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人生の岐路でどう選択するか その6

診療日誌

灰本 元
医療法人芍薬会 灰本クリニック院長
ドクターズプラザ2021年5月号掲載

診療日誌(最終回)

出会いが岐路を創り、進化する

人生の岐路は5〜7年に1回必ず私の前に現れた。そして、その背景に必ず鍵となる人物がいた。私はどこかに面白い人はいないか、いつも探している。探しているから出会うのであって、運だけでは出会えない。

内科医の私は外科医が頼りだ。特にがんではそうだ。外科医への紹介は400mリレーのバトンに似ている。何とか全部取り切ってくれ、そう祈りながら患者というバトンを渡す。私は県内で一番の技術と性格も優れた外科医を探すのに腐心してきた。必ず会いに行き、患者からの印象を聞き、回答書から学習し、彼らを何度も値踏みし、私も彼らから値踏みされ、次第に個人的に親しくなっていった。試行錯誤の末、肺がんはA大学病院D先生、大腸がんはB大学病院のE先生、肝胆膵がんはF先生、胃がんはがんセンターのG先生、泌尿器系がんはC病院のH先生である。常に人にエネルギーを注ぎ、人を求めているなら運命的な出会いは必ず起こるものだ。

岐路は突然、登場することもある。60歳の時、長時間の座位がたたって腰痛と肩こりが診療の集中力を落としていた。漢方仲間のリハビリ専門医I先生を頼り、理学療法士や作業療法士らの治療を受けてみた。それは内科とは別世界だった。彼らはたった1回で私の右股関節、足関節、第3、4胸椎に弱点を見いだしたのだ。遊びで始めたバトミントンのぎこちない打ち方もこれが原因だった。これだ! リハビリと出会った時の感動は糖質制限食の時とよく似ていた。人間ドックならぬ骨筋関節ドックがあっても良い。中年期から骨筋関節の弱点にリハビリを導入すれば20年後の骨折やフレイルは防げるのではないか。当院の管理栄養士が精力的に取り組んでいるがん、肺気腫、心不全患者の体重を増やす食事指導にリハビリを加えると、患者はもっと生きがいを感じ予後も延びるのではないか。

幸いにしてコツコツとお金を貯めては買い足した470坪の土地が道路向かいにあった。前代未聞だが、内科領域(がん術後・化学療法後、心不全、慢性呼吸器疾患、高次機能障害など)の外来リハビリ施設を作ろう。しかし、リハビリの専門医が必要だ。諦めかけた数年後、学生の時から当院に出入りしていたJ先生が私の診療を毎週見学に来た。J先生はアメリカで小児救急に携わった気鋭の医師だが、日本の小児科の現状に不満だった。私は彼に内科・リハビリ科への転向を提案し、彼はこの荒唐無稽とも思える提案に乗ってくれた。理学・作業療法士との出会い、J先生との再会によって導かれるように私の内科診療に運動療法という新しい治療法が加わることになった。

私は68歳になった。顧みるとなんと多くの人たちと出会ったものか。その中で大きな影響を受けた人たちがいる。16歳の時に出会った無二の親友K君とは時を忘れるほど長い時間を語り合った。高校卒業時、どうしても離れるのがつらかったので、山口県から名古屋の同じ大学へ進学した。そこで出会った文学者のL先生は私たちにものの見方、考え方の基本を徹底的に鍛えてくれた。L先生は20年以上前に鬼籍に入り、K君は神経難病を患い植物状態となっている。自分が何者かも分からぬ10代にこの二人と出会ったことが私の幹を育て原点となった。このコラムを書くにあたり何度も人生を振り返ることになったが、そのたびにこの二人に行き着く。生きる意味を考え抜いた若かったあのころに行き着くのだ。私は今も糖質制限食による糖尿病治療の臨床研究に取り組み、毎年英論文を書いている。それも30代に自然科学を骨の髄まで仕込んでくれた生化学のM先生、50歳で出会った疫学・統計学のN先生なしにはあり得ない。M先生も昨年鬼籍に入った。私の40代から経方医学を伝授してくれたO先生は京都で開業していたので頻繁に勉強に行くことができた。O先生は独力で世界の漢方界に革命を起こした。2000年を越える漢方の歴史の中でO先生と同じ時代を生きたのはまさに奇跡だ。その先生も3年前に鬼籍に入った。彼らと語り合えないのはなんと寂しいことか。

私の守備範囲のがん、高血圧とゆるやかな糖質制限食による糖尿病治療、それらを背景にした循環器疾患、漢方、臨床心理などを習熟して毎日の臨床に生かすために多くの勉強会を創設して仲間と一緒に勉強した。私の生き方は異端で型破りにもかかわらず、実に個性豊かな医師や医療従事者がたくさん集まってくれた。その多くは私より15〜25歳も若い人たちで、彼らを鼓舞し、彼らから新しい知識や技術を学びながら私は時代に取り残されず進化したと思う。数年後にはリハビリも組み込み、研修医時代に志した“人の全体像を知りたい”という目的地へ近づいている。これまでの航跡を振り返ると、うまくいかなかった思い出に胸がざわつき、そして、よくぞこんな私を支えてくれた、私の厳しい要求に応えてくれた、彼らへ感謝の気持ちで胸が熱くなる。

ドクターズプラザ2021年5月号掲載

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