため、治療をするために医療器具や市販薬は原則的には置いていません。この理由は保健室は器具や薬を使用しない応急手当や一時的な休養をする場所で、養護教諭は医療従事者ではなく教育職員であることによります。よって、体調不良等で保健室に来室する子どもに休養が必要と判断した場合は、ベッドや長いすで1時間程度休ませたのち「教室復帰」「再来室を指示」「帰宅」などの判断を行い、長時間の滞在は認めていません。「寝不足だから寝かせて」とか「暑いから休ませて」という理由で保健室に来る子どもがいますが、その場合は「本当にさぼりたいだけなのか?」「実は何か問題を抱えているのか?」など、来室した背景にある状況(いじめ・発達・家庭環境など)を丁寧に確認して、その子にとって必要な指導を行っています。

3. 保健室と外部機関や家庭との連携

近年、私たちが暮らす社会環境や社会情勢は大きく変化しており、それらの影響を受け子どもの健康課題もますます複雑になってきています。「保健室登校」「不登校」「いじめ」「虐待」「自殺」などのキーワードが取り上げられ、学校だけで解決することが難しい問題も散見するようになりました。このような多様化した子どもの心身の健康課題を解決するために保健室が「子どもの避難場所」となり、学校と家庭、学校と専門機関をつなぐ役割を担うようになっています。

精神的問題を抱える子どもにはスクールカウンセラーや地域の医療機関と連携して一緒に解決策を考えたり、貧困や虐待などの問題ではスクールソーシャルワーカーや市区町村と連携して福祉制度につなげたりなど、保健室が中心となってさまざまな角度からの連携を図ることにより、良い方向へ向かっていったケースが多々見られます。

また、2020年以降は新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止が学校の最重要課題となっています。学校では文部科学省の「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」2)に基づいた対応を実施していますが、出席停止や治療、予防接種に関することなど家庭との情報共有などが必要不可欠です。クラスと家庭をつなぐ役割として養護教諭という学校保健の専門家が配属されている保健室の存在が、全国で再確認されていると実感しています。

※1 文部科学省「小学校施設整備指針」令和4年6月

※2 文部科学省「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~(4.1Ver.8)」令和4年4月

—————————————————————————————————————————

スキルラダー研究会の概要

ウェブサイト https://skill-ladder.com/

・団体名:SLIPER(すりっぱ)

Skill Ladder for Improvement and Evaluation Running of School Health Nursing

・理念:養護教諭の能力育成を追及すると同時に、子どもやその家族、さらにその地域で暮らす人々の健康に貢献すること

・メンバー:

荒木田美香子 [ 川崎市立看護短期大学 ]

内山 有子   [ 東洋大学]

加藤 恵美 [ 静岡市立清水船越小学校 ]

齋藤 朱美 [ 東京都立深川高等学校]

芝 裕介 [ 宮崎県立日南くろしお支援学校 ]

高橋 佐和子 [ 神奈川県立保健福祉大学 ]

中村 富美子 [ 静岡県沼津市立大岡中学校 ]

フォントサイズ-+=