2017

01/16

ヒトメタニューモウイルス(hMPV)

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
社会福祉法人北海道社会事業協会小樽病院 外科

ドクターズプラザ2017年1月号掲載

地域医療・北海道(24)

地方病院での病院外での感染対策事例

近隣の福祉施設でアウトブレイク発生

近年、高齢者施設での集団感染に関する報道を耳にすることがしばしばあるかと思います。当院の近隣にある施設も例外ではなく、当院の外来を受診した近隣の福祉施設の入所者が、ごく短期間に5人の新規ヒトメタニューモウイルス(以下、hMPV)感染を認め、その福祉施設内でのhMPV感染のアウトブレイク(※1)発生が分かりました。hMPV陽性患者全員が続発性肺炎となり4人が入院加療となりました。ブレイクした近隣の福祉施設は、当院への外来通院患者数と入院患者数ともにこの地域では一番多い福祉施設だったので、hMPVアウトブレイクは、その施設だけにとどまらず当院でのアウトブレイクをも引き起こす可能性がかなり高いと考えられました。

そのため、当院インフェクションコントロールチーム(以下、ICT※2)は福祉施設におけるhMPV感染アウトブレイクに対し早期の収束を目的として感染対策に介入しました。

介入で分かった問題点

その施設に実際に当院のICTメンバーが訪問し環境ラウンドを行ったところ、①手指消毒材(噴霧式の手指専用アルコール消毒材)が全く設置されていないこと、②手洗い用の石鹸が固形石鹸で共有であること、③常に施設は満床で通常の隔離が非常に困難であること、④スタッフへの指導が具体的ではなく感染対策に実効性がないことが問題点として挙げられました。そこで、改善に向けてラウンド後に看護師を中心とした担当職員と話し合いをした結果、次の四つの対策を行うことになりました。

①施設の利用者さんが間違って消毒剤を飲んでしまう危険があり部屋ごとに設置できないということがあったので、手指消毒剤は介護スタッフそれぞれが個人持ちすること。

②手洗い用の石鹸は液体石鹸へ変更。

③感染対策はそれぞれ具体的に担当看護師が担当介護スタッフに指示すること。

④隔離する空き部屋はほとんど存在しないため、隔離はコホート隔離(部屋から動かさない)とし、室内はそれぞれの利用者さんをカーテンで仕切って隔離すること。

今回は、当院のICTの施設への介入と施設スタッフの迅速な対応で比較的早期にhMPVのアウトブレイクは収束し、当院においてもアウトブレイクは起きませんでした。当院のように地方の病院では、都会に比べ近隣の福祉施設とは医療サービスを通じて非常に密な関係にあります。そのため、今回のように近隣の福祉施設での感染対策上の問題は、そのまま地方病院での感染対策の問題となり得ます。田舎であればあるほど、密な関係にある福祉施設の利用者さんが重症化した場合には同じ病院に患者が集まることが多いので、常に連携し、必要な時は早期に介入できる良い関係を築いておくことが必要だと思います。今回はその良い関係があったため、うまく収まったと思います。

■hMPV

〔概要〕hMPVは、乳幼児の感染症として知られており、小児のウイルスによる呼吸器感染症の5〜10%がhMPVによるものと考えられています。多くは、一週間程度で臨床症状は改善します。成人においてもウイルスによる呼吸器感染症の2〜4%が、hMPVが原因と報告されています。年長児、健康成人は上気道感染症(いわゆる普通の風邪)であると推測されますが、乳幼児や高齢者は重症な下気道呼吸器感染症(細気管支炎、喘息様気管支炎、肺炎など)が疑われます。今後、乳幼児だけでなく成人の急性呼吸器感染症の原因ウイルスとして重要な位置を占めるものと予想され、特に院内感染、老人施設での集団感染にも注意が必要です。実際、老人福祉施設でのアウトブレイクの報告は増えてきています。

《症状》発熱、咳嗽、鼻汁であり、そのほかに呼吸困難、嘔吐、下痢、頭痛も認めることがあります。

《流行時期》日本においては3〜6月の限られた時期であるといわれています。ただし、夏にも検出される症例もあり通年性に存在する可能性があります。

※1アウトブレイク…短時間の間にある集団で同じ感染症が多数に発生することです。例として福祉施設内でのノロウイルスの集団感染があります。

※2当院の感染対策チーム(ICT)は、インフェクションコントロールドクター(筆者)、臨床検査技師、看護師、臨床工学技師、作業療法士、事務で構成されています。役割は感染対策の実働部隊として活動しています。院内では手洗い講習などの感染対策講習、アウトブレイク発生時の迅速対応、そして、最近は院外にも活動を広げ、幼稚園や保育所、福祉施設などに出張講習を行ったりもしています。

フォントサイズ-+=