2024

11/07

伝染性紅斑(りんご病)

  • 感染症

内藤 博敬
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 教授
日本医療・環境オゾン学会 副会長
日本機能水学会 理事

新微生物・感染症講座 (16)

冬に流行しやすいりんご病

今年はラニーニャ現象の影響が強く、夏は猛暑でしたがこれからは極寒の冬になることが予想されます。空気が乾燥して気温が下がる冬季には呼吸器疾患が流行しやすいため、マスクや手洗い・うがいでしっかりと予防する必要があります。呼吸器に感染する病原体は、肺炎球菌などの細菌や真菌もありますが、インフルエンザやコロナなどのウイルスを原因とした感染症が数多く知られています。今回は、夏の終わりに関東で季節外れの患者数増加が報じられた伝染性紅斑(りんご病)について解説したいと思います。

伝染性紅斑とは

伝染性紅斑(Erythema infectiosum)は、冬季に小児でよく見られる感染症として古くから知られていました。伝染性紅斑の原因となる病原体は長い間不明でしたが、1983年にヒトパルボウイルスB19(human parvovirus B19:HPV B19)との関係性が指摘され、現在ではこのHPV B19を原因とする感染症であることが明らかとなっています。

伝染性紅斑は、その名の通り赤い発疹がヒトからヒトへと伝染する感染症です。「斑」はぶち、まだらとも読み、伝染性紅斑では赤と皮膚の色がまだらになる蝶翼状の紅斑が特徴的な症状とされています。かつての日本では「第5病」と呼ばれていた感染症で(注)、小児の両頬が赤くなることから「りんご病」あるいは「ほっぺ病」と現在では呼ばれています。日本では愛らしい呼称で呼ばれていますが、欧米では、Slapped cheek disease(ビンタした頬病)と、なんとも痛々しい名前が付けられています。

伝染性紅斑は子供の感染症?

伝染性紅斑は、感染症法で5類の定点把握対象疾患に分類されており、約3000カ所の小児科医療機関からの感染報告を感染症発生動向調査として集計しています。RSウイルス感染症、A群溶連菌咽頭炎、咽頭結膜熱、水痘、手足口病、突発性発疹など、伝染性紅斑と同様に小児での感染が多い感染症は、感染症法類型の5類の中でも小児科定点把握疾病として、病院が小児の感染者数を保健所に報告し、集計が報告される疾患となっているのです。そのため、成人の伝染性紅斑感染の発生動向についてはデータが無いため不明です。しかし、医療従事者の院内感染や、医療系大学、専修学校で学生の集団感染が報告されていることから、成人にも感染する感染症です。

伝染性紅斑の症状と治療

伝染性紅斑の感染報告は、5~9歳で最も多く、次いで0~4歳となっています。伝染性紅斑の病原体であるHPV B19は、感染者の飛沫あるいは接触感染によって、主に赤芽球前駆細胞(赤血球になる前の細胞)に感染します。HPV B19の潜伏期間は10~20日ほどで、小児では頬に特徴的な赤い発疹(蝶翼状)が出現し、次いで腕や足あるいは腹や背中に網目状(レ−ス状、環状)の発疹が現れます。実は発疹が出現するのは感染の後期で、この時点ではウイルスの排泄量が少なくなっています。発疹が出現する7~10日ほど前に微熱など風邪様の感冒症状が現れる場合があり、その頃が感染のピークで血液中にも広がっており、最もウイルスの排泄が多くなります。ウイルス感染症であるためHPV B19に特異的な治療薬は無く、ワクチンも開発されていませんが、合併症を起こすことなく自然治癒する場合がほとんどです。

成人では症状の出ない不顕性感染が多く、発疹の出現も小児と比べて低いですが、関節痛や頭痛を起こし、ひどい場合には関節の炎症によって歩行困難になる場合も報告されています。とはいえ、小児同様に自然治癒する場合がほとんどです。そのため、かつて伝染性紅斑は異型の風疹とされていました。英国では、風疹と診断された成人の半数がHPV B19の感染であったとする報告もあり、特に成人では風疹との区別が難しい感染症です。

今年は伝染性紅斑の流行年?

感染症発生動向調査によると、1987年、1992年、1997年、2001年、2007年、2011年、2015年、2018年に伝染性紅斑の流行が確認されており、およそ4~6年ごとに流行する感染症と考えられています。感染症の流行周期については不明な事も多いため確実な予測は難しいですが、伝染性紅斑は前回の流行から今年が6年目で、既に夏の終わりに神奈川県を中心として関東で流行が確認されており、今年の冬に大きな流行が起こる可能性があります。

今年は9月のコラムで書いた通りマイコプラズマも流行の周期に当たっているため、インフルエンザやコロナウイルス感染症も含めて、呼吸器感染症の流行には注意が必要です。マスク、手洗い、うがいなど、感染予防に努めましょう。

(注)伝染性紅斑は感染症法類型の5類に含まれているが、感染症法のできる前から知られている感染症であり、この類型とは関係ない。発疹を起こす主要な疾患として、麻しん(第1病)、溶連菌感染症[猩紅熱](第2病)、風疹(第3病)などとともにナンバリングされていた。

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