2016

01/16

伝染性紅斑

  • 感染症

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内藤 博敬
静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科/大学院食品栄養環境科学研究院、助教。静岡理工科大学、非常勤講師。湘南看護専門学校、非常勤講師。

ドクターズプラザ2016年1月号掲載

微生物・感染症講座(50)

リンゴ病はウイルス性疾患!?

はじめに

2015年の感染症動向を振り返ってみると、ここ数年増加の一途をたどっているRSウイルスに加え、伝染性紅斑、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎が例年と比べて流行しました。また、流行性角結膜炎は2005年、2006年とよく似た流行が、手足口病においては2011年、2013年と同様の報告ピークが見られました。今回はこの中から、これまでに取り上げたことのない「伝染性紅斑」について紹介したいと思います。

リンゴ病の原因はウイルスだった!

「伝染性紅斑」という病気を聞いたことがありますか? 聞き慣れない方でも、「リンゴ病」という名前は聞いたことがあるのではないでしょうか。伝染性紅斑は、主として小児に見られる流行性発疹性疾患で、両頬がリンゴのように赤くなることから「リンゴ病」あるいは「ほっぺ病」「ビンタ病」と呼ばれることがあります。この原因がヒトパルボイウイルスB 19(注)であると判明したのは今から30年ほど前のことで、その後の研究によって不顕性感染や非定型例など臨床像も多彩にあることが分かってきました。

リンゴ病の名前から寒い時期に流行する印象がありますが、報告データからすると流行のあった年では冬から夏にかけて増加し、初秋に激減しています。2015年も秋に減少が見られたものの、11月から急激に増加しており、このまま増加すると今年の夏に向けて大流行する可能性が危惧されているのです。とはいえ、ヒトパルボイウイルスB 19は比較的感染力の弱いウイルスなので、インフルエンザのような短期間での世界的大流行(パンデミック)は起こしません。感染経路はインフルエンザと同じような飛沫感染で、まだ症状の出ていない潜伏期間中でも飛沫によって拡散するため、保育園、幼稚園や小学校で稀に集団感染が起こり、地域で流行(エンデミック)することがあります。

日本では子供の頃にこのウイルスに感染して免疫を獲得している成人が50%以上いると考えられており、子供の集団での流行がほとんどです。子供がヒトパルボイウイルスB 19に感染すると、10〜20日の比較的長い潜伏期間を経て微熱や風邪様症状が現れます。ウイルス感染のピークはこの頃です。その後数日〜1週間程度すると頬に明確な紅い発疹が現れ、続いて手、足や全身にノコギリ状、網目状、レース状といった発疹が見られます。この時点ではウイルスの全身感染は終息していて、咳やくしゃみの中にもウイルスはほとんど見られません。成人に感染した場合には、紅斑ではなく関節痛や頭痛を訴え、痛みがひどい場合には歩くこともままならないことがあります。これらの症状は1週間程度で消失しますが、稀に長引いたり、一度消失した発疹が再発することがあります。

しかし、ヒトパルボイウイルスB19によって引き起こされる感染症は、合併症を起こしたり重症化する確率は極めて低く、ほとんどの場合で自然に回復します。ただし、妊娠中の母親から胎児に感染(母児感染)するウイルスであり、母親が免疫を獲得していたとしても胎児に移行して感染し、胎児水腫や流産の原因となることがあるため、妊娠中の御家族をお持ちの方は注意が必要です。ヒトパルボイウイルスB 19に対するワクチンは今のところ無く、伝染性紅斑に効果的な治療法もありません。また、前述したように紅斑が現れた時には既に感染の終息を迎えているため、紅斑が現れてから予防対策をしても効果は見込めません。残念ながら伝染性紅斑に特化した予防対策は無く、流行の動向に注意しながら、風邪やインフルエンザなどの経気道感染を起こす感染症の対策と同様の対策を行う必要があります。

ペットにはペットのパルボウイルス

パルボウイルス科はヒトに感染するウイルスの中では最も小さく、直径20nm(ナノメートル)程度の正二十面体構造をしています。ヒト以外にも動物に感染するパルボウイルス属が知られていますが、イヌには犬パルボウイルス、ネコには猫パルボウイルスが存在し、これらはペットへのワクチン接種で対策が可能です。また、ウシにも牛パルボウイルスが存在しますが、これはパルボウイルス科ボカウイルス属のウイルスです。これらのウイルスは今のところヒトへの感染報告はありませんが、ボカウイルス属にもヒトに感染するヒトボカウイルスが2005年にスウェーデンで小児の気道感染症患者から見つかり、2006年には日本でも患者が見つかっています。ペットや子供にとっての脅威となる小さな敵を、しっかりと予防していきましょう。

 

(注)正式な分類は、パルボウイルス科パルボウイルス亜科エリスロウイルス属のウイルスであるため、「エリスロウイルスB 19」が正式名称である。

 

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